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設計担当者のコメント

慶應義塾大学日吉第4校舎独立館

屋外と屋内が絡み合う交流空間

篠田 秀樹

駅前の信号が青に変わると教室へ向かう学生の波が、日吉キャンパスの銀杏並木へどっと押し寄せる。いつもの日吉の朝の風景である。緑豊かなこの地にありながら、この第4校舎周辺だけが超人口過密状態にある。1万人もの学生を如何に受け止めるか? 我々は、日吉の新しい風景となる桜並木を導入空間とし、このエネルギーを受け入れるアプローチ空間と校舎の提案を行った。
学生が間断なく行き交うアトリウムには、外気が流れ込み、どこからともなく風が天井へと流れて行く。屋根があり、日射を遮る壁面があって、確かに屋内の空間のようでありながら、屋外の心地良さを感じる一瞬である。中庭の竹の葉が風にそよぐ先には、切り取られた空が広がる。授業の合間、アトリウムの大階段に腰を下ろし、くつろいで談笑する学生や、中庭のベンチに寝転んで空を見上げる学生を見ていると、「そうだろ!」と、設計に携わった者として、納得と喜びとがこみ上げてくる。

構造設計の立場から

山口 圭介

当敷地は、綱島街道側に位置し道路と敷地の高低差が10m以上の崖地になっている。この巨大な擁壁が開校以来、日吉キャンパスを閉鎖する壁となってきた。新校舎建設により崖を切り下げ、綱島街道側から直接キャンパスに上がれる新たなアクセスルートの出現により、開かれたキャンパスに生まれ変わった。
新校舎は三方を擁壁で囲み、基礎免震構造とすることで、大地震時の安全性を確保すると同時に、上部構造の梁せい、柱幅を極力押さえて、低階高・大スパン構造を可能にしている。
上部構造は、将来の模様替え、増築時の対応に自由度を持たせた3棟で構成されており、渡り廊下でつながれた棟間が吹抜けとなっている。また、各階に最大500人教室などの諸室が配置されるため、17.25mのスパン方向は梁をS造としたKIP構法による1スパン構造とし、桁行方向は3.45m間隔に薄型柱を並べたRCフレームとすることで、打ち放しフレームが吹抜け内のファサードとなり、柱型の無い教室空間を実現することができた。
日吉駅からの新たなアプローチを通り、細長い鋼管柱による半外部のエントランス、打ち放しRCフレームの吹抜け空間に配置された空中階段などを見上げると構造と意匠の融合を見ることができる。

設備設計の立場から

太田 浩司

大学創立150年事業の一つである本プロジェクトには設計コンペ時より参画し、学生時代の学び舎でもあった既存校舎を解体することから計画は始まった。既存校舎の調査を進めるうちに、電気や通信、ガス設備などのインフラ引込点も移設する必要があることがわかった。毎日稼動しているキャンパス内で、その心臓移植を行うようなものである。年末などのタイミングを利用して移植手術は無事行われた。
新築建物は長期の耐用が求められた。多くの設備機器類は15年から20年で耐用年数を迎えることから、長い眼でみて更新しやすいシンプルな設備システムとしている。教室は全熱交換器とGHP(ガスヒートポンプマルチパッケージ)による個別制御システムを採用、柱スパン毎に換気・空調・照明を完結した系統とし、将来的に教室間仕切りの変更にも対応しやすいように考慮した。また受変電設備のような重要機械室は免震層の上部に設けることで地震時のリスク回避に配慮した。
環境面では建物運用時のCO2排出量を削減するため、自然採光および自然換気、また雨水利用を積極的に行った。特にアトリウムや廊下などの共用部は半屋外とし、エネルギーを極力使用せずに年間を通じて温熱環境および光環境が快適なレベルを維持できるように検討を行った。 卒業生として個人的にも思いが深いプロジェクトであったが、今後数十年と使われていく姿を見守って行きたいと考えている。

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