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木ノ川高架橋工事

国内初の鋼・コンクリート複合トラス橋
紀伊半島のほぼ南端に位置する和歌山県新宮市。
太平洋の美しい海岸線を走る国道42号線に並行して,全長8.9kmの那智勝浦道路の計画が進められている。今月は,この道路の一部となる木ノ川高架橋の建設を紹介する。

地図
工事概要
工事名:那智勝浦道路木ノ川高架橋工事
場所:和歌山県新宮市
規模:
上部工;橋長268.0m,幅員11.15m,
4径間連続 鋼・コンクリート複合トラス橋
下部工;逆T式橋台(2基),柱式橋脚(3基)
基礎工;深礎杭(3.0m),大口径深礎杭(7.5m)
工期:2001年4月〜2003年3月
(関西支店施工)
木ノ川高架橋工事


設計・施工一括発注による橋梁の建設
 公共工事は,設計と施工を分離して発注することが原則となっている。そのような中,ここ木ノ川高架橋工事では,設計と施工を一括して施工会社に発注する「設計・施工一括発注方式」(デザインビルド方式)が,橋梁としては全国で初めて採用された。
 これは公共工事に対する透明性,公平性,効率性が求められているなかで,民間技術を最大限活用し,事業全体にかかるコストをできるだけ低減させようというものだ。
 入札に先立ち,橋長や幅員などの基本性能のみが規定され,形式や径間数を問わない自由な橋梁の提案が求められた。これに対して,当社は国内初の合理的かつ経済的な新しい構造形式の「鋼・コンクリート複合トラス橋」を提案した。そして,安全性などに関する技術審査を通過した10社の中から落札することができた。
 施工を担当する瀬戸所長は,「入札にあたっては,上部工と下部工も一括発注され,施工の一層の合理化が期待されました。当社案に対しては,実物大の模型実験を行うなどの条件が付き,工事以外でのコストアップ要因が見込まれましたが,発注方式,構造形式ともに国内初の工事に挑戦する意義は大きい」と語る。

瀬戸所長 鋼トラス斜材。鋼材の厚みを5段階に分けている
瀬戸所長
鋼トラス斜材。鋼材の厚みを5段階に分けている


鋼とコンクリートの特性を活かした構造
 この鋼・コンクリート複合トラス橋は,上下のコンクリート床版との間に,鋼製のトラス斜材を挟み込んだ構造となっている。上部工の側壁がコンクリートから鋼製のトラス斜材に置き換わったことで,上部構造の軽量化に成功した。
 また,トラス斜材には鮮やかな緑色が採用され,周囲の景色との調和を図るよう景観にも配慮されている。
 瀬戸所長は,「トラス斜材は設置される場所によって加わる力が異なるので,部位によって鋼材の厚みを5段階に変えている」と,一本一本の鋼材にいたるまで綿密に合理化されていることを説明する。トラス斜材とコンクリート床版との接合部は,構造上特に重要な「格点部」と呼ばれるところで,当社が独自に開発した構造となっていた。
 その他,プレストレストコンクリート(PC)技術も上部構造の軽量化に貢献している。薄い床版でも大きな力に耐えられるように,あらかじめプレストレス(圧縮力)を導入し,上部工の自重を軽減しているのだ。
 「この橋は,鋼トラス斜材による鋼構造と,PC構造のそれぞれの長所を合わせた合理的な設計がされています。上部工の軽量化により,下部工への負担が軽減され,橋脚や基礎のスリム化にも寄与している」と橋の構造について瀬戸所長は話す。

鋼・コンクリート複合トラス橋の概要図 格点部の構造
鋼・コンクリート複合トラス橋の概要図
格点部の構造


当社の総合力が発揮された工事
 鋼トラス斜材を特徴とした複合トラス橋は,上部工の側壁のコンクリート工事が不要となるため,上部構造の軽量化とともに工期短縮も実現している。
 上部工と下部工を合わせて設定された2年間という短い工期のうち,最初の半年間は設計作業に費やされた。しかも,地元との調整や仮設工事の見直し等により着工が遅れ,実際に本体工事が始まったのは昨年の11月末だった。
 この厳しい短工期での施工に対応するべく,上部工では張出架設工法が採用された。これは,“やじろべえ”のように橋脚を軸としてバランスをとりながら,左右均等に上部工を張り出していく施工法である。張り出した両端には,フオルバウ・ワーゲンという移動式の架設作業車を設置し,ここでコンクリート床版の構築や,鋼トラス斜材の据付け,プレストレスの導入などを行う。この工法により,10日間で上部工を8m構築することが可能となっている。
 構造形式,施工法ともに合理化を追求し,着工から9ヵ月という短い期間で,現在までに下部工の建設を終え,約半分以上の上部工を完成させた。これらの設計や施工では,支店はもとより技術研究所,土木技術本部,土木設計本部,機械部などの本社機構も有機的に連携し,現場を強力に支援してきた。まさに当社の総合力が発揮されている工事といえよう。

上部工の先端では,移動式の架設作業車(フォルバウ・ワーゲン)を設置し,コンクリート床版の構築や鋼トラス斜材の据付けをしている
上部工の先端では,移動式の架設作業車(フォルバウ・ワーゲン)を設置し,コンクリート床版の構築や鋼トラス斜材の据付けをしている

鋼トラス斜材は,当社が開発した格点構造を介して上下のコンクリート床版と結合される 鋼トラス斜材の脇を走るケーブルが床版にプレストレスを導入している
鋼トラス斜材は,当社が開発した格点構造を介して上下のコンクリート床版と結合される
鋼トラス斜材の脇を走るケーブルが床版にプレストレスを導入している

ワーゲン内では,上床版の組立作業が行われていた
ワーゲン内では,上床版の組立作業が行われていた