特集:つくばエクスプレスで行こう

南流山〜流山セントラルパーク間を走行するTX(写真提供:首都圏新都市交通)
――つくばから秋葉原へ
つくばと秋葉原をわずか45分で結ぶ「つくばエクスプレス(TX)」――
1994年の着工から11年を経た昨年8月に開業した。
東京,埼玉,千葉,茨城の4都県を20の駅で経由する新線は,首都圏北東部を生活圏とする人々にとって,すでになくてはならない足になったといえるだろう。
そして2006年。「秋葉原クロスフィールド」がグランドオープンし,それにともない,TXは日本が誇る2大研究都市を結ぶサイエンス・エクスプレスとして,類稀なるアイデンティティを獲得しようとしている。まちづくりと密接に関わりながら進化する新世代鉄道――。
今月の特集では,その可能性を探りに“TX途中下車の旅”に出る。
つくばエクスプレスで行こう
つくばエクスプレスで行こう
 国際性,先進性に秀でた日本最大の研究学園都市「つくば」と,駅前の再開発によって電気街から世界的なIT拠点へと変わりつつある「秋葉原」。約60km離れたこの2都市をTXは結ぶ。
 つくば〜秋葉原間の移動はこれまで,常磐自動車道を走る高速バスで65分,在来線の鉄道で85分かかっていた。しかしTXの最速列車ではそれが45分で済む。開業から半年経った現在,つくば駅を利用する人々は約1万人にもおよんでいる。
 このふたつの都市を結んだ効果は大きい。首都圏からの鉄路が開かれたことで,研究者の孤島となっていたつくばへの人の流れが変わった。昨年,相次いで行われた開通記念イベントでは,宇宙飛行士やノーベル賞を受賞した科学者が講演会やシンポジウムのために訪れたほか,週末になると,一般の科学ファンが専用バスを利用し,研究機関を巡る。
 さらに,秋葉原では3月9日,2003年から進められてきた再開発プロジェクト「秋葉原クロスフィールド」がグランドオープンを迎え,産学連携の一大IT研究の場として本格的に始動する。つくば〜秋葉原間での人材交流や情報交換が進めば,TX沿線で世界有数の科学振興ネットワークが形成される可能性は十分にあり得るだろう。
 一方で,このTX沿線では,新たな生活圏がかたちづくられている。都心まで最短45分という利便性をもち,筑波山に抱かれた豊かな自然の恩恵にあずかりながら,理想的な暮らしの輪が広がりつつあるのだ。新しい分譲住宅は続々と完売し,商業施設も次第に増えてきている。
 首都圏のライフスタイルに新たな可能性を感じさせるTX――。そのポテンシャルは未知数だ。
Take the "TX"

TSUKUBA発――科学のまちから
TSUKUBA発――科学のまちから
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 関東の名山・筑波山の麓に広がる筑波研究学園都市。そのはじまりは1963(昭和38)年にさかのぼる。都心の過密対策と科学技術の振興策から,国の試験研究機関を集中移転させることが決まり,過去40年間で2兆5,000億円あまりの建設費を投じて一大科学研究拠点が形成された。
 その間,筑波町をはじめとする5町1村が対等合併,合流を重ね,筑波研究学園都市は2002年に現在のつくば市となった。その面積は約2万8,400haにおよび,官民の試験研究・教育機関が集まる。1985年には,2,000万人以上の入場客を集めた国際科学技術博覧会(EXPO'85)が開かれ,「サイエンスシティTSUKUBA」の存在を世界へ強烈に印象づけた。
 このような研究都市としての側面に注目が集まる一方で,住環境のホスピタリティの高さはあまり知られていないようだ。中心部から少し離れると豊かな田園風景が拡がる。つくば市内には約180ヵ所の公園があり,緑豊かな散策地として多くの市民から愛されている。つくばを散策して感じるのは,市街地では自転車が通勤・通学の人々や買い物客の重要な交通機関となっていることだ。そのわけは,平坦で走りやすい地形と,中心市街地に完備されたペデストリアンデッキによるのだろう。
 安全かつコンパクトなつくば市は,TXの開通によってより住みやすい環境へと変わりつつある。都心からの人口の流入増加によって,沿線は次々と開拓され,住宅地がさらに拡大している。一大生活圏としてのつくば――ここに来れば「つくばブランド」ともいえる,21世紀型のライフスタイルに出会えるかもしれない。
interview 01
関東支店 柿間 彰 支店次長 柿間さんが営業マンとしてつくばに赴任したのは1985年。この20年間をつくばとともに歩んできた。TXの開業でようやくひと区切りついたという。つくばを愛した柿間さんは変わりゆく風景をどのように見てきたのだろうか。話を聞いた。

