ここから本文です
Top > Student Corner > 私の仕事 > File No.08
私の仕事
File No.08
写真:北村 知佳子・木村 奈央
北村 知佳子・木村 奈央
北村 知佳子(右) 建築設計本部 建築設計統括グループ〔2010年入社〕
2010年大学院新領域創成科学研究科修士課程修了、同年入社。建築設計本部に所属。
木村 奈央(左) 建築設計本部 建築設計統括グループ〔2010年入社〕
2010年大学院創造理工学研究科修士課程修了、同年入社。建築設計本部に所属。

放課後のチームプレー

SMOKER’S STYLE COMPETITION

1. 最初の挑戦 
-建築環境デザインコンペティション-

入社1年目。業務は覚えることばかり、がむしゃらにがんばる毎日。そんな中、新入社員2人でタッグを組んで喫煙空間の実施コンペに応募した。  実務から離れて、いわば2人だけの放課後活動。「放課後」なのに、多くの人たちから励ましや知恵をいただいた。ここではその数ヶ月の様子を紹介する。

きっかけは2010年10月、「建築環境デザインコンペ」だった。KAJIMA DESIGN では例年、研修の一環として、建築・設備・構造の設計系新入社員がチームをつくって応募する。 与えられたテーマは「地球に生きる」と壮大。私たちは山の標高によって大きく異なる自然環境がうまれることに着目し、山を「地球環境の縮図」と再解釈するコンセプトをたてた。
仕事の合間にチームで何回も議論を重ね、それでも収束しない時は休日の社員寮に集まったりもした。建築・構造・設備の初めてのコラボレーション。多くの視点をまとめ、強いコンセプトを貫くことの大変さがわかった。

完成した案は、山に養分を与えながら水を重りに斜面を昇降するトロッコと、その軌道まわりにちりばめられた小さなしかけの数々。一次審査の提出パネルには、大きな山に楽しげなアクティビティが所狭しと描かれている。なんとか、みなの想いをひとつにできた。

(北村)

写真:提出パネル(部分)

提出パネル(部分)

2. 1位を逃がす

ドタバタだった一次提出が終わり、しばらくして、二次審査の連絡がきた。プレゼンまで1ヶ月。

一次提出時点では「地球に生きる」を感じる仕組みを提案していたものの、根底にある思想までチーム内で煮詰めてはいなかった。プレゼン準備を進めるも、もうひとつインパクトに欠けるという思いもあった。

行き着いたのは、女の子がトロッコに乗って、山の気候から生まれる恵みを享受するストーリー。「山を楽しみたい」というシンプルで楽観的な考えをあえて前面に出し、エンターテイメント性を重視した寸劇入りのプレゼンに舵を切った。

発表本番、プレゼンはやりきった。が、結果は2位。内藤廣審査委員長からは「ユートピア思想は魅力的だったが、人間が太刀打ち出来ない地球の脅威部分が欠けている」という講評をいただいた。提案を楽観的な方向へ絞ることが、案に深みを与えず、逆効果になる場合があることを知った。学生時代とは違ったプレゼンが必要?!

(木村)

写真:二次審査風景/木村(右端)は女の子役の衣装を着ている

二次審査風景/木村(右端)は女の子役の衣装を着ている

写真:集合写真

集合写真

3. 再び挑戦
-SMORKER’S STYLE COMPETITION-

コンペの熱がさめやらない12月。Smoker's Style Competitionの募集ポスターが目に入った。「空間をわけない分煙」をテーマにしたカフェの実施コンペ。リベンジにはうってつけだった。今度は研修ではない。建築設計の2人で、休日をつかって挑戦することにした。

ユートピアはいいが楽観的すぎるといわれて負けた前回のコンペ。リベンジとしては、やはりまっすぐに理想/ユートピアを描くことにこだわりたかった。しかも今回は十分に現実的に。

分煙空間の提案では、タバコの煙を処理するシステムが、魅力的な空間の要素にもなっているものを考えようとまずは思う。が、それだけでは根底にあるタバコの煙に対する消極的な姿勢は変わらない。空間だけでなく、タバコを吸う人と吸わない人が一緒にいることそのものが魅力的になるような状況を考えられないだろうか?

