[2005/9/29]


高靱性繊維補強セメント(ECC)を用いた
プレキャスト梁部材を 建築部材に初適用

スーパーRCフレーム構法の連結梁に適用し高い空間自由度を実現

背景K/ECCとは?−金属のように変形するセメント材料
K/ECCを適用した梁部材の性能K/ECCプレキャスト連結梁の適用事例
K/ECCプレキャスト連結梁の特長今後の展望

 鹿島(社長:中村満義)は、金属のように変形する高靱性繊維補強セメント複合材料Kajima/ECC*(以下,K/ECC)を2000年に開発し、これまで、土木分野において、高耐久補修材料としてトンネルの吹き付けなどに適用してきましたが、このほど、建築構造物における設計法及び施工法を確立し、実構造物の梁部材として2件の超高層RC集合住宅に適用しました。
 K/ECCは、モルタルに極細の高強度繊維を分散させた材料で、モルタルの200倍という引張変形性能を有しています。K/ECCを用いた部材は、大きな変形を受けても高いエネルギー吸収能力を発揮できることから、繰り返し大きな地震を受けても損傷せず、まるで制震装置のような働きをすることができます。
 近年、研究が進んでいる高靱性繊維補強セメント複合材料ですが、建築構造物の部材として適用するのは、世界で初めてです。
 *ECC;Engineered Cementitous Composite

背景



 建物のライフサイクルに対する関心が高まり、構造物の躯体には、地震時の安全性はもちろん、地震後の補修費用を低減する「低損傷性」が求められています。新潟県中越地震では、本震と同規模の余震が数回発生したことから、繰り返し大きな地震を受けても損傷しない躯体が求められています。
 当社では、これまでのセメント材料の常識を超える高い引張変形性能と低損傷性を兼ね備えた高靱性繊維補強セメント複合材料「K/ECC」を2000年に開発しています。今回、この材料を他の部材に比べて大きな変形を受ける超高層RC集合住宅のコア壁を連結するプレキャスト連結梁に適用しました。これにより、耐震性が高く、大きな地震を複数回受けても損傷が小さい連結梁が実現したのです。このプレキャスト連結梁を当社独自の「スーパーRCフレーム構法」に適用することにより、建物頂部の大梁「スーパービーム」を省略することが可能となりました。

K/ECCとは?−金属のように変形するセメント材料



 鹿島で開発した高靱性繊維セメント複合材料K/ECCは、先端的な材料力学を活用して開発されたモルタルに毛髪程度の高強度繊維を分散させた材料です。従来のセメント系材料は引張力にほとんど抵抗できませんが、K/ECCは引張力を受けると多数の微細なひび割れを生じながら、モルタルの200倍の変形まで引張強度を保持できます。金属のように変形し、その変形性能は木材に近いといえます。また、耐火性や耐久性についても通常のコンクリートを上回ることが確認されています。
 

K/ECC部材の曲げ性能試験
K/ECC部材の曲げ性能試験 金属のように変形する

   K/ECC部材では、微細な高強度繊維がモルタルに強く付着し、変形を与えると、0.1mm以下という微細なひび割れが生じますが、破壊につながることなく次のひび割れが生じます。次々と微細なひび割れが多数発生することにより、大きな変形が生じても、荷重に耐えることができます。
 

ひび割れ
 しかし、通常の繊維補強モルタルの繊維含有率が0.2%程度なのに比べ、K/ECCは2%と高含有率であるため、実用に供するには粘度が高すぎ、実験室レベルでの施工にとどまっていました。当社では、材料の調合を工夫することで粘度を下げることに成功し、プレキャスト工場での大量生産を可能としました。

K/ECCを適用した梁部材の性能



 今回、実構造物に適用するにあたって、既往のコンクリート部材の設計法を拡張して、K/ECCの材料特性を考慮した設計法を開発し、構造実験で検証を行いました。
 この材料を梁に用いることにより、地震時の大変形時にも個々のひび割れは鉄筋コンクリートに比較して10分の1の幅(0.1mm以下)に抑えることができるため、内部の補強鉄筋に腐食の生じる危険性が低くなり、高い耐久性を保つことができます。また、大地震を2回以上経験することを想定した多数回に及ぶ繰り返し荷重試験を行った結果、通常のコンクリート構造物と比べ、耐力劣化も少なく、エネルギー吸収能力においてもすぐれており、大地震後も補修することなく継続使用ができることが確認されました。
 
RC梁の構造性能と損傷状況
RC梁の構造性能と損傷状況

 
K/ECC梁の構造性能と損傷状況
K/ECC梁の構造性能と損傷状況


K/ECCプレキャスト連結梁の適用事例


 このK/ECCを世界で初めての建築構造物の部材として、当社が開発した「スーパーRCフレーム構法」で建設中の超高層RC集合住宅のコア壁連結梁として利用しました。
 スーパーRCフレーム構法の中央に位置するコア壁同士をK/ECCプレキャスト連結梁でつなぐことにより、地震時のエネルギーがそこで吸収され、建物頂部にあったスーパービーム、スーパービームに連結される制震装置及び外周のコネクティング柱が不要となり、コストダウンと工期短縮につながると共に、柱の位置や外装などの設計の自由度が増します。今回の2件のプロジェクトでは、一方向に適用しましたが、両方向のコア壁にK/ECC連結梁を適用し、スーパービームと制震装置を2方向とも不要とすることも可能です。この構法を「ニュースーパーRCフレーム構法」と命名しました。
 
グローリオタワー六本木

ナビューレ横浜タワーレジデンス

ニュースーパーRCフレーム構法概念図

K/ECCプレキャスト連結梁現場写真


K/ECCプレキャスト連結梁の特長


K/ECCプレキャスト連結梁の特長は以下の通りです。
  1. K/ECCが地震時の変形エネルギーを吸収するため、大地震時に大きな変形を受けても損傷が小さく、繰り返し変形に対しても強度低下が小さい。
  2. 地震時変形により、ひび割れが分散して多く発生するが、その幅は0.1mm以下と微細なので、地震後に供用しても内部鉄筋の腐食が進みにくく、耐久性が高い。
  3. プレキャスト工場での生産のため、品質が安定した製品を大量生産できる。
  4. 材料費は増加するが、他の構造部材を省略できるため、トータルコストの削減が見込める。


今後の展望


 K/ECC部材には、今回実用化したコア壁の連結梁だけでなく、高いエネルギー吸収能力を生かした様々な使い方が考えられます。間柱として配置し、地震のエネルギーを吸収させ、制震装置の代替として使う方法は有望な使い方の一つです。また、これまで鉄筋コンクリートで作られていた部材をK/ECCで置き換え、耐震性を向上させることも考えられます。RC造の70階建てを越える超超高層集合住宅の設計も可能となると考えています。また、先に発表した「ハイブリッドマルチタワー」においても、このK/ECC連結梁を全面採用する予定です。
 昨年の新潟県中越地震では、本震と同規模の余震が多数回発生しましたが、このような地震の後にも、K/ECC部材には目に見えないほどの微細なひび割れしか入らず、大地震後にも補修が必要ありません。建物の長寿命化、メンテナンス費用の低減が求められている昨今、このK/ECC部材の適用範囲は今後、ますます広がっていくものと考えています。
ハイブリッドマルチタワー概念図


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