 私がつくばに赴任したころは,すでに49の国の研究・教育機関の移転が済んでいましたが,2,000万人以上が訪れた「EXPO'85」の開催で,とても活気づいていた時期でした。EXPO'85以降の民間企業誘致や住宅地の拡大を見込んで,リサーチと受注活動をはじめたのです。
 その同じ年にTXの計画が決定しました。当社でTX沿線の開発計画に関わったのは,私が最初だったのではないでしょうか。ただし,TXはごく初期のころだけで,その後はつくば地域の他のプロジェクトに関わることとなりました。とはいえ,これまで20年にわたってつくばのまちづくりの一翼を担ってきた私にとって,TX開通前の試乗会の案内状が届いたのは無上の喜びでした。初期に微力ながら活動していた営業マンを憶えていた方が,茨城県に推薦してくれたと聞きました。
 この20年でつくばは目を見張るような発展を遂げました。人口は5万人増の約20万人に達したと発表されていますし,何百戸と分譲したマンションも最近では即日完売と聞きました。
 赴任当時のつくばはまだ生活感や賑わいに欠けていて寂しい街でした。しかし今,あらためてつくばを歩くと,大通り沿いには様々な飲食店が並び,東京にもひけをとらない洒落た商業モールが賑わいを見せていて,20年前には想像もつかなかった風景が拡がっています。
 TX開業で,これからどのような人たちが移り住み,それによってどのようにまちが変わっていくのか,興味あるところです。つくばでの仕事を通して知己を得た多くの方々には感謝の気持ちでいっぱいです。つくばで得た私のこの貴重な財産を,今後,後輩たちに是非引継いでいきたいと願っております。

AKIHABARA着――世界的なITの要衝へ
秋葉原UDXを中心とした2km圏内図
TSUKUBA発――科学のまちから
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 最新技術を駆使したデジタル家電を求め,海外からの大勢の観光客がそぞろ歩く姿は,秋葉原ではすでに見慣れた光景である。秋葉原はいまや日本が誇る国際都市として独自の道を歩みはじめている。そんな躍動感溢れるこのまちに,次世代の新ビジネスを創造する世界的なIT拠点をめざすべく,新たな顔がお目見えした。それが「秋葉原クロスフィールド」である。
 「秋葉原クロスフィールド」は,東京都が秋葉原地区の開発にあたり,「電気街がもつ魅力や世界的知名度に支えられた集客力を活用し,IT関連産業の世界的な拠点を形成していく」ことを念頭に,「東京構想2000」,「秋葉原地区まちづくりガイドライン」を打ち出したことに端を発する。これにもとづき,東京都の公募による秋葉原駅前の都有地の売却が行われ,2002年2月,ダイビル,NTT都市開発,当社で構成されるUDXグループが当選。翌2003年には,「秋葉原クロスフィールド」が発足し,新しいまちづくりがスタートしたのだった。
 そして,昨年3月には「秋葉原ダイビル」がオープン。さらに今年3月9日の「秋葉原UDX」のオープンによって秋葉原クロスフィールドはグランドオープンを迎える。この2棟をコアとして,最先端の企業や大学が集中する一大IT拠点の誕生となる。
 2棟のオープンにはさまれるかたちでのデビューとなったTXは,「日本が誇る二大研究・教育拠点を結ぶ鉄道」という新たなアイデンティティをまとうこととなった。そして,つくば〜秋葉原間で今後進むであろう人材交流,情報交換に世界的な注目が集まる。石原慎太郎・東京都知事が「IT立国・日本を象徴する画期的な出来事」と語るように,この2都市は,日本がこれからの世界的なIT競争を勝ち抜くための要衝として期待を背負う。「秋葉原クロスフィールド」はその鍵を握る。
「秋葉原クロスフィールド」周辺の空撮


