設計図を描く前に、建物をつくるために必要な情報をお客さまから引き出してまとめるのが設計者の大切な仕事です。どんな建物にしたいのか、お客さまと一緒に考えます。
設計者といえば「机に向かって設計図を描く人」だと思っていませんか?実は設計図を描くよりもっと長い時間をかけて、お客さまが想い描いているイメージをどのようにして実際の建物にするかを考えています。
「窓がいっぱいで明るいマンションにしたい」「オシャレなファッションビルにしたい」「患者さんが安心できる病院にしたい」「かっこいいデザインのオフィスビルにしたい」などなど。
お客さまと話し合いながら、イメージをふくらませる。ここから仕事が始まります。
住宅街のなかに突然、工場ができたら困りますよね。建物をつくるには守らなければいけない、いろんな法律やルールがあります。
社会や街のルールをしっかり守りながら、お客さまの希望をかなえるために、「本当にお客さまが望んでいることは何だろう?」と考えながら、「建物の中で働く人が快適に過ごせる工夫」や「心地よい空間を感じられるデザイン」などのアイデアをいっぱい提案していきます。
建物をできるだけ長く使ってもらえるように、ケンチクは「これからどんな新しい技術が使われるのだろう?」「どんな働き方になっていくのだろう?」など、“今”だけじゃなく“これから”の世界を想像して建物を設計します。
誰もが利用しやすい建物、環境に優しい建物、地域の人々に愛される建物になるように、「これからの社会や暮らしってどうなっていくのだろう?」といつも考えて設計しているのです。
建物をつくる場所(敷地)で、どれくらいの規模のものを建設できるのか、お客さまの要望事項や法律・ルールなどを考えて想定する作業のこと。これによって、建物の面積や高さを確認します。
建物を設計する前に、まずは法律や条例、環境などの条件に合った建物にするため、
いろんなところに聞き込みをします。
設計の前にケンチクとセツビは建設予定地に行って、その土地について調べ回ります! 敷地の形は? 高低差は? 日当たりは? 騒音や振動は? など細かく調査します。
そして大きな視点で見ることも忘れません。その周辺地域にはどんな人が住み、どんな建物があり、どんな景観なのか。人や車の流れを観察したり、周辺のマンホールや電柱の場所を調べたり、音に耳を澄ませたり、遠くから眺めてみたり。
その姿はまるで刑事や探偵のようですが、素晴らしい建物をつくるために頑張る設計者なのです!
設計者が水道局や消防署に行くなんて、ちょっと意外かもしれませんが、建物の中で過ごすには、飲み水やトイレの水も必要ですし、他にもゴミを捨てる場所や、緊急時の避難経路や消火設備など、確認しなければいけないことがたくさんあります。
建物を使う人に安全に過ごしてもらうため、ケンチクとセツビは水道局や消防署、市役所・区役所などに直接話を聞きに行きます。設計者も消防士と同じように人の命を守るために、責任を持って建物を設計するのです。
大きな建物になると、その地域の景観や雰囲気、人の動きや車の流れ、そして日当たりや風の流れまで変えてしまうことがあります。だから、設計者は建物ができたときの周りの様子を予測します。
素晴らしい建物ができたとしても、その地域の良さが失われたり、渋滞が発生したり、日当たりが悪くなったり、風が強くなったりしたら残念です。
そうならないように、設計者は、建物だけじゃなく周りの環境をよく考えながら、お客さまや地域の人々に満足してもらえるような建物を目指します。
建物の大きさや安全性を定める基本ルール。
これに関連して検討しなければならないルールもたくさんあり、地域の街づくりのルールや景観法、バリアフリー法などがあります。
建物ができるまでの間に、お客さまと一番多く話し合うのがケンチク。お客さまの
気持ちになって、建物の大きさから外観、機能まで、あらゆるところに気を配ります。
いろいろな調査や確認をしたら、いよいよ建物のデザインを考えます!先に調べたたくさんの問題を解決しながら、お客さまに満足していただけるデザインが描けるまで、本当に何度も何度も描き直します。
基本的な設計図は平面図、立面図、断面図の3種類。さらにパース(完成予想図)や模型などもつくります。はじめは線だけだった図面が、細かい部分まで描かれた設計図になり、徐々に建物の姿がはっきりしてきます。大変な作業ですが、このデザイン作業こそ腕の見せどころ。ケンチクもここぞとばかりに力が入ります!
