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![]() 新潟県中越地震時間との闘いを制す 〜JR上越線榎峠・新榎峠トンネルと天王トンネルの復旧〜 2004年10月23日夕に発生した新潟県中越地震から半年余。 寸断されたライフラインはほぼ復旧した。その中で最難関工事になったのがJR上越線榎峠(下り線)・新榎峠(上り線)トンネルと天王トンネルである。当社は北陸支店を中心に,本社土木管理本部,技術研究所,土木設計本部,機械部,土木営業本部,東北・東京・横浜・関東・名古屋・関西支店などの総力を結集。的確な対応と迅速な施工が住民や関係者の高い評価を得た。時間との闘いを制した北陸支店の頑張りを中心に復旧工事を振り返った。 |
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榎峠・新榎峠トンネル 「早急に上越線榎峠(小千谷市浦柄―長岡市妙見)について,復旧を前提とした調査に当たってもらいたい」。JR東日本上信越工事事務所から災害復旧の協力要請があったのは,地震発生の翌日だった。 余震が続く中での調査の結果,榎峠トンネル高崎側坑口の真上地山が崩落(岩盤すべり)し,坑口は大量の崩落土砂で埋もれた状況にあった。崩壊は規模を拡大しており,緊急性とともに高度の技術力が求められた。 隣接する新榎峠トンネルでも坑口部21m区間で約15cmの覆工のずれが見つかった。地震動による影響,岩盤すべりによる偏土圧の作用,上部地山の崩落に伴うトンネル背面地山の緩みなどで覆工に変状が発生したものと考えられた。 工事は新榎峠トンネルが先行した。着工は11月9日。年内単線開通がJRの目標だった。他支店などからの応援部隊を含め現場要員は約100人。タイトな作業日程に対応するため,工事は24時間体制で進められた。作業は高崎側坑口の覆工打ち替えと落石防護対策・覆工クラック補修が中心となった。 覆工クラック補修562m,覆工漏水箇所導水樋設置75ヵ所のほか,坑口部内面補修,覆工打ち替え(ウレタン注入やコンクリート吹付けなど),鋼製落石覆い工,落石防護柵,土石流センサー設置などを行って,12月16日に引渡しを完了。27日単線開通に漕ぎ着けた。 榎峠トンネルは12月15日着工した。開通目標は翌2005年3月末である。高崎側坑口は,急斜面にバックホーを上げて崩落土砂を除去した後,のり面工(モルタル吹付け,ロックネット,ロックボルト補強),明かり巻き(RC造落石覆い),鋼製落石覆いなどの落石防止対策を施した。明かり巻き設置により,7m差があった上り線坑口の位置が並んだ。これにより工事途中の崩落による危険が回避できた。 このほか漏水対策やクラック補修,断面修復,樹脂塗布などによるトンネル坑内補修,雪崩覆いなどの急速施工を行い,3月25日上下線の開通を実現。時間と雪との闘いを制した。復興に向けた取組みが進む地域住民の利便性と貨物輸送実績は大幅に向上した。現在も斜面の安定化工事を継続している。 榎峠トンネル崩落現場は,県道(小千谷長岡線)を走行中の乗用車の母子を巻き込んだ浦柄地区の斜面崩落個所と隣接している。その無人化施工の実施にも当社の雲仙普賢岳などで積み重ねた技術と経験が緊急時に活かされた。 |
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新榎峠トンネル
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榎峠トンネル
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難しい工事が予想されたので,過去に豊富な経験と総合的な土木技術のノウハウを持つ鹿島さんにお願いしました。 工事の過程で問題点が見つかると,再検討を余儀なくされるわけですが,昼夜全力で施工してくれている皆さんにお願いするのは忍びなかった。でも1日も早く開通させるのが私たちの使命。そんな無理にもよく応えてくれました。 上越線の単線開通の日,私は新幹線開通のチェックをしていて立ち会えなかった。しかし試運転列車が通過していく写真を見て,よく頑張ってくれた,と感無量の気持ちでした。それはJRの人間だけでなく,施工者の全員に対してです。写真の現場は雪が降り始めていましたが,雪が降り出す前に復旧をという願いは叶ったのです。 今度の工事を通じて,改めて双方の信頼関係の重要性を痛感しました。それは理屈でもない,契約関係といったものでもありません。相互の信頼があったからこそ,無理な要求にも徹夜を厭わずやっていただけたのだと思います。これからもこの信頼関係を大切にしていきたいと願っています。 |
