葉山発 海辺通信 |
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vol.11 海の子供たち
文:久野康宏 |
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風光明媚な景勝地として知られている葉山の海岸沿いに広がる岩礁は,潮が引くと海面から露わになり,特に大潮の後にはタイドプールと呼ばれる小さな池が岩礁の上のあちこちに出現します。そこには小さな海の生物がたくさん暮らしています。 また沖には南の海からの暖かな海流「黒潮」が流れ,海流に乗り,南から旅してきた貝や魚が葉山の岩礁に漂着。さらに真冬は岩礁に無数の海藻が根をおろします。岩礁をとりまく水中環境は実に豊かな生態系を育んでいるのです。 日常,海で遊ぶことなく,テレビゲームやコンピュータゲームに熱中する近頃の子供たちが心配です。豊かな自然のそばに住みながら,そのかけがえのなさを知らないまま成長。海を大切に想うこともなく,土に還らないゴミを海に平気で捨てる大人になってしまうかもしれません。 こうした状況に危機感を覚え,環境教育の活動をスタートした集まりが葉山海洋自然体験センターです。代表の海野(うんの)義明さんは葉山出身で,スノーケリング,シーカヤック,ビーチコーミング(漂着物拾い)などが得意な海遊びの達人。彼は海中,海上,海辺の遊びを通じて葉山の子供に自然観察の楽しさ,地元の海の素晴らしさを伝えようとしています。それが年間の環境学習プログラム「葉山マリンキッズ」です。 プログラムのひとつである,スノーケリングでのタイドプール観察に同行しました。海野さんやスタッフに引率されて海へ向かう子供たち。まるで近所の公園に遊びに行くかのように自然体です。海辺に着くと子供用のウエットスーツを着るのですが,手慣れた感じで身にまとっていきます。準備が完了すると海野さんがその日の観察のテーマを発表。「今日はこの魚やエビ,カニを観察しよう」。 海に入るとすぐに子供たちはあちこちで歓声を挙げます。「見つけたよ!」「これは何?」。数多くの生物の名前を知っていることに驚きました。生物に触れようとする子供が皆無なことも感心。それは生物が暮らす環境そのままに観察するよう海野さんが教えてきたからでした。 海から上がるとすぐに手製のガイドブックで観察した生物の絵を見せながら,特徴や生活環境をレクチャー。子供たちは海中,海辺で新たな知識をどんどん吸収していきます。きらきらと輝く子供たちの眼差しを眺めていて想像しました。彼らが大人になり,自分の子供に海の素晴らしさを伝えていく場面を。地道な活動ですが,葉山の豊かな海は次の世代へと受け継がれていこうとしている。そうした活動の一翼を担う大人にならねばと考えた一日でした。 |
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【著者紹介】 くのやすひろ 1965年東京・佃島生まれ。 現在,神奈川県葉山の海辺に在住。 スキューバダイビング専門誌の制作に13年間携わり独立。 フリーの編集者&ライターとして四季感と多様性に満ちた相模湾の魅力を水面上と水面下,両方の視点で伝えようと取材活動している。 海辺暮らしを綴ったホームページは http://homepage.mac.com/slowkuno |