[2006/03/30]


光ファイバセンサによる
新しい構造物モニタリングシステムの開発

ひずみの位置を高い精度で計測可能

背景本システムの概要と特長今後の展望

 鹿島(社長;中村満義)は、東京大学の保立和夫教授と共同で、経年劣化等による構造物の変位(ひずみ)を監視し、その健全性を診断する新しい構造物モニタリングシステムを開発しました。
 本システムは保立教授の研究室が提案した新方式「BOCDA方式」の光ファイバセンサを用いるもので、構造物に沿って設置された光ファイバ全長のどの位置でも瞬時にひずみ計測を行うことができる画期的なシステムです。本方式では、ひずみ発生の位置を数cmという高い精度で特定することができます。このほど秋葉原駅前の公共デッキにおいて実証実験を行い、その実用性を確認しました。
 今後、鹿島では橋梁や発電所・空港等の重要構造物の健全性評価に、本システムの導入を積極的に提案していく方針です。

背景

 近年、橋梁やダム、原子力発電施設等における老朽化や地震等による構造物の変位を計測し、その健全性を診断する『ヘルスモニタリングシステム』に関心が寄せられています。ひずみを計測する手段として、小型軽量で長寿命という特長をもつ光ファイバひずみセンサを用いた手法が注目されていますが、現在市販されている
FBG方式やFPI方式では、ファイバに設置された1点または数点のセンサ部分でしか計測ができないため、ファイバ全長にわたってのひずみ計測が不可能でした。また、ファイバ全長にわたり計測ができるBOTDR方式は実績が多いものの、計測に時間がかかるうえ、ひずみ発生の位置を特定できる限界が1mのため、適用範囲が限られていました。

各手法の比較

各手法の比較

 そこで、当社は東京大学保立教授と共同で、光ファイバに沿ってどんな位置でも短時間で、かつセンチオーダーでの非常に高い精度でひずみ発生の位置を特定できる新しい構造モニタリングシステムを開発しました。

本システムの概要と特長

 本システムは廉価な通信用光ファイバを使用し、構造物に沿わせた光ファイバ両端から周波数の異なる変調された光を挿入します。対向する周波数の異なる光が同期する場所でのみ強い散乱光が発生します。また、光の変調周波数を変化させると、散乱光の発生位置を任意に高速で変化することができるため、短時間で高精度な計測が行えることになります。そのときのふたつの光の周波数差を分析することで、ファイバ全長のどの位置にひずみが生じたかを高い精度で特定することができます。

計測原理
計測原理

 通常時は構造物の中央部等で動的ひずみの計測と固有振動数を常に監視していますが、地震や経年劣化等の影響で固有振動数に変化が有った場合、自動的にファイバ全体のひずみ分布計測に切り替わります。これらの結果は、初期値と比較され、その位置の構成材料や重要度を検討した結果、有意な“変化あり”と判断された場合、インターネット経由で担当者にメールで通報されます。また、必要に応じて監視位置を自由に移動することができます。

BOCDA方式による健全性診断フローを下図に示します。

健全性診断フロー
健全性診断フロー
クリックすると拡大されます

 今回開発したBOCDA方式と従来の3方式のモニタリングシステムを2005年3月から1年間、秋葉原駅前の公共デッキ主桁部に適用し、数々の実証実験を行い本システムの実用性を確認しました。

モニタリングシステムの構成
モニタリングシステムの構成

 本システムの主な特長は以下の通りです。

1.健全性を詳細に診断可能
 入射する光の変調周波数をコントロールすることで、ひずみが発生している場所をセンチオーダーで特定することができます。このため基礎や地中の構造物等、目視できない場所等に対しても健全性を詳細に評価できます。

2.健全性を瞬時に診断可能
 光ファイバの両端から連続した光を対向することで、常時強い散乱光が発生するため、従来まで必要であった繰返し計測の必要がありません。このため瞬時にひずみを計測し、健全性を迅速に評価することが可能です。

3.高いシステム自由度
 ファイバ全長のどの位置でも動的計測が可能な唯一の技術です。リニューアル等により構造上変化があった場合にも監視位置を自在に変えることができるので、光ファイバを設置しておくだけで自由度の高いシステムが構築できます。


今後の展望

 今後当社では、実構造物のモニタリングを継続し、健全性診断方法の確立に向けたバックデータを蓄積するとともに、防爆性や長寿命等光ファイバのメリットを生かし、橋梁や地下構造物、エネルギー関連施設等への本システムの導入を積極的に提案していく方針です。


プレスリリースに記載された内容(価格、仕様、サービス内容等)は、発表日現在のものです。
その後予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。