[2005/4/7]


電子デバイス工場の地震リスクを大幅に軽減する「多層階免震工場」を開発

40mを超える多層階大スパンクリーンルーム工場を免震化


背景鹿島の提案する多層階免震工場の概要

鹿島の提案する多層階免震工場の特長今後の展望

 鹿島(社長;梅田貞夫)は、電子デバイス施設の地震リスクを大幅に軽減する「多層階免震工場」を開発しました。
 今回開発した鹿島の多層階免震工場は、40mを超える大スパンのクリーンルームを多層化し、工場全体を免震化することにより、地震による操業停止などのリスクを大幅に軽減できるものです。鹿島の保有するカテナリーアーチ構法により、この大スパンのクリーンルームを実現することが可能となり、生産ライン・レイアウトの自由度が大幅に向上します。免震化によるコストアップは、建屋・生産装置・ユーティリティを含めた初期投資額の1%未満に抑えることができ、工期についても通常建物とほぼ同じとなっています。
 
「多層階免震工場」の模型
40mクラスの大スパンを実現した鹿島の「多層階免震工場」の模型

背景



 液晶パネルや半導体などの電子デバイスを製造する工場においては、従来からの短工期、ローコスト、日常の微振動対策等の要求に加え、近年は、液晶パネルなどの大型化に伴って、生産装置も大型化する傾向にあり、生産ラインの大型化に対応する大スパン架構のクリーンルームが要求されています。
 一方、新潟県中越地震などでは、工場施設も大きな被害を受け、生産装置の破損などの直接被害だけでなく、生産ラインの操業停止に伴う売上の減少など間接的な被害も甚大でした。こうした被害を最少とするために、大地震時においても生産ラインの損傷を防ぎ、いち早く生産を再開できることが、生産施設にとって最も重要であることは言うまでもありません。
 このような次世代の電子デバイス施設のニーズに答えるため、鹿島は、生産ライン・レイアウトの自由度を確保できる大スパンクリーンルームを多層化し、さらに建物全体を免震化することにより大地震時にも生産ラインの操業停止などのリスクを大幅に軽減できる「多層階免震工場」を開発しました。

鹿島の提案する多層階免震工場の概要



  1. 多層階の大スパンクリーンルームを実現
  2.  鹿島は、独自のカテナリーアーチ構法(鹿島特許)により、鉄骨造の短工期・大スパンのクリーンルームを建設する技術を保有しており、既に多くの実績があります。今回の多層階免震工場では、従来20m程度であったクリーンルームスパンを、40mクラスという大スパンに拡大し、生産装置のレイアウトの自由度を大幅に拡大しています。
     カテナリーアーチ構法は、一般的に用いられるトラス梁に比較して、少ない鉄骨量で高い剛性を確保できる構法で、40mクラスの大スパンを多層化しても生産装置の微振動条件を満足できます。クリーンルーム床下から下階天井内まで、建物の階高を最大限有効に利用してアーチを構成し、必要な剛性を確保しています。このように多層化する事により、限られた敷地を有効利用することが可能となります。
     カテナリーアーチ構法のもうひとつの特長は、クリーンルーム床下のリターンプレナム部にトラス梁のような斜材がほとんど無く、生産装置の補機、ダクト、配管、ケーブル類の配置が容易な点で、空間を自由に有効活用することが可能となります。
     

    「多層階免震工場」のCGイメージ
    40mクラスのカテナリーアーチ構法による「多層階免震工場」のCGイメージ
     
    施工中のカテナリーアーチ
    施工中のカテナリーアーチ

  3. 免震で地震時の被害を大幅に軽減
  4.  通常の電子デバイス施設では、クリーンルーム棟、エネルギー棟、事務所棟などと建物が分割されている場合が多くなっていますが、今回鹿島が提案する多層階免震工場は、クリーンルームを中央に、それを取り囲むようにユーティリティエリア、事務エリアを周辺に配置することで、生産に必要な施設をひとつの建物内に効率よく配置。建物全体を免震化することによって、地震リスクの大幅な軽減を図っています。
     

    「多層階免震工場」構成イメージ
    「多層階免震工場」構成イメージ

     モデル工場によるシミュレーションによると、兵庫県南部地震、新潟県中越地震に相当する震度6強以上の大地震を受けた場合、クリーンルーム床部分で生産装置が損傷を受けない100〜200gal程度の小さな加速度値に低減することが可能になります。
     
    免震・非免震での応答加速度比較
    免震・非免震での応答加速度比較

     モデル工場で試算した建屋・生産装置・ユーティリティの被害、操業中断による損害を含めた地震時の損失額は、非免震工場の100分の1以下となり、免震化が地震リスクに対する対策として非常に効果的であることを確認しました。免震化することによるコストアップは、建屋・生産装置・ユーティリティを含めた初期投資額の1%未満です。
     
    工法別費用対効果
    工法別費用対効果

  5. 微振動にも強い免震システム
  6.  電子デバイス施設では、製品の歩留まり向上のため、日常的な微振動をいかに減らすかが重要となります。多層階免震工場では、剛性が高く微振動制御に適したすべり支承と、地震後に建物が元の位置に戻る復元能力が高い免震装置である積層ゴムを組み合わせて、最適な配置としています。
     また、免震装置を微振動対策に最適な配置とした上で、鹿島の保有する微振動予測・防止システムである「V-FINEシステム」を適用し、建物周辺、及び、建物内の熱源機器などの振動発生源や振動伝播状況を調査・解析し、必要な対策をとることにより、求められる微振動条件を満足させています。

 
振動発生源

鹿島の提案する多層階免震工場の特長

 

 鹿島の提案する「多層階免震工場」の特長は以下のとおりです。
  1. カテナリーアーチ構法による40mクラスの大スパンクリーンルームの実現により、生産ラインのレイアウトの自由度が飛躍的に増す。
  2. 免震化により、大地震時の加速度を大幅に低減できることから、生産装置の損傷を防ぎ、操業停止のリスクが大幅に軽減できる。
  3. 上層階でも微振動条件を満足させ、多層階を可能としたため、建築面積を減らし、土地の有効活用が可能となる。
  4. 免震装置分のコストアップは、建屋・生産装置・ユーティリティを含めた初期投資額の1%未満(生産装置を除いた総建設コストの2〜3%程度)に抑えることが可能。
  5. 免震建物の場合、基礎部に免震層を設けなければならないが、基礎部のプレキャスト化などの工夫により、一般建物とほぼ同じ工期で施工が可能。

今後の展望

 

 鹿島では、この他にも、電子デバイス施設建設のための多くの技術を保有しています。例えば、直下型地震などで生じる大きな上下動に対する対策が特別に必要な場合は、重要な生産装置の損傷を防ぐオプションとして、上下動制震床システム等も準備しています。今回開発した多層階免震工場を、これらの技術と組み合わせて、今後電子デバイス企業の地震リスク対策の有力な手段として、積極的に提案していく方針です。


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