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天王トンネル 天王トンネル(川口町天納) は榎峠トンネルの東京方約5kmの信濃川右岸にある。切土して拡幅した下り線の雪崩覆い北側出口が下部ののり面保護工とともに70〜80m崩落。土砂量は約1万m3にも及んだ。上部に平行する国道17号線にも亀裂が発生していた。 災害復旧要請は榎峠トンネルよりも後だったが工事は先行した。11月1日計画立案に着手,10日に工事を開始した。トンネル(上り線)は通常の復旧工法では工期が長くなるため,覆工表面を薄く切削し,高靭性コンクリート吹き付けによる補修・補強工法(マジカルショット)を提案,了承された。崩落のり面の復旧工法は,グラウンドアンカーとJRの開発した3R補強土盛土である。ピーク時は200人以上が作業に従事することになった。 年明けから雪崩止め柵の施工を開始。19年振りの豪雪に見舞われた後は,毎朝3時間を除雪に当てるタイトな工程を強いられた。 上り線は新榎峠トンネルと同じ12月27日に,下り線は3月25日開通した。 |
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工事概要 |
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工事名:上越線小千谷・越後滝谷間榎峠T他災害応急(中越地震) 場所:新潟県小千谷市 発注者:東日本旅客鉄道株式会社 規模:トンネル補修1,372m 落石覆い12m 工期:2004年11月9日〜2005年2月10日 工事名:小千谷・越後滝谷間227k500m付近のり面災害応急・復旧(中越地震) 場所:新潟県小千谷市 発注者:東日本旅客鉄道株式会社 規模:トンネル補修1,000m 落石覆い12.3m のり面補修2,000m2 工期:2004年12月15日〜2005年9月3日 工事名:上越線越後川口・小千谷間天王トンネル災害応急(中越地震) 場所:新潟県北魚沼郡川口町 発注者:東日本旅客鉄道株式会社 規模:トンネル補修285m 補強盛土1,800m3 工期:2004年11月1日〜2005年3月20日 |
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当社が携わったその他の主な新潟県中越地震復旧工事は次の通りである。 ▽ 国交省 妙見堰通信鉄塔撤去・堰本体復旧工事 ▽ 国交省 国道291号線復旧工事 ▽ 新潟県 県道小千谷長岡線崩落土砂除去工事 (無人化施工による遺体収容の進入路設置) ▽ JR東日本 浅河原調整池本体復旧工事 ▽ 帝国石油 親沢・越路原プラント・新長岡ライン復旧工事 ▽ 当社施工建築物復旧工事 |
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新榎峠トンネル現場所長を務めた 松本信康・横浜支店土木部土木工事部長 支店にいて直ぐ動ける立場だったので急行できた。トンネル内の余震は怖かったが,やがて慣れた。施工計画を練る時間もない状況だったので,現場のコミュニケーションを重視して乗り切った。機械や資材面など万全のバックアップ体制を敷いてくれた北陸支店に感謝している。無事故・無災害,工期内完成が達成でき,JR・地元の方々のお役に立てたことは技術者冥利につきる。今年は雪の降り出しが例年より2週間以上も遅く,天も味方してくれた。 |
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天王トンネル現場副所長を務めた 笠川雅章・北陸支店土木部工事工務グループ課長 年内開通(上り線)まで1ヵ月半で本当にできるのかと思った。断続的に続く余震は怖かった。年明け後は3mを超える積雪との闘いになった。グループ会社を含めた応援部隊は,俺が復旧させるんだ,という意気込みで工事に臨んでくれた。この頑張りが修羅場を乗り切る原動力だったと思う。他の支店でこのようなことがあれば(あっても困るが)恩返ししたい。開通時は全員で試験電車を迎えた。誰からともなく「万歳」の声があがった。 |
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榎峠トンネル復旧などの指揮を執った 松村夏樹・北陸支店次長兼土木部長 崩落が激しく工事着手が遅れたが,雪が降る前に危険が伴うのり面などの応急対策作業を終わらせたかった。目標貫徹に向けて一致団結した全員の献身に感謝したい。同時にJR東日本の協力体制や素早い決断が,私たちを勇気付けてくれた。早期開通への強い意欲を感じた。地元住民の皆さんはいまもなお復興に取り組んでいる。これからもお役に立てればと思っている。 |
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県道浦柄地区土砂崩れで無人化施工の現場所長を務めた 工藤一磨・北陸支店副支店長 雲仙普賢岳などで無人化施工の経験がある札幌支店・青野隆機電課長の貢献が大きかった。明るくなり始める午前6時半には作業を始め,オペレーターを交代制にし,現場を継続させ,最速を目指した。女児の遺体を一刻も早く収容してあげたい一心だった。国交省北陸地方整備局の適切な技術的指導と新潟県,県警察のバックアップに感謝している。緊張した7日間の経験だった。 |
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