特集:鹿島ブランドを考える……第1回

1.ブランドって何?

企業におけるブランドの重要性
商品ブランドと企業ブランドの相関図
商品ブランドと企業ブランドの相関図
 
 昨年末の中堅ゼネコンの倒産,今年初頭の大手住宅メーカーの倒産は,建設業が本格的な競争・淘汰の時代を迎えたことを示唆し,大手といえども会社の存続に関わる深刻な事態に陥りかねないことを改めて認識させた。技術の進歩や平準化により,技術力や品質の違いによる他社との差別化が難しくなり,コストダウンによる差別化ももはや限界に近づいた今,企業における優位性は『強いブランド力』を持ち得ているかどうかにかかっているのではないだろうか。ブランド力を高めることは,マーケットシェアの拡大と利益につながる。強いブランド力を持つ企業のみが,この先行き不透明な競争・淘汰の時代を勝ち抜いていけるのである。

なぜ,いま「企業ブランド」の創造か?
 では,企業のブランドとは何なのか。企業のブランディングを手掛けてきた広告代理店アサツーディ・ケイの三吉眞一郎さんのお話を交えて考えてみよう。
 ブランドとは,大きく広義のブランドと狭義のブランドに分けられる。狭義のブランドは,エルメスやルイ・ヴィトン或いはGAPやユニクロに代表されるように,特定のイメージや付加価値を持ったブランド商品群を指す。広義のブランドは,『企業ブランド(コーポレートブランド)』と呼ばれ,企業が社会や消費者に受け入れられ,より成長するためのブランドを指している。
 企業活動とは,その市場において「差別的優位性」を持つ製品やサービスを提供することによって市場シェアを獲得し,そこから利益を得る行為である。これまで企業はこのシェア獲得を目指して,絶え間ない技術開発とサービスの向上に努め,競争力のある商品の開発とコストダウンに最大の注力がなされてきた。しかし,企業が単にシェアの向上と利益確保のみに走り続けた結果が,今日の状況であるとするならば,このパラダイムを転換する必要がある。このパラダイム・シフトの方法の一つとして「企業ブランディング」−企業ブランドの創造が叫ばれているのである。
 この差別的優位性こそが,市場に出回っている商品・サービスの中から自社製品が「お気に入り」として選ばれる理由である。多少価格が高くても,その企業の商品を買う。そしてその商品やサービスの購入者に,極めて大きな満足感や夢を与える。それが「ブランド」である。たとえ同じ価値を持つ商品でも,ブランド力によって消費者からの評価は異なる。またブランドの核心には,常に企業や経営者のブランドにかける思いや夢,ビジョンが込められている。ブランドは「無形の価値・資産」なのである。一方で,強いブランドを持つことは,社員の会社に対する誇りやロイヤリティを持つことができるメリットもある。
 建設業は一般消費財を生産するわけではなく,官を含めたBtoBビジネスが主体となっているため,ともすると一般消費者の“顔”が見えてこない。鹿島にとっての顧客とは誰なのか。答えは「社会」であり「企業」であり,そして「一般生活者」である。ここに鹿島ブランドを創造する意味がある。
 鹿島ブランドを支える大きな要素は「技術と品質に対する顧客の信用・信頼」である。これはあくなき技術開発の熱意と品質に対するこだわり,そして技術と構想力によって裏打ちされている。
 「鹿島ブランド」とは鹿島でなければ出来ないものや,「鹿島であれば安心できる」と顧客が満足する製品・サービスを提供することで,価格競争からでは得られないより大きな付加価値を獲得する源泉なのである。

強力な企業ブランドの創造とは?
 強いブランドとは,一体何だろう。それは消費者から「愛されているかかどうか,または,信頼されているかどうか」であり,その背景には「コンセプトが一貫している」ことが重要だと三吉氏はいう。
 ドイツ・フォルクスワーゲン社のつくるフォルクスワーゲン,通称「ビートル」という車は1930年代に開発され,今でも愛され続けている車である。開発者フェルディナンド・ポルシェ博士に与えられたコンセプトは「当時のドイツ人の所得水準で買える」「家族4人が乗れる」「アウトバーンを一日走っても壊れない車」だった。そして開発されたのが,「フォルクスワーゲン」(Volks Wagen=国民車)であった。その丸みを帯びたキュートなデザインと共に,そのコンセプトの一貫性を守り,かつ進化させることにより,70年以上経った今でも世界中の人々に,愛され続けているのである。


