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築く信頼 地域とともに 魂込めて3号機
中国電力・島根原子力発電所3号機建設工事(本体工事)

エネルギーの安定供給や温暖化対策として,原子力発電が世界的に注目を集めている。
当社は,国内第1号の東海原子力発電所の建設を担当して以来,国内で現在運転中の53基の商業用原子力発電所のうち,30基の建設に携わり,実績とノウハウを蓄積してきた。施工中の中国電力・島根原子力発電所3号機建設工事でも,当社の技術力を駆使して,信頼され安心できる原子力発電所づくりに邁進している。
工事概要
島根原子力発電所3号機建設工事(本体工事)
場所:島根県松江市
発注者:中国電力
設計:中国電力,当社,中電技術コンサルタント
規模:原子炉建物―RC造一部S・SRC造 地下2階,
地上5階 延べ約36,100m2/タービン建物―RC造一部S・SRC造 地下3階,地上3階 延べ約35,900m2/廃棄物処理建物―RC造 地下3階,地上2階 延べ約12,300m2/制御室建物―RC造一部S・SRC造 地下1階,地上2階 延べ約6,000m2/サービス建物―RC造一部S造 地下2階,地上3階 延べ約8,700m2/基礎掘削工事(掘削土量約680,000m3)/埋立工事(埋立土量約950,000m3)/取放水設備工事他 
工期:2006年7月〜2009年12月(土木工事)
2006年10月〜2011年7月(建築工事)
(中国支店JV施工)
MAP
県庁所在地にある原子力発電所
 明治の文豪小泉八雲が,「優しく,神秘的,神々の国の首都」と称した島根県松江市。西は宍道湖,東は中海に接し,市内を大小の河川や運河が縦横に走る「水の都」である。今でも江戸時代の町並みを残し,夕日が美しい宍道湖の光景など,山陰地方の代表的な観光スポットである。
 そんな松江市中心街から,路肩に雪の残る道を車で北へ約20分。日本海に面した島根原子力発電所に着く。2005年の市町村合併で松江市となり,県庁所在地に存在する国内唯一の原子力発電所となった。
 同発電所は,日本で5番目の原子力発電サイトとして建設され,1974年に1号機,1989年に2号機が営業運転を開始した。いずれも当社が設計・施工を担当し,現在3号機を建設中である。
 今回導入する原子炉は,1号機,2号機の「沸騰水型軽水炉(BWR)」を発展させた「改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)」。原子炉構造の単純化を図り,鉄筋コンクリート製原子炉格納容器といった最新技術を採用するなど,安全性が一層向上されている。既に,柏崎刈羽,浜岡,志賀などの原子力発電所で採用されている。出力は,1号機(46万kW),2号機(82万kW)を大幅に上回る137.3万kWで,国内最大級となる。
 3号機の建設にあたり,当社JVは,原子炉建物,タービン建物など5つの建物の建築工事を設計・施工するほか,タービンを冷却する海水を取水・放水する構築物,掘削・埋立てなどの土木工事も担当している。工事に携わる建設作業員は,1日約1,000人。このほかに,建物内部の発電設備などの工事がプラントメーカー(日立GEニュークリア・エナジー)により並行して進められており,あわせると2,000人近い人が発電所の建設に携わっている。
朝礼の様子。1,000人近い工事関係者が朝礼広場に集結し,ラジオ体操から一日の作業が始まる
現場全景。世界最大級のクローラークレーン(右端)のほか,大小のクレーンが林立し施工が進められる
建築と機器工事の一体化
3D-CADデータ現場配置図(2009年11月予想) 取材したのは1月下旬。工事の進捗率は,土木工事が約85%,建築工事が約56%。広い場内に入り,最初に目に飛び込んでくるのが,大小あわせて約40機のクレーンが林立する壮大な光景だ。中でもブームの長さ約140mの超大型クローラークレーンは一際目を引く。世界最大クラスで,930tまで吊り上げることができる。プラントメーカーが手配したもので,原子力発電の心臓部と言うべき原子炉圧力容器のほか,大型機器などを建物にセットするために配置されている。
 「原子力発電所の建設は,プラントメーカーとの連携が重要です。現場では,互いのクレーンを相互利用しています。このクレーンは世界に5台しかないそうで,稼動エリアの足元は鉄筋コンクリートなどで補強され,人工地盤となっています」と,現場の保科和人工事グループ長が説明してくれた。
