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超高層入居まぢか――HiDAX新シリーズ完成
世界初の制震ビルを実現して以来,次々と独自の技術を開発してきた鹿島が,超高層ビル向けの制震システムとして実績のあるHiDAX(ハイダックス)シリーズの最新モデルを完成させた。
低コストタイプを加えてラインナップが充実,条件に応じた柔軟な制震設計を目指す。
つねに進化を続ける「制震の鹿島」の新しい役者が生まれるまでを追った――。
工場で生産が続けられるHiDAX(写真はHiDAX-e)。ひとつのビルに数十からときには100台以上も設置される。いま,超高層への入居を目前にして丁寧に1台1台製作されている
 出荷されるのを静かに待つこの鉄の塊群は,超高層ビル向けの制震システム「HiDAX-e」である。当社がこれまで展開してきたHiDAXシリーズの最新モデルだ。建設中の(仮称)東京ビル(千代田区)に設置される計画で,現在その生産がピークに入っている。
 HiDAXとは「High DAmping system in the neXt generation(次世代型制震システム)」から付けられた名前で,それまでの制震装置の考え方を一新して開発された。一般に制震装置は,建物に組み込まれた装置で揺れを吸収させ,大地震に強いとされる「パッシブ型」と,機械装置を駆動させることによって微細な揺れに対応できる「アクティブ型」の2種類がある。しかしどちらにも一長一短の性格があるため,目的別に使い分けられてきた。
 そこで双方の利点を活かし,大小にかかわらず揺れを吸収するオイルダンパをコンピュータで制御するという画期的な考えのもとにつくられたのがHiDAXなのだ。オイルダンパ自体は,揺れに対応して2つの油圧室内をオイルが移動し,振動を制御する仕組みだが,最適なタイミングで制御弁を開閉させ,オイルの流量をコントロールすることによって,大地震の揺れから微小な風揺れにも効果を発揮することができる。「頭脳」をもつことで繊細で正確な作動が可能となったわけだ。
 1999年の開発以来,近年では六本木ヒルズなど,数々の超高層ビルで採用されてきたこのHiDAXに,このほど新しいラインナップが加わった。制御機構に電力を使わない「HiDAX-e」と,微小な揺れにのみ電力を使用し風揺れ制御機能を強化させた「HiDAX-u」である。HiDAX-eは揺れが起きた際にダンパ内に生じるオイルの圧力差を利用し,電力を使わずに制御弁が自動開閉できる。よって,停電時や電気系統の故障時にも大きな振動エネルギーを吸収できるほか,フェイルセーフ機能や電気部品が不要となるため,装置費用は約20%(HiDAX-uは約10%)低減可能となる。従来のHiDAXは,制御方法を自由に設定できる最上位機種としてHiDAX-sと呼び名を改め,ラインナップが揃った。
 最新型HiDAX-uは,来年7月に竣工の日本橋三井タワーに96台,HiDAX-eは来年10月に竣工予定の東京ビルに60台設置される。そのHiDAX-eは,いままさに様々なパーツが組み立てられ,塗装を施し,最後に検査を経て丁寧に1台ずつ製作されているところだ。重さ1t弱の頼もしい役者が,超高層という舞台で活躍する日はもうまぢかである。
HiDAXは各フロアと梁とブレースの間に設置される。建物に振動が加わると,HiDAXが変位を吸収する仕組みだ。メンテナンス性に優れ,壁の後背部に設置できることでスペースも取らない
HiDAXの構成。流量制御弁を電気制御するHiDAX-sに,オイルの圧力差を利用して自動開閉させるHiDAX-e,風揺れ時のみに電気制御を行うHiDAX-uが加わった
適用事例は数多い。六本木ヒルズ,朱鷺メッセ(新潟市)などの超高層ビルに加え,汐留地区は汐留タワー,松下電工本社ビル,日本通運本社ビル,トッパンフォームズビルと,HiDAXのメッカになっている
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