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銀泉備後町ビル新築工事
身近なITツールで合理化を推進

建設現場では多様な作業が錯綜し,関係者間の情報のやり取りも膨大となる。
現場の状況に即した適切な管理・コミュニケーションツールを導入して,ITによる合理化を推進する建設現場の「今」を報告する。

地図
銀泉備後町ビル
現場タワークレーンより御堂筋をのぞむ

工事概要
場所:大阪市中央区瓦町
発注者:銀泉
設計・監理:日建設計
規模:S造一部SRC造 地下3階,地上14階
延べ31,981m2
工期:2000年10月〜2003年1月
(関西支店JV施工)

作業調整が多い現場
 地下鉄・御堂筋線本町駅から歩いて5分。関西を代表するビジネス・ストリート,御堂筋に面して,銀泉備後町ビル新築工事の現場がある。既設建物の解体工事を含めると足かけ4年に及ぶプロジェクトだ。
 当現場は,御堂筋を通行する歩行者や通行車両など,第三者への影響を最小限に抑え,品質の確保と工期短縮を両立するために様々な取組みを行っている。その一つが逆打ち工法である。この工法は,地下の基礎工事と同時に地上の躯体工事も行うので,工事の初期から資機材の搬入・揚重作業などが多く発生し,様々な調整が必要となる。
 そのため現場では,当社が開発した施工管理を支援するパッケージソフト「現場管理Professional(以下,現場管理プロ)」を導入した。ソフトはウィンドウズ・パソコンで稼動する13のサブシステムから構成され,現場の規模や特徴に合ったシステムを構築できる。ここでは,「作業調整システム」「車輌・揚重予定システム」「安全衛生日誌システム」の3つのサブシステムを採用した。

ビジュアル化が決め手
 所長方針を具体化した項目の中に,「視覚に訴えた,皆の意識の共有化を高めた事前検討をしよう!」がある。安全パトロールの結果はデジカメで撮影された画像で周知され,指摘事項・箇所が一目でわかる。作業員に渡せば,現場で指示しているのと同じ。口頭での行き違いや時間のロスを防ぐ。また,日々の場内配置の変化は,システムを用いて作成した最新の配置図を毎日の朝礼でテレビモニターに映し出し,的確に周知している。
安全パトロールの指摘事項 安全パトロールの指摘事項
現場パトロールでデジカメ撮影 朝礼での周知
現場パトロールでデジカメ撮影
朝礼での周知

現場の状況に即したシステム
 建設現場では,作業内容や安全指示,資機材の搬入予定など多くの情報が行き交う。これらの情報は,即時に調整,共有されなければならない。そうした中,現場を統括する橋本所長は,ITが叫ばれる以前から情報化への対応を積極的に進めてきた。
 これについて所長は,「従来,作業調整は,社員が各々の担当者間を走り回って行っていました。これにかける時間と労力は計り知れないものだったのです。しかし,近年現場のIT環境も整備され,パソコンで情報を共有することが可能となりました。初期の多少の不具合にはこだわらず,一生懸命取り組めば,必ず良い結果が出ると思うのです」と語る。
 現在,システムの運用は,作業員詰所にパソコンを2台配置し,社員と協力会社の職長が必要な情報を入力,相互に確認・調整する方法をとっている。このため入力画面などは,シンプルにできており,社員だけでなく職長さんも手軽に操作できる。また必要であれば,帳票類を現場サイドでカスタマイズでき,作業内容などもプルダウン形式のメニューから選択できる。「現場管理プロ」は,現場の状況に即した実用的なシステムとなっているのだ。

御堂筋に面した現場で大型クレーンが活躍 プレキャスト外壁パネル
御堂筋に面した現場で大型クレーンが活躍
工期短縮のもう1つの決め手,プレキャスト外壁パネル。その揚重も調整された工程に沿って行われる

ITによる業務の合理化を実感
 現場で採用している3つのサブシステムは相互にリンクし,一度入力した内容が関連する全ての帳票に反映されるため,入力の手間を大幅に減らすことができる。職長会の会長で鳶・土工を担当する植松哲也さん(松本工務店)も,そのメリットを実感している一人だ。「現場では日々,同じ作業が繰り返し行われており,JV社員さんも我々も異なる書類に同じ内容を繰り返し書かなければなりません。それが1回の入力で済むので大変楽ですね」
 特に『車輌・揚重予定システム』は,協力会社各社が行う資機材の搬入・揚重作業工程などをスムーズに行うのに効果を発揮している。時間帯による作業内容が画面上にバーで表示され,その日のスケジュールが確認できる。「各社の職長が予定を入力する際に,他社がどの時間を予約しているかが一目瞭然なので,時間の調整が簡単にできます。調整にかかる時間が30%程度短縮されたことで,その分,計画を練ったり現場を確認する時間が増えました」(植松さん)。数値には表れないが,品質の確保などに好影響をもたらしていることは間違いない。

作業予定を入力する植松さん 「5年先の現場のあるべき姿を目指す」橋本所長
作業予定を入力する植松さん
「5年先の現場のあるべき姿を目指す」橋本所長

身近なITが第一歩
 ITの進展により複雑なシステムが構築される中,「現場管理プロ」の機能は,むしろシンプルで,この果たす役割も膨大な現場業務の中で限られた範囲ではある。しかし,協力会社との連絡・周知といった作業の根幹を支えるシーンをサポートし,確実に生産効率を向上させている。いわば実務に直結したIT化が実践されているのだ。
 最後に,橋本所長にこれからの建設現場におけるIT化について聞いてみた。「現場の本質は図面を読解し,それをどうつくりあげるかということです。もちろん安全の確保は大前提です。しかも,環境などにも配慮して社会に認められる方法で,より早く,コストパフォーマンスの高いものを提供しなければなりません。それには個々の社員のノウハウを集積する,ITを使ったナレッジマネジメントが必要になってくると思います。パソコンやソフトの性能が飛躍的に向上した,これからが本格的なIT化の到来です」と語った。