秋葉原UDX


 「Cultural Generator(文化的発電装置)」をコンセプトに掲げた,秋葉原の新たなビジネススタイルを創造する複合型オフィスビルである。ここにはIT拠点ならではの先進性を備えるオフィス機能と,まちに一層の賑わいをもたらす集客機能がおさめられる。低層部には無線LAN環境が整い,オフィスコンビニなど,オフィスライフを支援するほか,バラエティに富んだカフェやレストラン,イベントスペースが揃い,集う人をもてなす。電気街に接続するピロティは,開放的で豊かな都市空間を実現している。UDXは3月9日にオープンを迎える。

建物概要
場所:千代田区外神田
発注者:ユーディーエックス特定目的会社
設計:NTT都市開発,NTTファシリティーズ,日総建,当社建築設計本部
規模:S造一部CFT造,SRC造 B3,22F,PH1F 
延べ 161,482m2
2006年1月竣工(東京建築支店施工)
秋葉原UDX
秋葉原UDX
NEWS
「秋葉原UDX」竣工
 3月9日にいよいよグランドオープンを迎える「秋葉原クロスフィールド」。これに先立ち,1月23日に「秋葉原UDX」の竣工式が行われた。当社からは梅田会長,中村社長をはじめ関係者が多数参列した。1階エントランスで行われた定礎式では,施主である共同事業者2社を代表し,NTT都市開発の三田清社長と当社梅田会長が幕引きを行った。続いて6階で行われた神事では,三田社長,当社梅田会長・中村社長らが玉串奉奠を行い,建物の完成を祝った。
 祝賀会では中村社長が施工者代表として壇上に上がり,2003年8月の着工以来,およそ30ヵ月にわたる施工に総力を結集させたこと,所期の成果をおさめ,無事に引き渡しできたことへの喜びを述べた。
「秋葉原UDX」竣工


秋葉原ダイビル


 集客等機能,オフィス機能はもちろん,最先端のITを駆使した情報ネットワーク機能,企業や大学の研究・教育拠点となる産学連携機能が地上31階建のタワーに集約された。産学連携機能が集まる5〜15階には,東京大学,筑波大学をはじめとする20機関が入居者として名を連ねた。
 コンベンションホール(2階)やカンファレンスフロア(5階)を設けて,研究成果の発表やセミナー,レクチャーのための環境を完備。情報交換の場としても期待される。秋葉原駅前という絶好のロケーションを最大限に活用できる知的複合ビルである。

建物概要
秋葉原ダイビル
場所:千代田区外神田
発注者:ダイビル
設計:当社建築設計本部
監理:日建設計
規模:S造一部CFT造 B2,31F,PH2F 延べ50,289m2
2005年3月竣工(東京支店JV施工)
秋葉原ダイビル
秋葉原ダイビル
新時代の芽を育む秋葉原サテライトラボ
 2005年9月,当社は秋葉原ダイビルの産学連携フロアに新たな研究拠点となる「秋葉原サテライトラボ」を設置した。ここではITと建設技術の融合による「建設生産システムの変革」や「空間・施設の知能化」といった領域がメインテーマに据えられ,着想されたアイデアを研究開発部門へとフィードバックし,具体的なソリューションを提供することを目的としている。他の研究機関や最先端のITとの接触を通じて育まれた芽は,やがて新時代の建設業を牽引する技術へと花開くことだろう。
歩行者デッキ

