テクノ・ライブラリ


Techno Library

環境シミュレーション技術

環境意識の高まりのなか,建設業の役割は,もはや環境と共生しながら社会基盤や資本の整備を進めることだけではなく,環境の修復や自然再生にまで広がりを見せている。ここで,重要となるのが,建設事業によって,環境がどのように変化するかを事前に評価・予測するシミュレーション技術だ。今月のテクノライブラリでは,自然を構成する陸・海・空,それぞれの場面での当社の環境シミュレーション技術を紹介する。

地盤内の汚染物質の移動を予測
汚染物質移動シミュレーション
 地盤が汚染されると,地下水の流れなどによって汚染物質が移動し,広範囲に悪影響を及ぼす恐れがある。このため,適切な対策を施すためには,汚染物質がどのように地盤内を移動するかを予測することが重要となる。
 汚染物質は,その種類によって移動の形態も様々である。例えば,地下水に溶け込んで移動するもの,溶けずに沈降するもの,移動の途中で土に吸着されるものなどがある。また,土壌に含まれる微生物によって分解され,物質そのものの化学組成が変化しながら,移動するものもある。当社は,長年培った地下水流動解析技術と併せて,これらの複雑な移動の形態をすべて考慮した高精度の「汚染物質移動シミュレーション」を保有している。この技術によって,物質の種類や量,地下水の条件に応じた最適な浄化対策を立案することが可能となり,当社の調査・評価・対策からなる汚染土壌対策分野での一連の総合エンジニアリング体制に,一層の厚みを増している。

汚染物質の移動イメージと様々な対策工 汚染物質の地盤内挙動実験

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青潮・赤潮の発生を精度良く予測
水域環境シミュレーションシステム
 近年,湾内などの沿岸海域で,赤潮・青潮の発生が問題となっている。赤潮は,海面付近にプランクトンが大・に発生する現象であり,青潮は,海底近くに溜まった酸素の少ない水が,沿岸に湧き上がる現象である。いずれの現象も,魚や貝などの海洋生物が住めない水域が,風や潮流などによる海の流れによって,ある場所に「塊」のように出現することが問題となる。これより,青潮・赤潮の発生を予測するためには,海水の流れや波浪などを予測する水理学的な手法とともに,プランクトンなどの生態系の活動も考慮する必要がある。当社は,高度な水理解析システムと,生化学反応を考慮した水質解析システムを組み合わせた「水域環境評価シミュレーションシステム」を,オランダ・デルフト水理研究所との共同研究で開発した。本システムによって,たとえば湾内のどの位置で流れを変えると,青潮・赤潮の低減に最も有効であるかなど,適切な対策工を事前に評価選択することが可能となった。


汚染物質の移動シミュレーションによる予測
汚染物質の移動シミュレーションによる汚染物質の地盤内挙動解析例(断面図)。
地下水に溶けず比重の大きい物質が,地盤内でどのように拡張するかを精度良く予測する


緑化の効果を定量的に評価
緑環境評価システムEASE(イーズ)
 緑地には,ヒートアイランド現象を緩和する機能や,光合成による二酸化炭素の固定機能など,地球環境を保全する様々な機能がある。しかし,実際に気温を何度下げられるかなど,緑地の働きを定量的に評価することが難しかった。当社が開発した緑環境評価システムEASE (Environmental Assessment System on Ecology)は,地形や土地の利用状態に関する地理情報システム(GIS)と,種類ごとにデータベース化された,植物の詳細な環境保全機能に関する情報を組み合わせて,地域における緑地の効果を定量的に予測することができる。このシステムによって,広域の開発計画において,緑地保全区域と開発区域をどのように組み合わせるのが最適であるかなどの計画案を,事前に予測される多様な効果と照らし合わせて総合的に比較・検討することが可能となった。環境の改変を伴う大規模な開発計画では,地域の人々への説明が重要な課題となる。緑地の効用を定量的かつビジュアル化するEASEは,合意形成の糸口を探る有用な手法として,自治体などからの期待を集めている。

海域における生態系モデルの一例
海域における生態系モデルの一例
植物がもつ様々な環境保全機能 分布図

植物がもつ様々な環境保全機能
EASEによる静岡県掛川市の炭酸ガス固定化機能の評価結果
※平成12年度GIS整備・普及支援モデル事業
実証実験データベース利活用実験より抜粋


時々刻々と変化する大気の状態を予測
広域環境シミュレーション
 時々刻々と変化する温度・湿度や風向・風速などの大気の状態を,コンピュータ内の3次元仮想空間で予測することを可能としたのが,「広域環境シミュレーション」である。GISデータと気圧分布などの気象データさえあれば,世界中の任意の地域・任意の時間における大気の状態を計算することができる。ここには,前節で述べたEASEにも用いられている植物による気象緩和効果(気温上昇の抑制効果)もデータのひとつとして組み込まれている。太陽からの熱,植物や地表の含む水分の量,その蒸発などを考慮した熱力学と,地形による風の流れの変化などを考慮した流体力学を駆使した,最新のシミュレーション技術である。これにより,たとえば土地利用の入力データを都市から緑地に変化させることで,都市緑化による温暖化抑制効果などを評価することも可能となった。効率的な風力発電施設の計画,緑化による温暖化抑制,工場排煙検討など,大気に関するあらゆる環境側面の評価手法として期待されている。

水域環境シミュレーション
水域環境シミュレーションによる東京湾の青潮の再現計算結果

 環境との共生,さらにその修復や自然再生が重要であることは,誰もが認識している。当社の環境シミュレーション技術は,その重要度を数値としてあらわすことで,安全・経済・からの建設事業への社会ニーズと環境との調和を図る,いわばインターフェースとしての役割を果たしているのである。


広域環境シミュレーションの入力データとモデル
広域環境シミュレーションの入力データとモデル


広域環境シミュレーションによる金沢市上空の「風の道」計算結果
広域環境シミュレーションによる金沢市上空の「風の道」計算結果