フォルクスワーゲン1

フォルクスワーゲン2

 アップルコンピュータは,「専門的な知識をもたない普通の人々のために,ユーザーフレンドリーなコンピュータを提供する」というミッションを掲げている。このコンセプトを具現化することにより,パソコン人口を飛躍的に拡大させると共に世界中に“Macファン”を創出した。カジュアルでスタイリッシュなiMacも,グラフィカルなインターフェイスもこのミッションから生まれたものである。
 また,ユニクロ(ファーストリテイリング)は「いつでも,どこでも,誰でも着られるファッション性のある高品質のベーシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する」という使命を理念の中核に掲げ,消費者に対して確固たるブランドを確立,驚異的な売上を記録した。フリース商品のリサイクル化など,自社の作った製品に責任を持ち,地球環境保護に貢献するという姿勢を打ち出している。
 このように,強いブランドを持つ企業に共通することは,一貫した明確なフィロソフィーを持ち,そのフィロソフィーを断固実行するための強い意志と高度なテクノロジーを常に進化させている点である。
 企業ブランドの価値は,その企業が宣言した“約束”を実現させ,さらに日々の真摯な活動を通して社会に受け入れられ高められる。これによって,仮にその企業にトラブルが発生し,また強力な競合者が発生しても,「それでも私は,この企業に共感し,支持する」と表明する顧客が現れる。絶対的な顧客の指示を得ること。これこそが,企業の目的のひとつなのではないだろうか。
 しかし,企業が発する情報に不整合が生じ,約束であるブランドメッセージが破られたと受け手が感じた瞬間,ブランドの信頼性は一気に失墜する。その再構築が至難であるのは言うまでもない。
 

フォルクスワーゲン

UNIQLO
フォルクスワーゲンのブランドキャンペーン ユニクロの店舗

企業ブランドは「つくるもの」ではなく 「つくられるもの」
 では,ブランドは広告や宣伝によって構築されるのだろうか。否である。ブランドとは企業が広告等によって消費者に与えることができないもの,つまり,自社が意図的にコントロールできないものなのである。ブランドとは「つくるもの」ではない,その企業の持つフィロソフィーと意思,明快かつ具体的な“約束”を真摯に実現しようという姿勢が社会や消費者によって共感され,「培われるもの」なのである。例えば,ルイ・ヴィトン社は広告をほとんど出さない企業だが,ヨーロッパを始め各国における価値性,持つ人に求められる資質,そして,多くの人から信頼され,親しまれる価値と技術を持ち合わせている。その企業が長い歴史のなかで実績を重ね,積み上げてきた努力の蓄積が,社会に受け入れられ今日のブランドを築き上げているのだ。

ゴールデンブランド経営の
ゴールデン・トライアングル

ゴールデンブランド経営のゴールデン・トライアングル
(図をクリックすると拡大表示されます)

 三吉氏は言う。「“ブランド構築”という言葉は誤りである。強いブランドは自社で作ろうと思って作れるものではない。また,企業はそうして社会によって培われたブランドを,磨いていかなければならない。より社会との関係を豊かにしていくために」と。ブランドは,企業の中から見れば,社員が「育てていくもの」なのである。社員が会社を誇りに思い,また社員がいかに「自分の会社を愛しているか」によって,そのブランド力をより高めていくことができるのである。企業が社会とどのような関わり(コミュニケーション)を取っていくかが重要であるといえるだろう。そうした強いブランドを持った上で,企業のビジョンや理念を,社会に表明していくことが重要である。
 大手コンビニエンスストアのセブンイレブンでは,お弁当やお惣菜など自社で扱う150品目を,保存料・合成着色料ゼロとすることを宣言した。消費者のニーズが「安い」「おいしい」「新鮮」などの利点以上に「安心」が望まれていることを踏まえ,「より自然に近いものを提供しよう」という企業の姿勢を打ち出し,それを実行することを,社会に対して約束したのである。
 三吉氏は「『こうありたい』という実体のないものを宣言してもブランド構築にはつながらない。その企業が歩んできた歴史と,明快な約束,そして流した汗の多さがブランドにつながる。また,その約束を強力に推し進めていく『力』が必要だ」と語る。その企業がこの先の時代に,社会に対してどのような企業であろうとしているのか,約束し,実行することが強いブランド構築につながるのである。

 さて,これまで企業のブランドについて考えてきたわけだが,鹿島にとってのブランドとは一体だろう。
 次項以降では,「鹿島ブランド」について具体的に考える前段として,これまでの鹿島ブランドについて考えたい。160年以上にわたる長い歴史の中で「鉄道の鹿島」,「超高層の鹿島」などさまざまな冠で呼ばれてきた当社の歴史を振り返るとともに,鹿島が社外からどのように見られているのかを検証していこう。

三吉眞一郎 三吉眞一郎(みよし しんいちろう)
大手広告代理店アサツーディ・ケイで永年企業広告を担当。
現在は第6ADカンパニーでアカウント・ディレクターを務める。




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2.鹿島ブランドの変遷
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