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阪神電鉄本線春日野道(かすがのみち)駅改良工事

70年ぶりの駅リニューアル工事 
神戸市中央区東部と灘区西部の臨海部で整備の進む新しいコミュニティと文化を育む街づくり,HAT神戸(Happy Active Town:東部新都心)の最寄駅として,阪神電鉄本線春日野道駅は今後大幅な乗客数の増加が見込まれている。現在の駅施設は狭小で,こうした状況に充分に対応することが困難なことから,駅施設の大規模な改良工事が進められている。

工事概要
阪神電鉄本線春日野道駅改良工事の内土木・
建築関係工事
場所:神戸市中央区
発注者:阪神電気鉄道
規模:土留壁工(SMW工法)3,126m2 
路面覆工3,284m2 土工事21,500m3 
コンクリート工6,808m3 既設躯体撤去工917m3
工期:2001年5月〜2006年3月
(関西支店施工)

現場の上を国道2号線が走る。上が三宮方面
春日野道駅
春日野道駅エピソード
 春日野道駅は,三宮〜岩屋駅間の地下線化(全長約2.9km)に伴い地下駅となったが,当初は地下線の完成時には廃止される予定であった。しかし,工事着手(1931年2月)後に,地元からの要望等により急遽駅を設置することになったらしい。このため,地下線の開通時(1933年6月)には駅の開業が間に合わず,一度廃止され,その約11ヵ月後(1934年5月)に地下駅として復活している。工事着手後に駅の設置が決まり,設計変更を実施したため,上下線の中央にホームを設置するしかなく,現在の稀に見る狭小な島式ホームが誕生することとなった。
日本一狭いホーム
 春日野道駅の両側に位置する三宮(さんのみや)・岩屋駅間が地下化されたのは,約70年前,1933年6月にさかのぼる。翌年発行された当時の資料(土木学會誌・彙報(いほう))によると春日野道駅は「隧道區間の中央部に存する地下式停留場にして上下線の中央に幅員3米,長120米の乗降場を置き・・・」とあるが,現在供用されているホームの幅はこの資料の記述より40cm余り狭い2.6m。その後の車両の大型化に伴い,ホームの両端が20cmずつ切断され,軽自動車の全長よりもさらに狭いホームが長年にわたって使われてきた。
 駅改良工事が本格的に着手されたのは2001年11月。駅部の地下トンネルを拡幅し,大阪・梅田方面行きの上り線と三宮方面行きの下り線の外側に新たにそれぞれ幅4.7mのホームを建設し,あわせてエレベータ・エスカレータ等を整備し,HAT神戸の玄関口に相応しい駅施設を整備するもの。
 現在,工事は新ホームの建設がほぼ完了。9月末にはその仮供用が始まり,日本一狭いホームはその歴史の幕を閉じることになる。
幅2.6mのホーム。朝夕は乗客で溢れ返る
施工性・安全性に配慮した工法の変更
 狭隘な施工条件,営業線での工事のため,作業には細心の注意が必要なことは言うまでもない。当工事では,施工性と安全面に配慮した工法が随所に採用されている。

「コリジョンジェット工法」
 既設構造物は一部を残し,はつり出し,新設構造物と接合させる必要がある。このはつり作業に採用されたのが「コリジョンジェット工法」。高圧水の衝突噴流を利用し,はつり深さを制御するこの工法は,既設の躯体にマイクロクラックを発生させず,鉄筋を傷つけないという施工上のメリットだけでなく,騒音と振動を大きく低減できる。狭隘な駅を利用する乗降客にできるだけ不快感を与えないという配慮から,当初のブレーカーを使用する工法を変更し,採用された工法である。

「防護パネル」
 また,現場の梶原所長が“当工事の目玉”と表現するのは,既設構造物撤去工で営業線防護のために導入された「防護パネル」だ。
 当初予定した工法では,既設のコンクリート側壁の撤去作業は列車運行に支障を来たすため,深夜停電となるわずか3時間弱,なおかつ週に3日間程度しか施工できない。切断したコンクリートは,新設ホーム側からフォークリフトで搬出する予定だった。
 この工法では施工性が著しく低いため,営業線側に鋼製キーストンプレート(剛性を高めるため平板を折り曲げ加工した軽量形鋼)を防護パネルとして設置することで,昼夜自由にコンクリート撤去作業を行えるように工法変更を行った。コンクリート搬出作業についても,上下に2分割した側壁をチェーンブロックで外側に引き出し,ブラケット上に仮受け,新設ホーム内天井部に設置した2.8t吊ホイストクレーン2基で搬出する工法へ変更した。
 この工法変更により,昼間の作業が可能になり,工程上大きなメリットを得ることが出来た。
着工前の狭小な駅施設
完成後。広々とした駅が誕生する
上下線の外側を掘削。既設の構造物をはつり,新設躯体と接合させる 既設側壁を撤去し,新ホームの構築が本格化する
防護パネルをホーム側壁に張り巡らせる。左は既設ホーム
側壁下部を撤去する。右の円柱は新ホームの柱
側壁を撤去し,防護パネルを取り外したところ。ほぼ完成した新ホームから,中央の既設ホームが見える
ホイストクレーンで側壁上部を撤去する。奥の防護パネルの外を列車が走る
既設躯体アーチ部撤去工事
 本年9月末に新設ホームの供用が開始されると,次に,当工事最大の難関である既設のアーチ型コンクリート躯体をワイヤーソーで切断し,場外へ搬出する作業が始まる。現在の改札口を閉鎖し,改札口を新設するためには既設の構造物を撤去する必要があるからだ。
 現在の駅東端部を覆っているアーチ型コンクリート躯体は,長さ約17m,幅約10m,厚さ80cm。この70年前に構築されたものとは思えない程の強固な構造物を35個に切断・分割し,夜間に1個ずつ150tクローラークレーンで地上へ吊り出す作業が始まる。切断されたコンクリート塊は1つが約36tにものぼる。
 この撤去工事は準備工事を含め,工期は約5ヵ月。引き続き新躯体の構築工事が3ヵ月間続く。来年5月末までは,現場のスタッフは息が抜けない毎日が続くことになる。
既設躯体アーチ部の撤去作業(模型)
2006年4月の駅開業をめざして
 アーチ部撤去後は地上部への出入口・通路工事,新改札口設置工事,内装・設備工事,仕上げ工事等が本格化し,土木工事から徐々に建築工事に比重が移る。
 今後の工事では,現在,駅の東側のみに設置されている改札口は西側にも設置され,乗客の利便性は格段に向上する。エレベータやエスカレータ等のバリアフリー設備を完備した駅は,2006年4月には市民生活を支える快適な施設として生まれ変わる。

工事模型を前に,梶原所長(右端)と現場の皆さん