 JR秋葉原駅から電気街へと伸びる秋葉原クロスフィールドの歩行者デッキ。橋と言えば重厚の橋脚と橋桁が思い浮かぶが,新しいデッキのデザインはスマートそのもの。全長63m,幅員8mのデッキを支える橋脚のスパンは駅前ロータリーを跨ぐ33m。さらに通常2m近くにもなる桁高は1.2mにまで縮減された。
 これを実現したのが,「超高強度コンクリート」とコンクリートの床版を鋼管で支える「ストラット構造」だ。
 そのほかにもデッキの欄干やエスカレータなど,斬新なディテールが数多くある。
歩行者デッキ
TOKYO TIMES TOWER

 秋葉原再開発事業のパイロットプロジェクトとして,ダイビル,UDXに先んじて完成したのが,TOKYO TIMES TOWERである。スーパーRCフレーム構法を採用し,当社開発事業としては初の超高層フリープランハウジングを実現した。外周部の梁をなくしたことで,都心の超高層ならではの眺望と開放感に満ちた住空間となった。
 共用部として計画された2階は,秋葉原駅前広場に連絡する歩行者デッキとつながっており,立地のメリットを最大限に活かしている。

建物概要
TOKYO TIMES TOWER
場所:千代田区外神田
発注者:レールシティ東開発,鹿島
設計:当社建築設計本部
規模:RC造一部S造,B1,40F 318戸 
延べ39,496m2
2004年9月竣工(東京支店施工)
TOKYO TIMES TOWER
TOKYO TIMES TOWER
interview 02
クロスフィールド・マネジメント 重松 諭 マネージャー

 3月9日にいよいよグランドオープンをむかえる秋葉原クロスフィールド。
 「情報ネットワーク機能」,「産学連携機能」,「集客等機能」,「オフィス機能」――知的複合都市とも呼べるほど機能が集約された秋葉原で,これからどのような成果が生み出されるのだろう。
 秋葉原クロスフィールドに関するマネジメント業務,各種情報提供サービスなどを担うクロスフィールド・マネジメントの重松諭マネージャーに話を聞いた。

 秋葉原という場所は,六本木や丸の内のようなハイカルチャーとは違い,どこにもない異質な感じが魅力です。振り返れば,戦後の露天商からはじまり,電気部品や白物家電,そして現在のコンテンツ産業を牽引しているように,つねに時代の先端を走ってきました。ビジネスマンや海外からの観光客が多く集まるのは,こうした歴史が重層しているからでしょう。
 現在,秋葉原ダイビルに入居する20の大学・研究機関によって,ATC(アキバテクノクラブ)というコミュニティが形成されています。ATCでは,ウェブサイト上で情報交換をしたり,月1回の定例会で交流を深めつつ,クロスフィールドの相乗効果を高める活動が展開されています。ダイビルはオープンから1年が経ちますが,早くもアカデミックな雰囲気が漂いはじめています。コンベンションホールの稼働率もよく,学術系のセミナーやシンポジウム,IT系企業のプレス発表の場として定着しつつあります。
 やはり電気街というマーケットを前にして研究ができるということは非常に意味あることだと思います。これから秋葉原UDXには約20のIT,製造,電気系企業に本社機能を移転していただきますが,やはりこの場所にはインスピレーションの源が溢れているのでしょう。おかげさまですでに満室の状態で,この場所から具体的な成果が表れるのが待ち遠しいですね。
 もちろん,この場所をより魅力的にするには,私たちの力だけではなりません。既存のまちとそこを訪れる人々が三位一体となることで秋葉原は変わるのだと思います。開発に際しては電気街振興会など,地元の方々とも話し合い,既存のものと新しいものが馴染むように努めました。
 最近ではテレビをはじめ様々な媒体で紹介され,多くの方々に知られるようになりましたが,まずは一度,直接足を運んで秋葉原の変化を感じとっていただきたいですね。

秋葉原クロスフィールドのHP:http://www.akiba-cross.jp/
アキバテクノクラブのHP:http://www.akiba-sangaku.jp/
クロスフィールド・マネジメント 重松 諭 マネージャー