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メタンハイドレート
メタンハイドレート。“燃える氷”と呼ばれるこの白くて冷たい結晶が,いまわが国の新たなエネルギー資源として注目されています。
当社は産学官による共同研究体のメンバーとして,建設技術のノウハウを活かし,資源化に向けた研究開発を進めています。
技術研究所,土木管理本部の担当者に解説してもらいました。
メタンハイドレートってどんな物質?メタンハイドレートって私たちの身近なエネルギー資源になるんだ・・・
 メタンハイドレートという物質は,かご状の水分子の中にメタン分子を閉じ込めた構造をしています。地層中に含まれる植物などの有機物が分解されてできたメタンが,高い圧力,低い温度のもとで水と結合し,こうした構造になったと考えられています。
  人工のメタンハイドレートは白くて冷たい氷のような形状をしており,火を近づけるとメタンガスが燃えて水だけが残るため,“燃える氷”と呼ばれています。しかし天然メタンハイドレートは,主に深海底や永久凍土層などの砂質堆積物の砂粒子間に挟まれて存在するため,見た目は土と大差がありません。
  メタンハイドレートを形成するメタンは天然ガスの主成分。現在,わが国の都市ガスの90%以上は天然ガスを使用しています。また,地球温暖化対策から,石油や石炭に比べて燃焼時に二酸化炭素の排出量が少ない天然ガスへのシフトが加速しています。
  探査技術の進歩で,日本近海には大量のメタンハイドレートが存在することが分かってきました。エネルギー自給率わずか4%というわが国にとって,メタンハイドレートはエネルギーセキュリティ確保に貢献する“夢の国産エネルギー資源”として,大きな期待が寄せられています。
天然メタンハイドレート。砂粒子の間に存在するため土のように見える(出典:MH21)
メタンハイドレート結晶構造。●が水分子,▲がメタン分子(出典:MH21)
メタンハイドレート分布予測図(2009年)
人工メタンハイドレート サンゴを着生させる基盤 火を近づけるとメタンガスが燃える サンゴを着生させる基盤 燃焼後は水が残る(写真は燃焼途中のため一部物質が残った状態)

世界が注目する国家プロジェクト
 経済産業省は,2001年に「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」を発表し,計画実施のための産学官共同研究体「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(通称:MH21)」を発足させました。(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC),(独)産業技術総合研究所,(財)エンジニアリング振興協会を中核に民間企業が参画し,経済的で安定的なメタンガスの回収生産を目指した技術開発を,3つのフェーズに分けて段階的に推進しています。
  フェーズ1では主にメタンハイドレートの分布・資源量の調査,生産手法の開発が行われました。今年度からスタートしたフェーズ2では,生産手法の検証や日本近海での海洋産出試験などを予定。2018年度までのフェーズ3で,商業生産に向けた技術整備を完了する計画です。
  これまでに,約1,000件の学会発表や多数の特許申請が行われており,メタンハイドレート開発の先駆として,世界的な注目を集めています。当社は,MH21の生産手法開発グループのメンバーとして研究開発を行うとともに,意思決定機関である運営協議会に参加しています。

「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」研究開発計画(出典:MH21より作成)
「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」組織体制(フェーズ2)(出典:MH21)

建設技術を活かした研究開発
 現在,当社は技術研究所・先端メカトロニクスグループが,主に生産手法とその関連技術について,産業技術総合研究所の委託を受けて研究開発を行っています。
  地層中では固体として存在するメタンハイドレートをエネルギー資源として利用するには,地層中で溶かして分解させ,メタンガスだけを効率よく安全に回収しなければなりません。そのために海底深くまで井戸を掘削し,超音波を活用して,分解を促進するための圧力・温度環境を構築する生産手法を開発しました。そのほかにも,深海底構造物に使用するコンクリートの検証や,井戸周辺の細かい土粒子による目詰まり対策技術の研究を行っています。
  これらの研究開発には,当社が培った建設技術のノウハウが活かされています。メタンハイドレートが存在するのは固結していない砂層。建設業が対象としてきたフィールドと重なります。今後の研究開発にも様々な技術貢献ができると思われます。さらに,このプロジェクトでの研究成果を,本業へフィードバックしていくことも考えています。

鹿島の研究開発

メタンハイドレート層からメタンガスを生産する技術
  圧力を下げると分解をはじめるメタンハイドレートの性質を活かした減圧法。井戸の中にポンプを設置し,間隙水を揚水することで地層の圧力を下げる。しかし,メタンハイドレートは分解時に周囲から熱を奪うため,地層の温度低下が分解の妨げとなる。そこで当社は,減圧による分解を止めずに熱を供給する方法として,超音波や電磁波で発熱させ地層温度の低下を抑制する分解促進法を開発した。

減圧法の模式図(出典:MH21)
1,000m級 深海コンクリート
 深海底構造物に使用するコンクリートとして,水中不分離性コンクリートを開発した。低温・高水圧下での実験と解析で,十分な流動性と強度が確認された。

井戸周辺の目詰まり 対策技術
 減圧法でメタンガスの回収を長期間続けると,井戸の周辺に細かい土粒子が集まり,物質の流れが悪くなる。井戸内から地層に向けて振動を与えて,目詰まりを防止する技術を研究開発中である。
ハイドレート層を模擬する実験装置
夢の実現に向けて――プロジェクトと研究開発への思い

 2001年初頭,社内に全社横断部署の開発検討チームを新たに発足して以来,土木管理本部と土木営業本部が推進窓口となって,産業技術総合研究所の検討グループに参画し,MH21との対応や,社内コーディネートを実施してきました。こうしたMH21の開発成果により,メタンハイドレートが21世紀を代表するエネルギー資源となることが,明らかになりつつあります。今後の産業界,経済界,ひいては国益のための貴重なエネルギー資源の確保に向けて,エネルギーエンジニアリングの一環として,鹿島の総合力を十二分に発揮すべく,日々,研究と社内外の連係を深めていくことに努力しています。 
(土木管理本部・土木技術部 藤村久夫専任部長,海老剛行課長,土木営業本部 松本 隆営業部長)

 研究課題は常に「誰も検討したことがない」ものばかりでした。メンバーが一丸となって,数少ない関連論文からヒントを探し,実験方法の検討や実験装置の製作に試行錯誤を重ねてきました。その分,狙い通りの結果が得られた時の嬉しさは格別です。
  研究活動を通じ多くの人と知り合い,異分野の考え方に触れられたことは,有意義な経験になりました。わが国のメタンハイドレート開発の一端を担う責任を実感すると共に,得られた知見を建設分野へ展開することで,建設技術の向上にも貢献できるよう,今後も活動していきたいと思っています。
(技術研究所・先端メカトロニクスグループ 研究メンバー/写真:三浦 悟グループ長(後列・右),露木健一郎上席研究員(後列・左),戸梶慎一主任研究員(前列・右),塙 悠希研究員(前列・左))

三浦 悟グループ長(後列・右),露木健一郎上席研究員(後列・左),戸梶慎一主任研究員(前列・右),塙 悠希研究員(前列・左))