建物の設計は、毎回ちがうお客さま、ちがう場所でのオーダーメイドなので、同じ作業はありません。だからこそ、お客さまとのチームワークが大切です。
設計図を見たお客さまから「もっとこうしたい!」という希望を受けて、「それならこうしてはどうでしょうか?」という提案をする。ケンチクが思いつかなかったようなアイデアが、お客さまと一緒に考えることで突然生まれることもあります。
どんな発想が飛び出すか分からないからこそ、設計のおもしろさは尽きることがありません。
ケンチクは、セツビとコーゾーを加えたチームのリーダー役です。ときには難題や壁にぶつかりながら、しっかりとチームをまとめていきます。セツビやコーゾーはその道のプロ! そんな二人にしっかり力を発揮してもらいながら自らも実力を出し切ってチームの力が最大になるようにしなければなりません。
さらに工事を行う現場担当者の意見も取り入れながら最終的に設計図をまとめていきます。
建物づくりには関係者が多いので、まとめ役であるケンチクの“頼りがい”が成功の鍵になるのです。
Computer Aided Designの略。
昔は製図板を使って一枚一枚手描きでしたが、最近はパソコンにより3D(3次元)で作図して、さまざまなシミュレーションを行いながら設計するようになりました。
柱や梁(はり)などの骨組みをつくる構造設計は、建物の外からは見えませんが、
建物を支え、安全で安心な空間を守るためになくてはならない、縁の下の力持ちなのです。
すごく素敵なデザインの建物でも、地震や火災などの災害に弱い建物だったら誰も使いたくないですよね? 反対に、とても丈夫だけど、使いづらくてデザインもイマイチだと何だか残念です。
コーゾーは骨組みを計算して丈夫な建物を設計するのが仕事。どうしたらお客さまの希望をかなえながら安全な建物にできるかを徹底的に計算します。
カッコイイあのデザインの建物も、見たこともないような斬新なあの建物も、実はそんなコーゾーの努力の積み重ねがあってこそなのです。
日本は世界で地震が最も多い国なので、地震に強い建物をつくることはとても重要です。
さらにコーゾーは「揺れ」だけでなく、いろいろな「力」を相手にしています。「もしも大型台風がきたら?」「もしもこの建物に1,000人が入ったら?」など、あらゆる状況を“もしも”と想定して建物の構造を計画します。
地震や津波、台風や大雪などいろんな災害や自然現象の予測や実験を行ったり、コーゾーの仕事はいわば自然が相手。
コーゾーの“もしも”が、建物の安全を守っているのです。
地震対策技術が世界一と言われる日本。鹿島の構造設計部門も非常に高いレベルの実績を持っています。
厳しい環境や複雑なデザインの建物の場合など、構造設計だけを鹿島に依頼されることもあるほど。
そんな知識と経験を持つのがコーゾーです。日本の地震対策の特徴は、建物を丈夫にするだけでなく、建物の揺れを抑えたり(制震)、地面の揺れを建物に伝えないようにする(免震)ことで、中にいる人や物を守る工夫や技術が豊富なこと。
コーゾーはまさに縁の下の力持ちなのです。
設備設計は、建物内で人が快適に過ごすための環境を整える仕事です。
五感をとぎすませて、心地よい空間を設計します。
住む人や使う人が“あたりまえ”のように考えている、住みやすさや使いやすさをつくるのが設備設計の役割です。ガラス張りのショールーム、吹き抜けのあるショッピングセンターなどの建物は、セツビにとっては難問。「どうしたらこの建物を快適にできるのか」を考え、いろんな工夫を行い実現することが重要な仕事です。
お客さまからの「こんな空間をつくりたい!」という希望にお応えするため、さまざまなスペシャリストが協力して、お客さまの「やりたいこと」を「できること」にしていきます。
万が一、火災や地震が起こったとしても、停電したり断水したりしたら大変です。特にたくさんの人が利用している建物の場合、「いざというときの備えこそ大切だ」とみんなが考えるようになってきています。
セツビは、そんな万が一に備えて、建物内に水を貯めておける設備や、緊急時に電源を確保できる設備などを用意します。そして、今では環境にやさしい究極の省エネを目指した「ZEB(ゼロエネルギービル)」という目標にも取り組んでいるのです!