 現場ではこの超大型クレーンと,設計・施工のメリットを最大限に活かして,合理的な施工方法が採用された。従来までの施工の流れでは,建設会社による建物の建築工事が終わるのを待って,プラントメーカーが配管や機器設備などの工事を実施していた。しかし,本工事では,設計段階からプラントメーカーと共同作業することで,建物内部のいくつかの部屋をユニット化(ルームモジュール)し,建築と機器工事を一体化したのだ。
 1.壁鋼製型枠と鉄骨で構築された部屋の内部に,設備や配管などが施されたモジュールを工場内で製作し,2.海上輸送で現場に運び,3.超大型クレーンで吊り上げて所定の位置に据え付ける――という工程である。
 「ルームモジュールにより,施工中の湿気や粉塵を嫌う精密機械を工場内で組み立てることで,厳密な品質管理を行なうことができます。また,建築と機器工事を一体施工することで工期を大幅に短縮することも可能です。当社のノウハウと,設計・施工でプラントメーカーとコラボレーションする強みを発揮した施工方法です」と水野淳副所長は言う。
海水取水設備に使用される鉄筋には,防錆対策としてエポキシ塗装が施される
安全・安心をつくりこむ
モジュール施工概念図 原子力発電所工事には,より高い信頼性と安全性を確保するため,特有の難しさがある。中でも,耐震基準に関する要求は厳しく,建築基準法規定の3倍以上の耐震性能が必要とされるほか,3年前に見直された新たな耐震基準に基づく地震力にも耐える構造物としなければならない。そのため,原子炉を設置する円筒形の格納容器(直径33m,高さ31.7m,厚さ2m)には,橋脚や超高層建築などに使用される直径51mmの極太鉄筋を使用し,底面部は最大6層の配筋構造とした。建物は地盤を25mほど掘削して,丈夫な岩盤の上に建設される。
 「設計で求められる性能を確実に保証するため,厳しい品質管理が要求されます。月に1回程度のペースで国の検査が実施されるため,JVでは,専門スタッフ11名からなる品質保証グループを設置しました。3D-CADシステムと連携した品質記録データベースを構築し,万全の体制で対応しています」(水野副所長)。
 厳しい品質管理と同様に,現場では徹底した安全管理で,着工以来無事故・無災害作業を継続している。建築工事は昨年の9月末に無災害記録200万時間を達成し,厚生労働省から表彰を受けた。今年3月には300万時間達成を目指す。輻輳するクレーンの円滑な運行を確保するため「クレーンマン」を配置し,接触事故などの防止を専門に担当させるなど,二重三重の取組みを実施している。
「原子力の鹿島」を次の世代へ
 3号機の本体建設は,2006年7月の基礎掘削工事から始まった。土木工事担当の伊藤祐作所長は,「工事の品質と安全を全てに優先させています。社会的責任が重大なので,『いいモノをつくっている』と胸を張って言えるよう,万全の注意を払って施工しています。『原子力の鹿島』として築いてきた信頼を,次の世代へ繋げていかなければ」と語る。
 建築工事担当の太田郷司所長は,原子力発電所の工事を担当して24年のエキスパート。島根2号機を始め,志賀原子力発電所1号機,東通原子力発電所1号機,青森県六ヶ所村の日本原燃再処理施設などを手掛けてきた。
 「原子力発電所は,計画から着工までに,発注者や地域の関係者の膨大な時間と労力が費やされています。我々は,リレーに例えると,プロジェクトの最後を任される『アンカー』です。関係者の思いに応えるような仕事をしなければなりません」という太田所長。「大切なのは,工事を通じて,地域社会やお客様から信頼を得ること。当社が培ってきた実績と技術力を結集して,『確かな現場力』として表現することが,私たちの使命です」と,工事への思いを語った。
 3号機建設の全体スローガンである「築く信頼 地域とともに 魂込めて3号機」を合言葉に,2011年12月の運転開始を目指す。
海上輸送で現場に到着したルームモジュール 超大型クレーンで吊り上げて現場に据え付ける
超大型クレーンを使ってのRCCV(鉄筋コンクリート製原子炉格納容器)ライナーの吊り込み作業
現場に掲示されている看板。発注者,建設会社,プラントメーカーが一体となって3号機をつくりこむ 安全スローガンは現場のいたる所に掲示されており,安全への意識の高さがうかがえる
集合写真