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RC造による超高層集合住宅
RC造による超高層を建設する工法にHiRC工法がある。超高層建築というとS造のイメージが大きいが,近年,都心のマンションブームを背景にRC造による超高層マンションが急増している。今月は,HiRC工法の開発の歴史と発展を紹介する。

HiRC工法の歴史と発展

30年前から建設技術を開発
 昨年の当社の調べによると,地上20階を超えるRC造の建物は,全国で約300棟。今日,多くの建設会社がRC造による超高層建築を手がけるようになっている。この超高層RCを建設する技術は,もともとは当社の手により生み出され,普及したものである。
 そもそもRC造による建築は,コンクリートや鉄筋といった手軽な材料でつくられるため,経済的な構造物である。また,建物の自重が重く,風揺れが少ないので,住宅の用途として最適である。現在,超高層RCの大半が集合住宅として建設されるのは,このことからきている。
 しかし,剛性が高いRC造は,高層になると地震に弱く,日本では7階以上は不可能とされていた。たとえ耐震性を克服できても,現場作業が複雑で高品質を確保することが難しかった。その上,建物の自重を支えるため,高層になると下層の柱や梁を太くする必要もあった。
 当社では,1969年,地震に強い超高層RCの実現を目指し,「超高層RC研究会」を発足させた。その頃,たまたま椎名町社宅の新築計画があり,これを20階建のRC造で建設することを目標に掲げた。そして,当社の技術研究所を中心に100件以上の構造実験や材料施工実験を開始した。

超高層RCの先駆けとなった椎名町アパート
 超高層RCの開発にあたっては,S造による超高層建築で培われた動的解析法など,当時の最先端のコンピュータによる構造解析技術を駆使して行った。そしてRC柱の鉄筋の組み方を独自に開発し,建物がS造のように,地震に対してしなやかな動きをとる柔構造とすることに成功した。この柱は,カジマスパイラル柱と呼ばれ,今日の超高層RC柱の配筋にも活かされている。
 また施工面では,経済的かつ合理的な施工システムを考案した。「現場を工場にする」というキャッチフレーズのもと,施工の合理化を徹底的に追求した。柱や梁に入る鉄筋はプレハブ化を行い,床をつくる型枠はユニット化,パネル化を図り,工期を短縮,省力化を促進した。柱,梁,床を構成する鉄筋コンクリートは,垂直・水平に分割打設する方法により,高品質を確保することができた。
 こうした新しい技術を導入することで,椎名町アパートは1974年に竣工した。当社はこのRC造による超高層建築を,最先端の技術で完成させたことで,日本における超高層RCのパイオニアとなった。ここで開発した技術の多くは,今日の超高層RCだけでなく,様々な分野での建設にも脈々と活かされている。

椎名町アパート(1974年竣工)
椎名町アパート(1974年竣工)。実際は近隣などへの配慮から18階建となった

材料の発達が促した高層化
 1985年,25階建てのグラントハイツ光が丘(東京都練馬区)が,住宅・都市整備公団(当時)による性能発注方式でHiRC工法に決定したのを契機に,高層RCブームに火がついた。そして,土地を有効に活用できる超高層RCの建設に各社も競って参入した。
 それから,各社による開発競争が激しく行われ,建物の品質が著しく向上していく。一方,コンクリートや鉄筋の高強度化は,建物の一層の高層化を可能とした。柱や梁などの部材は細く,スパンは長くなり,居住空間にゆとりが出てきた。
 1991年,当社は更なる高層化を目指し,「NewHiRC工法開発研究会」を発足させた。既存のHiRC工法をベースに,材料の一層の高強度化と設計・施工の合理化を行い,45階建てのザ・シーン城北(名古屋市北区)を1996年に完成させた。
 こうして建設材料が発達する一方,施工方法もますます合理化する。その中でも1990年代から各社で積極的に導入されたプレキャストコンクリート化(PCa化)は,柱や梁などの部材を工場などで製作し,現場で組立てるという画期的な技術であった。現場でコンクリートを打設する手間が省け,品質や安全性の向上にも貢献した。今日の超高層RCの建設では,このPCa化により1フロアを3日で建設することも可能となった。

多様化・複雑化するニーズに対応
 近年,集合住宅に対するニーズは,ますます複雑化,多様化していく方向にある。都心回帰や環境問題における意識の高まりから,集合住宅を長期保有する資産と捉え,建物の長寿命化についての取組みも重要となってきた。
 このような時代の流れのなかで,当社は,柱と梁がジャングルジムのように規則的に並んだ従来の架構から,新たなRC造の概念を打ち出している。それは,将来の家族構成やライフスタイルの変化に合わせて,間取りや空間を自由に変更できる「超高層フリープランハウジング」である。昨年,完成した25階建ての芝パーク・タワー(東京都港区)では,当社が1996年に開発した「スーパーRCフレーム構法」を本格的に採用し,柱や梁のない開放的な居住空間を実現した。
 当社は,このスーパーRCフレーム構法を始めとする様々な超高層フリープランハウジングを実現するメニューを取り揃えており,今後,集合住宅の建設で積極的に採用していく。そして集合住宅に限らず,オフィスビルやホテルなどへの展開を図り,超高層RCの更なる発展と普及を目指していく。
材料の発達が促した高層化 Pca化による施工状況
  Pca化による施工状況。柱を積み木のように組立てていく

超高層RCを実現した様々な技術
椎名町アパートの完成から10年。超高層RCを建設するHiRC工法は,着実に磨きをかけ,当社の代表的な技術として育った。1985年,住宅・都市整備公団(当時)の発注により,当社が東京豊島区の光が丘パークタウンに建設したグラントハイツ光が丘では,地上25階建,延べ26,000m2の集合住宅を1フロア6日というスピードで施工し,約18ヶ月という短工期で完成させることができた。
グラントハイツ光が丘(1987年竣工)
グラントハイツ光が丘(1987年竣工)
カジマスパイラル柱の取り付け
カジマスパイラル柱の取り付け
床をつくる大型型枠の吊込み
床をつくる大型型枠の吊込み
梁のプレハブ鉄筋の据付け
梁のプレハブ鉄筋の据付け
柱のコンクリート打設
柱のコンクリート打設
 


超高層フリープランハウジングを実現する「スーパーRCフレーム構法」
当社が開発した「スーパーRCフレーム構法」は,建物に必要な構造要素を,建物中心部の壁柱「スーパーウォール」と,最上の大きな梁「スーパービーム」,外周部の「コネクティング柱」に集約することで,飛躍的に自由度の高いプランニングを可能とした。昨年6月に完成した芝パーク・タワーでは,1フロア50本程度の柱が必要なところ,中央のスーパーウォールに柱を集約させ,外周18本に抑えることができた。これにより,室内の柱や梁を一切なくすことができ,2層吹き抜けのメゾネットタイプも実現した。 スーパーRCフレーム構法
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芝パーク・タワー(2001年竣工)
芝パーク・タワー(2001年竣工)
柱,梁が無くなった居住空間
柱,梁が無くなった居住空間