“空気の質”って聞いたことがありますか?セツビの仕事では、場所や目的に合った快適な空気の質をつくり出すことが重要な仕事の一つ。たとえば少しの埃さえ許されないクリーンルームをつくって、パソコンやスマートフォンなどに欠かせない半導体の生産ができるようにしたり、清潔で安全な最先端の手術室をつくって、患者さんやお医者さんを支える仕事もしています。
身近なところでは、美術館やスケートリンクなどの建物でもセツビがいろいろ考えて必要な環境をつくり出しているのです。
Zero Energy Building(ゼロ・エネルギー・ビル)の略。
快適な室内環境を保ちながら、できるだけ省エネルギーに努めたり、太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用して、建物が消費するエネルギー量が大幅に削減されているビルのことです。
お客さまのご要望や調べたことをまとめて設計図を作成し、お客さまにご提案します。
また、工事に向けて、工事担当者との作戦会議も始まります。
さて、「いよいよ設計提案ができあがったぞ!」と言ってもすぐに決定というわけではありません。みなさんの想像以上に、建物をつくり始めるまでが大変なんです。
大きな建物は一旦工事を始めると変更が困難ですし、できあがった後は地域にとっても重要な存在になります。
だからこそ“設計”と一口に言っても、ケンチクとセツビとコーゾーが、お客さまと一緒になって、いろんな角度から知恵をしぼって考え抜くのです。
ようやく建物の大きさや外観、間取り、機能などをまとめた基本設計ができあがり、お客さまにご提案できる時がきました! 平面図、立面図、断面図に完成予想図、模型なども一緒にお見せします。ようやく建物のイメージが形となるワクワクする瞬間です。
鹿島では、建物の工事を担当する工事現場所長も参加して、より安全でスムーズに建てるための “作戦会議”をスタートします。
描いたものが形になっていく設計チームの責任感、また、描いたとおりにつくりあげなければいけない工事チームの責任感が入り交じります。
設計図ができたら、今度は実際に工事を進めるのに必要な、細かい情報が描かれた工事用図面をつくります。いわば「設計図どおりに建物をつくるための図面」です。それは、お客さまと思い描いたとおりの建物をつくりあげるための図面であり、同時に、正確に効率よく安全に工事を進めるための図面です。
お客さまと設計チームが共有したイメージを、今度は設計チームと工事チームが共有し、さらに現場で作業をする職人さんとも共有できるように、図面をもとに何度も打合せを重ねます。
実際に工事を始めるための重要な手続き。
市役所等の建築指導課へ設計図を提出して法規に合っているかの「確認」を受けます。これを終えないと工事はスタートできません。
設計図が完成したら設計者の仕事は終わりではありません!
工事中も現場に足を運び、さまざまな調整をして、完成まで休むことなく走り続けます。
設計図が完成したら設計者の仕事は終わり!ではありません。実は、工事が始まってからも仕事はまだまだ続きます。
工事を進めていくうちに、現場から設計に関する質問や提案が出てきたり、お客さまから「もっとこうしたい」という意見が出てきたりすることもあります。
完成まで「より良くする」余地がある限り、工事中もケンチクが中心となって会議を開き、工事チームやお客さまと数多くのアイデアを出し合います。
設計図どおりに建物ができるまでが設計者の仕事なのです。
工事中、設計者は毎週のように工事現場に足を運びます。
ケンチクは、設計図どおりに工事が行われているかをチェックします。コ―ゾーは鉄骨がしっかり組まれているかを検査したり、セツビはエレベーターやエアコン、配管などがちゃんと設置できているかを検査したり、照明器具を取り付ける位置や光の当たり具合まで確かめて、設計を手直しすることだってあるんです。
設計図はお客さまとのお約束。だから、設計者は建物が完成するまでの間、設計図どおりに工事が行われていることを確認していきます。
お部屋の印象は床や壁などで決まりますが、大きな建物をつくるときもそれは同じです。
外観だけでなく、内装はとても重要なデザイン。建物の骨組みができてくると、次は内装に使う材料を手配する段階です。床材や壁紙、ドアや窓ガラスなど、素材や色柄についてケンチクがお客さまに実物やサンプルをお見せして決定していきます。「床はこの種類の石に」と決めていても、石の模様や色合いは一つひとつ違います。
