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歴史と文化と人をつなぐ総合文化施設づくり 日田市総合文化施設建築主体JV工事 九州の小京都と呼ばれる大分県日田市は,鬱蒼とした杉林の山々に囲まれた盆地にある。 江戸幕府が天領(直轄地)としたことから,金融・商業が栄え,九州の交通の要衝,文人墨客が集う文化の中心地でもあった。ここに現在,当社JVが日田市民文化会館「パトリア日田」を建設中である。杉,漆喰など地元の素材を採用し,大規模ホールに自然光が入る設計など,斬新な建築に注目が集まっている。歴史と文化を生かした新しい総合文化施設づくりを紹介する。 |
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工事概要 日田市総合文化施設建築主体JV工事 場所:大分県日田市/発注者:日田市 設計・監理:香山壽夫建築研究所 規模:SRC・RC造一部S造 B1,3F 延べ 8,902m2 工期:2005年8月〜2007年7月(九州支店JV施工) |
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魅力ある町・日田 福岡空港から日田行きの高速バスに乗り込む。約1時間20分。車窓の景色が杉の山々に変わると,まもなく日田である。 「日田には宝物がたくさんあります。杉の美林,良質の水,豊富な温泉…。そして長い歴史と文化に培われた人々の温かさ,穏やかさ。魅力ある町ですよ」。工事事務所の福山宏一所長から,早速こんな“日田自慢”を聞いた。 パトリア日田の建設現場は日田市中心部にある。その北側に位置する豆田地区は,江戸時代からの屋敷や茶屋などを今に残す風情ある町である。儒教学者・広瀬淡窓が開いた私塾「咸宜園(かんぎえん)」があることでも知られる。訪れた時はちょうど,町の家々が大切に保存しているお雛様を公開する「天領日田おひなまつり」が開かれていた。飾られた雛人形たちは,江戸期からの日田の繁栄を物語るように華やいで見えた。 通りには,漆喰壁の喫茶店や,日田杉の下駄を売る店,手作りのみそやしょうゆを並べる店などが軒を連ねている。 一方,南側の隈地区は蔵づくりの家々が残り,筑後川支流の三隈川沿いに温泉街が広がって,落ち着いた佇まいをみせる。 日田は,江戸期から明治時代にかけて造林された杉材を使った木工産業が盛んな町である。日田の杉林は,吉野,秋田に並ぶ日本三大美林に数えられる。近年は豊かで良質な水を求めて,大手ビール会社や焼酎の工場が進出してきた。こうした新旧産業の混在もこの町の魅力のひとつだろう。 |
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地元の素材を生かす パトリア日田は,日田市の自然環境や歴史・文化などを最大に活かしたまちづくりの一環として計画された。地上3階,地下1階。大ホール,小ホール,展示ギャラリー,スタジオ,工房創作室,喫茶室などで構成される。 「パトリア」とはイタリア語で「故郷」。誰もが気兼ねなく立ち寄ってほしいとの願いが込められている。 設計は東京大学名誉教授で建築家の香山壽夫氏が手掛けた。香山氏は数多くの劇場,学校,教会等の設計に携わり,2005年度日本芸術院賞を受賞。特に都市計画,町並み保存などの分野に大きな研究成果を残している。 パトリア日田では,地元の日田杉や檜を内装材に多用し,日田市の伝統工芸である小鹿田焼(おんたやき)の陶土を練りこんだタイルを床や腰壁に採用した。一方で,施設内のバリアフリー化のほか,太陽光発電,屋上緑化などによる環境負荷低減,照明負荷をおさえるために,ホール内に自然光を取り入れたり,庇の高さを近隣の建物の高さと揃えるなど,さまざまな環境への配慮がなされている。また,香山壽夫建築研究所では市民説明会を開いて,住民の意見を聞き,当初構想になかった和室の設置などを行ったという。
「漆喰は傷が入ると補修が困難で,養生に時間がかかるうえ,気温の下がる冬期は施工できない。これを扱える地元の左官職人が少なく,人材確保に苦労しました」と,古川和秀副所長。 木材は管理に手がかかる。半年以上も自然乾燥させるため,材料の発注時期の調整,木の伸縮,反り具合を考慮して,収まりの検討を行いながらの施工になる。杉の木材がやや茶色がかって見えるのは,木の防腐材として柿渋(柿から抽出したタンニン)を利用したからと,古川副所長から聞いた。柿渋塗布は,日田では昔から使われていた木材加工の手法という。 漆喰や柿渋の採用は,化学薬品を使わないことで,シックハウス症候群などの問題を回避できる。日田市は1998年にISO14001環境マネジメントシステムを取得。「環境日本一」のまちをめざし,様々な取組みを進めている。環境への意識の高さが,こうしたきめ細かな配慮の背景になっているのだろう。現場ではもちろんゼロエミッションを推進している。 |
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![]() 国は2001年に文化芸術振興基本法を制定。これを受けて日田市は2006年4月,県内市町村で初の日田市文化振興条例を施行したという。日田市企画文化部の日野和則部長にお話をうかがった。 「パトリア日田の建設理念を練り,実現する過程で,文化振興基本計画を取り纏めました。パトリア日田は文化・芸術の拠点,市民交流の場として中心的な役割を担う。行政と市民が協働することで『文化力』を醸成し,心豊かなまちづくりを進めていきます。そのシンボルとなるのがパトリア日田なのです」。 日野部長によると,パトリア日田の基本理念は,(1)市民による市民のための施設(2)文化の賑わいのある施設(3)文化創造の拠点としての施設(4)まちづくりと情報発信基地――に置いたという。東西エントランスを結ぶガレリアは通路としての役目のほかに,朝市開催などの場にも活用ができる。またスタジオや工房創作室での文化活動を垣間見ることができる。豆田地区と隈地区を結ぶ中間点の賑わいが,JR日田駅前商店街の活性化に繋がるという期待もある。 現場に隣接して,当社が約40年前に施工した日田市民会館がある。「だいぶ出来上がってきたわね」「あの絵,かわいいね」。市民会館でのコンサート開演を待つ列から,こんな会話が聞こえてきた。現場の仮囲いのカラフルな絵は,地域の32校の小学校から寄せられた。地域全体が建設の進行を見守り,完成を心待ちにしているのを実感する。 「日田市,設計者,地域の方々が一体となって協力してくれました。例えば,騒音などの説明を地域住民に行う際にも,日田市役所の方々が同行してくださった。我々は皆さんの期待に応え,安全を期し,高品質の施設を提供できるよう最後まで頑張ります。意匠性の高い素晴らしい施設です。ぜひ多くの市民に可愛がっていただきたいですね」と,福山所長は言った。 パトリア日田の建築主体工事の完成は2007年7月末。オープンは2007年12月末の予定である。 |
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