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空港大橋右岸側下部工事
急峻な地形でインクラインが大活躍

広島県の臨空都市圏北部地域の大動脈として建設されている広島中央フライトロード。 ここに架設される空港大橋(仮称)では,平均勾配38度という勾配のきつい山の斜面に, 資機材や作業員を運搬するために設置された2つのインクライン設備が活躍している。 渓谷の右岸側下部工を施工している現場を訪れた。

地図

工事概要
場所:広島県豊田郡本郷町
発注者:広島県
設計:広島県東広島地域事務所
規模:作業構台5ヵ所,インクライン設備2ヵ所,
掘削工38,000m3,法面工5,000m2,深礎杭工26本,
拱台工1基,橋脚6基,橋脚基礎5基他
工期:1997年12月〜2004年3月
(広島支店JV施工)

左岸側下部工(清水JV)から右岸の当社現場をのぞむ 完成予想パース
左岸側下部工(清水JV)から右岸の当社現場をのぞむ
完成予想パース。空港大橋は,完成すると橋長800m,アーチスパン380m,最高地上高190mと,鋼アーチ橋では東洋随一の規模を誇る


 広島空港を降りて車に乗り換え約10分。なだらかな山並みの間を流れる沼田川に沿って進むと,前方の山肌を大きく切り開いた施工中の現場が見えてきた。
 急峻な斜面に橋脚6基とアーチを支える拱台などを構築する当工事では,橋脚の隣に重機や資機材を置く仮設の作業構台を5ヵ所設ける必要があった。インクラインは,重機などの運搬や,掘削残土の搬出,コンクリート搬入の役割を担っている。
 ゲートに入り,進入路から一番下の構台の上に出る。ここで車を降り,No.1インクラインに載った。内部は大型の重機が悠々と1台載せることができるスペースが確保されていた。見上げると遥か上方,山の中腹まで鉄骨架台が組まれている。架台の上にはレールが敷かれており,その上に載った荷台がロープの巻上げで上昇する仕組みとなっている。

工事概要図
工事概要図


 作業員の操作により動き出した。途中,橋脚の躯体工事が進む現場の脇を想像していたより速いスピードでかけ上がっていく。約3分で標高160m にある構台に到着した。そこでNo.2インクラインに乗り換え,標高200mの最上段の構台に着いた。
 ここから遠くの山並みを見渡すことができた。走ってきた道路や,川の脇を走るJR山陽本線が豆粒のように小さく見える。真下に目をやると,橋脚の基礎となる杭工事やコンクリート打設の準備が進められていた。作業員は各々の作業を黙々とこなし,インクラインを用いて重機や鉄筋などをスムーズに移動させている。人・ものが効率的に動いており,まさに現場の生命線としてインクラインが活躍していた。

33度の勾配を3分で上下するNo.2インクライン
33度の勾配を3分で上下するNo.2インクライン。荷台寸法は幅8m,長さ12mで30tの積載能力を持つ


 しかし,二つのインクラインが稼動したのは,着工後,3年を経てからだったという。それまでは,勾配が最大80度にも達する斜面を階段で上り下りしなければならなかった。日常使用する資材は,一畳にも満たない工事用モノレールの荷台に載せて運び上げていた。小型の重機などはヘリコプターで分割して運び,山の中腹で組み立てた。
 人跡のかけらもない山の斜面に,インクラインを構築するのは困難を極めたという。高低差230mを超える斜面には,人の背丈よりも大きい5〜10tの岩が数十メートルにわたり積み重なった場所があり,いつ転がってくるか分からなかった。そのため一つ一つに番号を付け,危険度を判定し,撤去や破砕を繰り返した。ワイヤーで岩を固定させ,モルタルを吹付けてから工事にとりかかった。

インクラインの鉄骨架台。上方には荷台が見える 5〜10tの岩が積み重なる斜面もあった
インクラインの鉄骨架台。上方には荷台が見える
5〜10tの岩が積み重なる斜面もあった


 現場の戸所所長は,「徒歩だと最上部まで20〜30分かかりました。前任の前原所長をはじめ,工事初期に携わった社員,作業員の苦労は計り知れません。多くの工事関係者の努力を無駄にしないためにも,無事に完成させたいです」と意気込みを語る。これから6基の橋脚は,順々に立ち上がり,2004年3月には最高89.5mの日本で3番目の高さを誇る橋脚が姿を現す。

ヘリコプターでの重機運搬 資機材を運搬した工事用モノレール
ヘリコプターでの重機運搬
資機材を運搬した工事用モノレール

勾配のきつい仮設階段が続く 戸所所長
勾配のきつい仮設階段が続く
戸所所長