ケンチクは納得のできる材料を求めて、海外の工場にまで行くことだってあるのです。
設計業務の一つで、設計図どおりに建設現場での工事が行われているか確認する業務。
建物の品質や性能がきちんと実現しているのか、たえずチェックするのがその内容です。
施工図や製作図と呼ばれる、現場が準備する図面の確認も行います。
長い年月をかけて、いろいろな困難を乗り越えて建物が完成した時は、感激もひとしお。
でも、建築設計・設備設計・構造設計それぞれに喜びのポイントは違うのです。
「シュンコウシキ」というのは建物が完成したときのお祝いのセレモニー。
最初のご相談から、設計図ができあがるまでの打ち合わせ、そして工事を無事に終えるまでのさまざまな調整、これまでのいろんな苦労を思い出し、竣工式で設計者は涙してしまうことも。
でも、お客さまから「いい建物をつくってくれてありがとう!」と声をかけていただくと、それまでの苦労はすぐに吹き飛びます。
竣工式は、設計チームが思い描いたデザインが、形となってみんなに見てもらえる瞬間なのです。
自分が設計した建物がオープンする時、セツビが誰よりもドキドキしているのかもしれません。なぜなら、建物を利用する人が気持ちよく快適に過ごせるように工夫するのがセツビの仕事なので、実際に建物を使ってくれた人々の反応が何よりも気になります。
つまり完成した後に自分の仕事の本当の成果が分かるわけです。
室内温度は暑くないかな? 寒くないかな? 照明はまぶしくないかな? 暗くないかな?など細かい点まで建物の様子を観察していきます。
ケンチク、セツビ、コーゾーにとって、完成した建物はまるで“わが子”のような存在。年月が経って建物の使い方が変わったり、技術の進歩があったり、流行が変化したりすると、人が快適に過ごせる環境も変わっていくので、建物が完成したあとも建物への対応とお客さまとのお付き合いは終わりません。
設計チームはみんな、自分たちが生み出した建物をずっとずっと見守り続けているのです。
建物が完成し、お客さまに引渡しする前に行われる各種検査のこと。
施工会社や工事監理者が行う検査、消防署が行う検査、役所などが行う建築基準法に則った建物かどうかを確認する検査、そして、お客さまが行う検査等があります。
役所などが行う検査に合格すると「検査済証」が交付され、建物の使用が認められます。
鹿島の設計部門では、住宅や商業施設などの身近な建物から、工場、病院など、くらしをとりまくさまざまな建造物を設計しています。建物の領域ごとに専門チームに分かれていて、建築設計・設備設計・構造設計もそれぞれの専門家が担当しています。最近では、一つの建物の中に商業施設・オフィス・マンション・ホテルなどが入った複合ビルも増えていて、専門のちがう設計者が協力し合って設計に取り組んでいます。
集合住宅では、敷地の周辺環境に合わせながら、日当たりや風通し、眺望のよさや屋外の木々などの自然が感じられること、使いやすくて安心できること、そして愛着が持てる住まいづくりを考えて設計します。
オフィスは働く人が一日の大半を過ごす場所。集中もリラックスもできる快適な環境と、さまざまなレイアウトに対応できる空間を目指しています。また、階段やエレベーターも多くの人が使いやすいようよく考えて設計します。
ホテルでは、リゾートホテルやビジネスホテルなど、場所や目的によって利用するお客さまやニーズが変わってきます。どのようなホテルがよいのか、お客さまにご満足いただける部屋や共有スペースなどを細かく考えて設計します。
商業施設は小さな店舗からデパートやショッピングモールなどさまざまで、多種多様な商品やサービスが扱われています。訪れた人にそれぞれの店舗に合った雰囲気を味わってもらえるような舞台づくりを考えて設計します。
学校の校舎には、先生たちの授業に対する思いが強く表れます。また、周辺の環境や地域とのつながりなども考える必要があります。生徒たちが自分たちの学校を好きでいられるように、先生たちとよく相談して設計します。
工場では、運び込まれる材料や出荷される製品がスムーズに流れるように、最適な建物の形や機能を検討します。製品の品質を保つために空調などの設備もしっかり計画し、快適に働ける環境づくりを考えて設計します。
病院では、患者さんが安心して治療を受けられる空間づくりを行うことが大切です。また、お見舞いに来られる方や、お医者さん、看護師さん、救急隊の方など、さまざまな人の動きを考えた快適な施設を目指して設計します。