AFTER 5 YEARS
新潟発・芸術文化拠点をめざして 1998.10: りゅーとぴあオープン

新潟市街の中心地,信濃川沿いに位置する新潟市民芸術文化会館「りゅーとぴあ」。
地域密着の文化拠点をめざしてオープンしたのは,今から7年前のことである。
以来,常に充実した公演プログラムが組まれ,きわめて高い稼働率をほこる。
2004年には日本初となる専属のダンスカンパニーも誕生した。
国内屈指の舞台芸術の拠点となったりゅーとぴあを訪れた。

「柳都」×「ユートピア」
 東京駅から上越新幹線で約2時間,終点・新潟駅の直前で,左手に一際目を引く建物が見えてくる。中層ビルが建ち並ぶ市街地で,広い屋上の青々とした芝生が存在感を放つ。この建物が,「りゅーとぴあ」の愛称で親しまれる新潟市民芸術文化会館である。
 りゅーとぴあがオープンしたのは1998年10月のこと。音楽と舞台芸術の殿堂をめざし,コンサートホールや劇場,能楽堂のほか,ギャラリーやリハーサルスタジオなどを完備した日本有数の劇場建築として注目を集めた。愛称の由来は,江戸時代に花柳界の一大文化圏をかたちづくった新潟の別称「柳都」にちなんだものである。

屋上庭園から信濃川を臨む
りゅーとぴあが建つ白山公園。白山神社の境内とつながっている
散歩の文化に包まれて
 りゅーとぴあで広報担当を務める横木裕子さんに,まずは屋上庭園から案内していただいた。建物は水平方向に広く,新幹線から見た印象ではそれほど高くないように感じられたが,いざ上ってみると,周辺のほとんどのビルが眼下に臨める。絶好の秋晴れに恵まれたこの日は,すぐそばを流れる信濃川沿いの“やすらぎ堤”では散策を楽しむ人々も多かった。
 建物の外形をそのままなぞるように円形の屋上庭園をぐるりと廻ると,建物が広大な公園に囲まれていることに気づく。見下ろして驚いたのは,散歩で訪れている人の多さだ。横木さんによると,りゅーとぴあの建つ白山公園は明治初期に開設された日本で最初の公園のひとつといわれる。週末だけでなく,平日も多くの人々で賑わうそうで,市民の生活に散歩の習慣が根づいている。
 屋上庭園に加え,公園内には計6つの空中庭園がある。横木さんによれば「設計者である建築家・長谷川逸子さんの『真の芸術文化は原っぱから生まれる』という座右の銘によるもの」だという。
西側エントランスから東側エントランスを望む。予定されている公演プログラムのポスターが約30メートルの掲示板を埋める
東側エントランス。カフェ「リバージュ」では時折,結婚パーティも行われる
芸術文化拠点として
 そして今,りゅーとぴあでは真の舞台芸術の拠点としての認知,評価がかなり高まっている。オープン直後の半年間で100本行った公演プログラムはその後,順調に数を伸ばしつづけ,今では年間150本以上の主催公演を行う。この充実ぶりは,エントランスを抜けるとすぐに目につく30mほどの掲示板が,端から端まで公演ポスターで埋めつくされているのを見れば一目瞭然だ。
 昨年,一躍舞台芸術の注目の的となる出来事があった。日本初のレジデンシャルダンスカンパニー「Noism(ノイズム)」の誕生である。世界的なダンサーで,演出振付家である金森穣氏を舞踊部門芸術監督として迎え,劇場が1年を通じて運営する専属カンパニーを立ち上げた。これは国内だけでなく,海外ツアーも視野に入れた世界標準のプロフェッショナル・ダンス・カンパニーで,新潟での活動を通した作品づくりをめざしている。
 また,オープン当初から,地方からどれだけ質の高い優れた作品がつくれるかという挑戦を続けており,演劇の中で特に能楽堂シェイクスピアシリーズは,その独創的な発想と,様式的な美しさとエンターテイメント性によって高い注目を集めている。
Noismの公演。3人の振付家による作品「Triple Bill」より,近藤良平氏による振付作品。写真:東浦一夫
白石加代子氏と新潟のキャストで行ったりゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ「リア王」
地域密着型の文化発信拠点へ
 舞台芸術に求められるあらゆる機能が複合されたりゅーとぴあ。昨年11月には,竣工後3年以上の公共性の高い建築物を対象に贈られる公共建築賞(公共建築協会主催)・文化施設部門を受賞した。企画・設計・施工が優れ,管理・保全の状態が良好であるほか,地域社会への貢献度や文化性の高さなどが評価された。
 建設に携わった当社北陸支店の仲山博さん(現・珠洲市多目的ホール工事事務所長)は,「公共建築賞を受賞したことは施主・設計・施工が三位一体となった結果の表れだと思いますが,何より街のシンボルとなる工事に携われたことがうれしい。年末のコンサートや年始の白山神社の初詣で立ち寄った際には,新潟の憩いの場になっていることを実感します」と語る。
 「新潟発の文化拠点にしたい」という横木さんの言葉の通りに,りゅーとぴあは新しい文化を発信しながら,地域に根づき,市民にとってかけがえのない場所となりつつある。
りゅーとぴあ全景
仲山博さん「周辺もセントラルパークとして定着しているようでうれしい限りです」
第二期となる「Noism05」は今年10月に結成されたばかりだが,すでに地元ファンの期待は高い