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九州国立博物館(仮称)新営工事・I工区

東京・奈良・京都に次ぐ4番目の国立博物館を福岡・太宰府で建設中
この博物館は,国の「九州国立博物館(仮称)」と
福岡県の「アジア学術・文化交流センター」からなる複合施設。国や福岡県,地元財団による
九州国立博物館設置促進財団を含めた3者が共同で建設している。
2002年4月に着工,工事は順調に進んでおり,本体は,2004年3月に完成の予定である。

工事概要
九州国立博物館(仮称)新営工事・I工区
場所:福岡県太宰府市
発注者:文部科学省,福岡県,
九州国立博物館設置促進財団
設計・監理:菊竹・久米設計共同体
規模:S造一部SRC造 地下2階,地上5階
工期:2002年3月〜2004年3月
(九州支店JV施工)
九州国立博物館
太宰府天満宮
内観の様子(イメージ)
施設の概要
 建設地は「学問の神様」で有名な太宰府天満宮に隣接した旧境内地の山林。三方を尾根に囲まれ緑豊かなこの地の環境を保全するため,造成は最小限に留めている。
 施設の外観は,建物が周囲の山並みに溶け込むような緩やかな曲線を描いた大屋根が最大の特徴で,壁面はダブルスキンガラスを使用し,自然を建物内に取り込むように設計されている。
 敷地面積は約17万m2,建築面積約1万5,000m2,延べ床面積約2万8,000m2,ジャンボジェット機が2機は納まるという,大規模な建物である。
 構造的な特徴としては,ドームの中に箱型の層状建築物が構築される「ビルディング・イン・ドーム」。内部の層状建築物は,中間免震構造となっている。
 施設内部は3つの層で構成されており,第1層には吹き抜けのエントランスホ−ル,講堂,ミュージアムショップ,レストランなどが配置され,第2層には,企画展示室,収蔵庫,調査研究部門,保存・修復部門など。第3層には常設展示室などが配置される。
 建物全体が,自然の恵みをフル活用した設備計画となっており,土中に敷設したアースチューブを通して,夏は涼しく,冬は暖かい空気を導入して,冷暖房の負荷を低減。さらに太陽光発電設備,放射冷却利用設備,雨水の再利用など,省エネ・省資源対策を施した,環境を最大限に配慮した設計となっている。
九州国立博物館(仮称)完成予想図
現場空撮
大屋根での作業は暑さとの勝負。
「大屋根走行移動式足場」を使用した施工の様子。
構造計画断面図
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構造計画断面図
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新しい施工法にチャレンジ
 当現場を切り盛りするのが,沖縄美ら海水族館などを手がけた実績のある大野所長。「肉体は滅びても精神は残る」という言葉が好きだと話す所長は,人々の記憶に残る建築物を作り上げることに情熱を傾けてきた。
 「現場では必ず何か新しいことにチャレンジして実現することが大事だ」とも大野所長は語る。ここでは,新しい施工技術を2つ誕生させていた。
 ひとつは,ドーム状の大屋根施工の際に,既設の層状建築物の免震機能を止める「水平変位拘束装置」。また,急勾配の大屋根の仕上げに使用する仮設足場も,レールの上でハシゴがスライドする「大屋根走行移動式足場」を開発した。
 どちらの技術も,経済性に優れ,工期短縮にも繋がる技術として特許を申請中である。所長の掲げた「現場でのチャレンジ」は見事に実を結んでいる。
大現場を仕切る秘訣
 この現場は,T工区,U工区に分かれている。建築,設備・電気などを合わせると10もの共同企業体が建設を手がけている。そんな「大所帯」の幹事役を勤めている所長にその秘訣を聞いた。
 「現場は“独立採算制”のひとつの会社でもある。私は,鹿島の社員であろうが,他社の社員であろうが,誰もが自分の会社の社員として考えている。今回,10ものJVが工事を行っているが,皆が一丸となって仕事を成し遂げるという意識を持つことが大切」と語る。事務所に食堂を設置することにもこだわった。職員同士が昼食時に毎日顔を合わせるだけでも,自然と連帯感が生まれてくるのを長い現場経験で知っているからだ。
 「鹿島の若手に一言」との問いには,「現場は人と人とのコミュニケーションが重要。大学を卒業して鹿島へ入ってきても,“ものづくり”の現場の経験はないのだから,ま大野所長ずは現場で職人さんに仕事を教わるという姿勢が大切。一緒に働くことを通じて,職人の立場に立ってものを考えることのできるような社員になって欲しい」と明確に答えた。
 本体の竣工は2004年3月。博物館や美術館は,本体が完成してもすぐに開館できない。コンクリートが含む水分やアルカリ成分,建材の化学物質が展示物に影響を与えることを避けるため,夏を2度越す「シーズニング」が必要とされるからだ。九州国立博物館のオープンは,建物の完成から一年半を経た2005年11月頃。芸術の秋のさなかを予定している。
現場のみなさん