[2006/1/11]


地下水を簡易・高精度にモニタリング

少ない観測孔で、 採水と水圧測定をひとつの装置で行うことができる

背景本システムの概要と特長今後の展開

 鹿島(社長:中村満義)は、土壌汚染浄化工事や地下構造物工事などで重要となる地下水のモニタリングについて、地下水の採取と地下水圧の測定をひとつの観測孔で行える簡易で高精度な地下水モニタリングシステムをアメリカのベスト社と共同で開発しました。
 本システムは、米国で地下水採取に多くの実績があるベスト社の「バーキャドシステム」に鹿島とベスト社が共同で改良を加えたもので、複数地点の水圧測定と地下水の採取をひとつの観測孔で行うことができる簡易なシステムです。
 (日米で特許出願中)

背景

 近年、土木・環境分野において、地下空洞やトンネル、土壌汚染に関するプロジェクトなどで緻密な地下水管理が必要とされるケースが増えています。土壌汚染分野では、重金属や揮発性有機化合物(VOC)などによる地下水汚染の周辺環境への影響を予測するために、原位置の地下水の水質を的確に把握する必要があります。地下水や土壌の浄化を行う際にも地下水の状況をモニタリングすることは不可欠です。
 また、放射性廃棄物の処分施設周辺の岩盤における地下水モニタリングは、処分場のサイトの選定及び施工による周辺環境への影響把握、安全評価に際して最重要検討項目のひとつであり、地下水の挙動を把握することは極めて重要です。
 しかし、従来のシステムでは、複数の深度のモニタリングを行う場合、それぞれ別の測定孔を設けなければならず、コストアップの要因となっていました。また、水質を分析するための採水と地下水流動状況を予測するための水圧の測定は、別の装置で行わなければならず、煩雑な作業となっていました。
 さらに、従来の地下水モニタリング装置は、比較的コストが高く、電気ポンプで地下水をくみ上げる複雑な構成のため、機器トラブルが発生する場合があり、必ずしも信頼性が高いとはいえませんでした。
 そこで当社は、ボーリング孔を利用した採水モニタリングに実績のあるアメリカ・ベスト社(BESST Inc.)のバーキャド(Barcad)システムについて、同社と共同で改良を重ね、1本の測定孔で、複数地点の採水・水圧測定を行える地下水モニタリングシステムを開発しました。

従来方式とバーキャドシステムの違い

従来方式とバーキャドシステムの違い

本システムの概要と特長

 アメリカ・ベスト社のバーキャドシステムは、二重管による孔内採水システムを適用しアメリカで多くの実績をあげています。当社はこのバーキャドシステムをベースに、ベスト社と共同で、同じ計測孔で採水だけでなく水圧測定も行えるよう改良を行い、また、斜め孔でも測定ができるように技術開発を行いました。これまで、水圧の測定が難しかった低透水性岩盤においても高精度に測定が行えます。
 多様な地質・地下水条件やニーズに対応可能であり、シンプル、低コスト、信頼性の高い地下水モニタリングシステムです。

今回開発した計測機器

今回開発した計測機器(採水+水圧計測)

 本システムの特長は以下の通りです。

  1. 採水と水圧計測が同一機器で実施でき、短時間計測が可能
    今回開発したシステムは、採水機能を基本としていますが、採水用チューブ先端に水圧計を装着し、観測区間の水圧も測定することができます。同じ計測機器で採水と水圧測定の両方を行うことができるため、効率的で、短時間で計測することができます。

  2. 特別な機器を使わずに採水できる
    これまでの採水システムには、電気式ポンプが必要でした。本システムでは、二重管構造とした観測パイプに、窒素ガスを圧送することにより、従来の電気式ポンプを利用したシステムよりも簡便で効率的に採水を行うことができます。窒素ガスの圧送により採水するため、地下水は空気に触れることがなく、変質することなく正確な水質のモニタリングが可能です。

  3. 少ない観測孔で複数地点の採水・水圧測定ができる
    従来は複数地点の採水・水圧測定を行う場合、観測地点の数だけ観測孔を設ける必要がありましたが、本システムでは、観測地点をベントナイトやパッカーなどの遮水材で仕切ることにより、ひとつの観測孔で複数の地点の採水・水圧測定が可能となりました。観測区間数は、孔径にもよりますがφ100mm孔で4〜5区間が可能です。

    窒素ガス圧送による採水

    窒素ガス圧送による採水

    窒素ガス圧送による採水(4区間同時に実施している事例)

  4. 傾斜孔への挿入・計測が容易
    観測区間がシンプルな構造となっているため、傾斜孔への挿入・計測が容易であり、必要によってバルブ・水圧計部を取り外すことも可能です。したがって、地表構造物の下部や地下空洞周辺など多様な現場条件に応じた地下水モニタリングが可能です。現在、鉛直から45度の傾斜孔まで適用可能であり、さらに水平孔への適用に向けて改良を重ねていく予定です。

    斜め45°孔への多段設置

    斜め45度孔への多段設置

  5. 低透水性岩盤にも適用が可能
    従来、低透水性岩盤は、精度の高い水圧測定が困難でしたが、今回、観測パイプ内を遮水する工夫を加え、低透水性岩盤においても高精度に水圧測定が行えるようになりました。

  6. シンプルな構造で低コスト、大深度も可能
    電気式ポンプが不要でシンプルな機器構成であり、コストも安価。作業手順もシンプルです。深度も最大800mまで可能で、ひとつの計測孔で8区間観測した実績があります。また、20年以上にわたる長期観測も可能です。


今後の展望

 本システムは、構造がシンプルで使いやすい上、どのような地盤・地層にも対応でき、数メートル〜800メートル級の大深度まで対応できる汎用性の高いシステムです。今後、当社では、汎用性が高く、簡易な操作で高精度に測定が行える本システムを、地下水汚染・土壌汚染分野やトンネル、地下空洞のプロジェクト、さらに、LPG地下岩盤タンク、放射性廃棄物処分場プロジェクトなど、地下水管理を必要とするあらゆる工事に積極的に採用していく方針です。


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