[2006/01/19]


直角方向への分岐シールド、無事発進

高水圧下における直角分岐シールド発進工事を防護工なしで無事完了


背景本工事の概要と特徴本工事の技術的な特徴
工事概要今後の展望

 鹿島(社長:中村満義)は、東京都水道局発注の東京都品川区で掘進中のシールドトンネルにおいて、外径4.5mのシールド親機から外径2.4mの子機を直角に分岐発進させる工事をトラブルなく完了しました。地下36m地点での直角分岐発進工事は、高水圧下の工事となりましたが、子機を発進させるための開口部を開ける際に、新開発の「ゲート旋回方式」を採用するなど、様々な工夫をこらした結果、地盤改良等の防護工なしでトラブルなく発進完了しました。

分岐イメージ

シールド機

背景

 近年、シールドトンネルは、大断面化、大深度化、長距離化が進む一方、環境配慮やコスト縮減を目的とした、必要最小断面で掘削するための様々な技術開発が行われています。例えば、複円形シールド(二連シールド、三連MFシールド等)や非円形特殊断面シールド、掘削断面を地中で変化させる技術(親子シールド、VASARA工法をはじめとする可変幅シールド)、多方面に分岐させる技術(オクトパスシールド)、2本のシールドを分岐合流させる技術(D-shapeシールド)などで、その一部は既に実用化されています。
 今回、立坑を構築せずに親機シールドマシンから直角方向に子機シールドマシンを分岐発進させることが要求されました。
 親機から子機が直角方向に発進する分岐シールド工法はこれまでに3件の実例がありますが、そのうちの2件はいずれも外胴スライド方式を採用しています。この方式は、親機の分岐発進部が外胴と内胴の二重構造になっており、分岐位置に到達後、外胴を掘削前方にスライドさせることにより、あらかじめ内胴に設けられた子機発進用の開口が開くというものです。また、残りの1件は、地盤改良施工後、親機のスキンプレートを切断して子機を発進させたものでした。本工事においては、分岐発進地点において、親機が別のシールドマシンと異径地中接合するというこれまでにない条件があり、親機の許容到達誤差として最大偏心量±50mm、最大面角度0.5°という厳しい条件が要求されていました。このため、到達掘進を補助ジャッキで行う外胴スライド方式よりもシールドジャッキにより掘進方向を制御しながら到達させるゲート旋回方式の方が到達精度の確保に有利であると考え、これを採用しました。
 

本工事の概要と特徴

 本工事は、東京都水道局が進めている、東南幹線整備プロジェクトの一環で、三郷浄水場から大井給水所(仮称)までの送水管となる工事です。本工事は、全長3405mが4つの路線に分かれており、そのうち、C路線の到達地点において、親機から子機が直角方向に発進します。分岐発進部分は、完成後は径の異なる配水管の分岐部分になるとともに、別途工事のシールドマシンとの地中接合部となるため、異なった内径の3種類のトンネルが接合する形態となりました。通常では、この地点に中間立坑を設けてそれぞれのシールドマシンの発進、到達を行う工法がとられますが、今回、土地の管理者から立坑築造の許可が得られなかったため、「分岐シールド」と「異径地中接合」が採用されました。

分岐水道管イラスト

 当社と日立建機株式会社は、子機発進用の開口部を開ける新方式として「ゲート旋回方式」開発しました。これは、子機の一部を内蔵した親機が到達地点まで子機発進用開口部のゲートを閉めて掘進し、到達地点でゲートを上方向にスライドさせて、子機発進用の開口部を開けるものです。
分岐発進手順

分岐発進手順の詳細は別添資料参考(PDFファイル 615KB)

 また、分岐発進部の土質は江戸川砂層で水圧が0.3Mpaと、高水圧であり、何らかの発進防護工が求められましたが、地上からの地盤改良が不可能だったため、シールドマシンに装備した止水機構により、安全に発進させました。
 2005年7月に親機が到達。2ヶ月かけて分岐発進工事を行いました。子機は、到達立坑までの1024mを掘進し、2006年3月に到達予定です。また、別途施工の2836mmのシールドマシンも2006年3月に到達し、待機中の親機と異径地中接合を行うことになっています。

本工事の技術的な特徴

 本工事では、子機発進のための開口を設ける方式がこれまでに前例のない新方式(ゲート旋回方式)であること、また、子機発進防護のための地盤改良を行わないことなどから、特に、地中で確実にゲートを開けること、ゲートを開けた後の出水事故の危険回避が課題となりました。

分岐発進におけるゲート旋回方式
 分岐地点と地中接合地点が近接しているため、地中接合地点の到達精度が求められましたが、実績のある外胴スライド方式では、補助ジャッキによる到達掘進となるため、到達精度の確保が懸念されました。そこで、シールドジャッキによる到達掘進を可能とするため、到達後にモータでゲートを旋回して子機発進用の開口部を設ける「ゲート旋回方式」による分岐発進工法を採用しました。

シールドゲート部分

 地中でゲートを確実に開けるために、シールドの外とシールド内の圧力差を同じにする事としました。具体的には、マシン内部に内郭圧力室を設け、マシンの外側と同じ0.3Mpaの泥水を注入することで、ゲート内外の圧力を均衡させたのちにゲートを旋回させる方法を取りました。これにより、発進防護工なしという条件下で、トラブルなく分岐発進を行うことができました。

内郭圧力室

ゲートを開けたあとの出水事故防止のための対策
 ゲートを開けた後、4分割された子機を順次親機内で組み立てながらの発進となるため、ゲートを開けたあと、シールド機がエントランスを通過するまで約1ヶ月かかります。その間の出水事故防止のため、子機発進のエントランス部に2段エントランスパッキンを採用し、ゲートと分岐胴のクリアランスにも耐水圧0.7Mpaのシールを採用するなど、様々な止水対策を施しました。また、万が一ゲートが開かなかった場合には、地下水位低下工法と圧気工法の併用で対応することを想定し、また、出水事故が起こった場合の対策として、坑内に緊急止水隔壁を設けましたが、出水等のトラブルなく、分岐発進工を無事終えました。


工事概要

大井シールド工事概要


今後の展望

 本工事で採用した「ゲート旋回方式による分岐シールド」技術は、シールド発進・到達立坑が不要となるため、立坑築造コストの縮減に大きく貢献します。また、立坑用地確保が難しくなっている近年、用地確保のコスト縮減、掘削土量の削減という環境配慮の面からも有効であると考えています。
 また、江戸川砂層、高水圧下という難条件において、発進防護工なしでトラブルなく分岐発進できたことにより、同様の条件の他工事への展開が可能となりました。
 今後も上下水道やエネルギーなどのライフライン築造工事において、分岐シールドへのニーズは多いと考えられます。本工事で得られたノウハウを水平展開し、保有する様々な技術のひとつとして、様々なニーズに応えていきたいと考えています。


プレスリリースに記載された内容(価格、仕様、サービス内容等)は、発表日現在のものです。
その後予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。