[2005/3/22]


免震用積層ゴムの新据付工法

「ウインカー工法」で適用範囲拡大

引張りを受けても積層ゴムが損傷しない工法を実用化・一般評定取得

背景ウインカー工法の概要ウインカー工法の特長

ウインカー工法の適用物件今後の展望

 鹿島(社長;梅田貞夫)は、超高層ビルや不整形な建物でも信頼性の高い免震構造を低コストで実現できる「ウインカー工法」を開発しました。
 これまで、超高層ビルのようなスレンダーな形状の建物の場合、大地震時に積層ゴムに引き抜き力がかかり、引っ張りに弱い積層ゴムに損傷が生じる恐れがあるため免震には不向きとされています。それを克服するために様々な対処法が開発されていますが、コスト等に課題がありました。今回当社が開発したウインカー工法は、積層ゴムを鋼製のウイングプレートを介して基礎に固定する据付工法で、積層ゴムに引き抜き力が発生した場合、ウイングプレートが引張変形の大部分を吸収するため、積層ゴムはほとんど引張力を受けず損傷も生じません。特殊な装置が必要ない固定方法なので、これまで困難で制約のあった超高層ビルや不整形な形状の建物でも信頼性の高い免震構造を低コストで実現することができます。本工法はこのほど日本建築センターの一般評定を取得したことから、煩雑な手続きが必要なく、他社設計の免震建物にも適用可能です。
   このウインカー工法は、47階建ての超高層免震マンションを含む3件の施工中の免震建物に適用が決まっています。
 
積層ゴムを6枚のウイングプレートで固定
積層ゴムを6枚のウイングプレートで固定
(検証実験試験体)

背景



 免震構造とは、建物と基礎の間に揺れを吸収する装置を設けることで、建物に伝わる地震力を小さくする構法です。地震時の建物の揺れを3分の1〜4分の1に低減でき、内部の機能を維持することができることから、阪神大震災以降、マンションや病院、庁舎、オフィスビルなどその適用件数は大きく広がっています。当社は、1986年に技術研究所内の音響実験棟に免震構造を採用して以来、約150棟の免震ビルを手掛け、その実績は長年に亘り業界トップクラスを維持しています。また、2003年9月の十勝沖地震、2004年10月の新潟県中越地震において当社設計施工の免震建物で地震観測記録が得られ、優れた免震効果が実証されています。
 しかし、免震構造は超高層ビルやスレンダーで不整形な形状の建物には、積層ゴムに引張力がかかるため不向きとされてきました。大多数の免震建物で採用されている積層ゴムは、鋼板とゴムを交互に重ねた構造の免震装置で、建物の自重を支える圧縮力には強い反面、引張力には弱く小さな引張り鉛直変形でも積層ゴムに破断などの損傷が生じる危険性があります。そのため、引張力が局部的にかかる超高層ビルやスレンダーな形状の建物を免震構造とする場合、大地震時において積層ゴムに引張力が作用しないよう設計しなければなりませんでした。このことは、高層免震建物や不整形形状の免震建物の設計では、相当の困難・制約を伴う場合があり、超高層免震建物のコストアップや適用に技術的制約を与えている場合がありました。これまでは、引張力対策として積層ゴムとは別にボールベアリングを用いた直動転がり支承などの特殊な免震装置を設置したりしていましたが、装置が高価であることや長期荷重によるクリープ性の違いなどにより積層ゴムとの併用が難しい点などの問題点がありました。
 このため、引張力に対応できる簡易な工法が開発されれば、免震構造の適用範囲が拡大し、建築計画の自由度がさらに向上するものと期待されていました。
 今回の「ウインカー工法」は、新しい積層ゴム据付工法であり、2〜5cmやそれ以上引張り変形を受けても積層ゴム本体に損傷が生じません。これまで免震構造には不向きとされてきた超高層建物や不整形状の建物にも信頼性の高い免震構法を採用することが可能となります。
 
引張力

ウインカー工法の概要


 今回開発した「ウインカー工法」は、積層ゴムを直接基礎に固定させるのではなく、ウイングプレートと称する鋼板を介して建物下部基礎に定着させる工法で、積層ゴム本体に加工を加えることなく引張力対策が可能です。中小地震時には、通常時の場合と同じく建物重量による軸力は積層ゴムの下部鋼製フランジから建物基礎へ直接伝えられます。設計で想定する最大級の地震時において積層ゴムが引張り変形を受ける場合は、その大部分を鋼製のウイングプレートが吸収するため、積層ゴム本体に過大な引張り応力や引張り歪が生じず、積層ゴムの損傷を回避することができます。ウイングプレートの取付は、取替え可能なようにボルト接合としています。
 本工法の検証実験を、大手積層ゴムメーカーである(株)ブリヂストンおよびオイレス工業(株)と共同で行い、狙い通りの鉛直引張り特性が得られ、水平方向にはウイングプレートが剛強で積層ゴム水平特性に殆ど影響がないことを確かめています。これらを基に(財)日本建築センターの免震構造評定委員会の審査を受け、本工法は3社共同で昨年12月に免震関係では日本初の一般評定を取得しました。
 
ウインカー工法模式図
ウインカー工法模式図
 
ウイングプレートの平面配置例
ウイングプレートの平面配置例

ウインカー工法の特長

 

 「ウインカー工法」の特長は以下のとおりです。

  1. これまで引張力がかかりやすいことから免震に向かないとされていた高層建物や不整形な形状の建物にも信頼性の高い免震構法を低コストで適用でき、適用範囲が広がります。
  2. 本工法では引張りに抵抗する特殊な免震装置が不要で、コストを低減できます。
  3. 本工法におけるウイングプレートは、設計法が確立されており必要性能に応じてその形状や厚さを決めることが可能で、鉛入り積層ゴムなど種々の積層ゴムに対応できるほか、引張り変形として5cmやそれ以上に対しても対応できます。
  4. 新工法にもかかわらず一般評定を取得したことより許認可が容易で、大臣認定を受けない免震建物にも過大地震入力時のフェイルセーフとして採用することができます。

ウインカー工法の適用物件

 

 「ウインカー工法」は、既に工事中である下記3件の免震建物への適用が決まっています。
 
キャピタルマークタワー工事概要

 
ジェントル エア神宮前工事概要

 
目白ガーデンヒルズ工事概要

キャピタルマークタワー
キャピタルマークタワー
ジェントル エア神宮前
ジェントル エア神宮前
 
目白ガーデンヒルズ
目白ガーデンヒルズ

今後の展望

 

 免震用積層ゴムの大きな弱点の一つである引張りに対して損傷を回避できる本工法は、引張り破断実験が現状不可能で、実際に損傷を受けた際の取替え交換も大変な労力が予想される大型の積層ゴムに特に有効であると考えています。万が一の過大地震時のフェイルセーフや、不整形性のためごく一部の積層ゴムが早期に引張りを受ける場合などの対策として、当社設計の免震建物に限らず本工法の採用を働きかけていく方針です。
 当社は、今後も地震被害低減へ向けた21世紀の防災都市の建設を目指して、更なる技術開発を行っていく方針です。


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