極める

大型風洞実験は建築物等に作用する風の影響調査に用いられる

梅原治子
「技術ガイドの達人」
技術研究所 企画管理室
梅原治子さん

梅原治子さん この取材に伺ったのは7月後半の猛暑真っ只中。照りつける太陽の下,立って聞いているだけでもやっとの暑さ。梅原さんは額に汗することもなく,お客様からの専門的な質問にもよどみなく答えながら,にこやかにガイドを進めていた。
「こんなに暑いのに,汗をかかないのですか?」と尋ねると,「見学の日は水分を摂ると汗もかくし,疲れるので,なるべく控えるようにしているのです」との返答。専任ガイドとして長い経験を積み,徹底したプロ意識を持つ梅原さんは,まさに研究所の「顔」だ。
 彼女が専任ガイドになったのは,今から13年ほど前。当時は男女雇用機会均等法が施行された直後で,社内でも女性の活躍の場を広げようと,女性に任せたい仕事がリストアップされた。そのなかに専任ガイドも挙がっており,「もともと,人と会って話をするのが大好き」という彼女は,自ら志願し初代専任ガイドとなった。梅原さんは,「当初は,ガイドは台本をニコニコと読んで案内すればいい程度の認識だったのです。実は軽く考えていました」と振り返る。しかし,実際に求められた役割は,彼女の想像をはるかに越えていた。「技術の鹿島」を象徴する技術研究所。見学者の中には,建設分野の専門技術者も数多く,こうしたお客様とも適切な受け答えができる能力が求められた。
努力の経緯がうかがえる「梅原ノート」 彼女は入社して3年間は経理を担当しており,技術に関しては全く知識がなかった。その頃はセメントとコンクリートの区別さえも分からなかったという。そんな彼女が,知識の幅の広さという点で,今では研究所の中でも右に出る者はない存在となった陰には,並々ならぬ努力があったのだ。分からないことがあれば所内の図書室に通い,研究員に直接聞きに行くなどして自分が納得できるまで勉強した。自分の言葉で勉強の経緯を綴った,通称「梅原ノート」は今では何にも代え難い宝となっている。
研究棟に用いられている免震装置を紹介 今までで一番印象に残った仕事は初案内だという。お客様は地方の建設業協会一行というプロ中のプロだった。緊張のあまり思うように案内が出来ず,同行の上司に助けを借りて何とか無事に案内は終了。帰り際に「そのうち慣れるから頑張って」と声をかけていただいたことが素直に嬉しく,これからも頑張ろうと強く思ったという。それから13年。彼女は年間1,500名を超す来訪者の対応に当たり,延べ約2万名もの見学対応に当たったことになる。
 小柄な体にそんなバイタリティーがどこに潜んでいるのだろう?と感心していると,実は彼女,プライベートでは小劇団に所属し,年に2回の公演をこなす役者さんでもあったのだ。そんな彼女だから,1回の見学をひとつの舞台と見立て,役を演じるように,お客様を魅了しているのであろう。
 「今の仕事を続けている一番のエネルギーは,お客様の笑顔ですね」と語る梅原さん。現在は彼女の気持ちを受け継ぐ後輩ガイドの育成にもあたっている。今後は「お客様を迎える舞台」の演出家としても,活躍の場が広がっていく。