私たちは2人ともタバコを吸わない。話は、「『探偵物語』のタバコの吸い方のかっこよさ」や「タバコを吸う人にさりげなく気遣われたときの嬉しさ」などから始まった。

そして生まれたコンセプトは・・・

写真:初期のイメージスケッチ

初期のイメージスケッチ

4. タバコマド

タバコを吸う人が吸わない人を気遣い、自分で窓をあけてタバコを吸うというスタイル。

開けるとカフェのテーブルにもなるその窓を、
「タバコマド」と名づけた。

(北村)

写真:タバコマド

タバコマド

5. チーム再結成

アイディアを素直に表現した提案書が一次審査を通過した。

講評が『新建築』に掲載され、そこにはこう書かれていた。「ある場所はカフェになり,ある場所は喫煙ができるなどのコンパクトな可変性をもっているのは面白い」が、「スケールが大きくなりすぎるのではないか」、 「素材や納まりも知りたい」。二次審査では、実施に向けた設備システムや納まりのより具体的な考え方が求められた。

とはいえ、実施の経験がない私たちには、どこから手をつければよいかわからない。困った時こそ、友だのみ。早速、建築環境デザインコンペの設備・構造設計のチームメンバーに声をかけた。

彼らの協力のもと、少しずつ提案の具体性が増してきた。が、排気のシステムがなかなか明確にならなかった。具体的な機器を一つ一つ教えてもらうものの、しっくりこない。提案のコンセプトと合致するような建物全体の空気の流れのコンセプトが必要だった。

(木村)

写真:提出パネル(部分)

提出パネル(部分)

6. 設備システムの壁

一次審査ではダブルスキンの煙突効果で窓に煙を吸い込ませるシステムを提案した。が、これがなかなか簡単にいかない。上昇する煙を横方向に窓へと引き込むにはそれなりの風速が要ることがわかったのである。しかし、それはどれほどのものなのか?どうすれば省エネルギーにその気流をつくれるのか?

途方にくれた私たちに、設備の先輩方が手をさしのべてくださった。議論して行きついたのは、カフェの気積を小さくし、押し出し排煙で室内から窓への風速を確保するという考え方。表面積の割合が増え、ダブルスキンの効果も高まる。

窓の開口率も決定し、設備の議論はデザインへフィードバックされた。また、高い位置のタバコマドは覆いになるように形を変え、煙が室内に拡散するのを防ぐ工夫もした。

一方で、構造同期による素材や架構へのサジェスチョン、先輩方による図面の書き方や細部納まりに関するアドヴァイス、模型作成など、気付けばたくさんの方に助けられながら二次審査の準備は進んでいった。

(北村)

写真:設備設計の方々と議論したときのスケッチ

設備設計の方々と議論したときの
スケッチ

7. いざ、会場へ

いよいよ二次審査の日。温かい声援を受けて出発。

審査は例年は公開で行われるが東北大震災の影響で今回は非公開、会場には関係者しかいない。ライバルはみな同世代。様々な分煙システムがプレゼンされては、審査員から実現性に関して厳しい意見をもらっている。会場には緊張感が張りつめていた。

今回は、JT主催コンペという点を踏まえ、「スモーカーとノンスモーカーの共存」というテーマを押し出した実直なプレゼンでいくことにした。審査員が最も知りたいだろう排気システムは特にひとつひとつ丁寧に説明していった。服装も少しかしこまって、二人ともジャケット着用で臨んだ。

プレゼンは順調だった。審査員の質疑も好意的なものが多く、チームで議論を重ねた設備システムに関しては、佐藤英治審査員から「簡単な押し出し排煙で提案しているのがよいね」とのコメントをいただいた。

若干の期待をもちつつ、いよいよ懇親会後の審査発表へ…

(木村)

写真:プレゼン中の木村(右)北村(左)

プレゼン中の木村(右)北村(左)

写真:パネル展示風景

パネル展示風景

8. 結果は・・・

期待の結果発表は・・・

またも2位。

リベンジならず。

懇親会では、励ましの言葉の一方、コンセプトには共感するが、プランの柔軟性や荒々しい迫力がもう少し、とのコメントもいただいた。案の未熟さを反省するとともに、あまりにも一直線なプレゼンが柔軟性を感じさせられなかったのかと、すこし悔やまれた。

しかし、JT社員の方々からの「とても共感した」「自分たちが言いたいことだった」などの言葉はうれしかった。喫煙空間の環境について日々考えを巡らしている方々に、私たちの提案が少しでも届いたかと思えた瞬間だった。

こうして幕を閉じた二つ目のコンペ。上司・先輩方・同期と、周りの多くの人たちの励ましがあって取り組むことができたコンペだった。自分たちのいたらなさを知り、教えを乞い、補ってもらうことの大切さを知ること。それは、仕事としてとりくむプロジェクトの縮小版を短期間に味わうような経験だった。

まだまだ未熟な私たち。これからも挑戦は続く。

(北村・木村)

写真:模型写真 写真:模型写真

模型写真

Student
Corner