特集:進化するコンクリート

金属のように曲がるコンクリート〈ECC〉
引張に強いコンクリート
 グニャリと曲がるコンクリートの試験画像[写真1]。驚くべき変形性能をもったこの試験体は,ECC(Engineered Cementitious Composites)と呼ばれるセメント系材料である。
 セメントと水,砂だけでつくられる通常のモルタルに,補強のための繊維(ビニロン繊維)[写真2]を体積のわずか2%分ほど加えただけである。
 コンクリートは元々圧縮に強く,引張に弱い素材である。そのため,構造物に使用する場合は,引張に強い鉄筋と組み合わせて,鉄筋コンクリートとして用いられる。
 ECCの特徴はビニロン繊維を入れることで,ひび割れが発生した後でも繊維が引張力を負担して,鉄筋が入っているのと同じような粘り強さを示す。
 ECCが誇る高靭性は,ひび割れの拡大写真を見るとよく分かる[写真3]。通常のコンクリートは,最初に発生したひび割れが次第に拡がり,そのまま破壊へと至る。しかしECC では,発生したひび割れが繊維によってつなぎ止められ,ひび割れは拡大しない。その結果,次々に微細なひび割れが発生するが,一気に破断することはなく,粘り強く靭性を保持する。
 引張終局ひずみと呼ばれる,引張力に対する材料の変形性能を比較すると,ECCはモルタルの200倍にもなり,さらに,鉄筋の降伏レベルの20倍にも達するのである。
 この優れた性能によって高層マンションの連結梁や土木構造物の補修・補強などに採用されつつある。コンクリートを現場で打設する,吹き付ける,あるいは工場で製造するプレキャストまで,いずれも使用可能だ。また,あらかじめ繊維が混合されたプレミックス材料も販売されており,汎用性の高さも実証されている。
写真1:金属のように曲がる〈ECC〉の試験体。増加する引張力を繊維が負担することによって,初期段階でのひび割れでも破壊には至らない粘り強さが生まれた
写真2:補強用のビニロン繊維 写真3:〈ECC〉の引張試験体で発生したクラックの局部
Case-1 マンション架構のさらなる進化へ
 2007年3月,横浜駅から徒歩5分というアクセスを誇る「ポートサイド地区」の玄関口に,総戸数390戸のタワーマンション〈ナビューレ横浜タワーレジデンス〉が完成する。このマンションでは,当社のスーパーRCフレーム構法をさらに発展させた新架構にECC を採用している。スーパーRCフレーム構法が,構造躯体を一本の幹のように集約させた“巨大な一階建て”だったのに対し,今回の新架構では,各階のコア壁をつなぐECCの連結梁が大きな地震エネルギーを吸収し,大幅なひび割れなどの被害を最小限にくい止める。もちろん,柱や梁をなくした住空間プランの自由度を損なうことはなく,地震後の復旧作業も軽減できる。
〈ナビューレ横浜タワーレジデンス〉全景
スーパーRCフレーム構法とECCを使用した新架構の概念図 通常の鉄筋コンクリート梁と〈ECC〉梁のひび割れ幅の比較。地震後でも,耐久性に影響の出る0.3mm以上の幅のひび割れを生じさせない構造性能が確認された
Case-2 道路橋のノージョイント化に向けて
 高架式道路の橋桁のジョイント部分は,車が通る際に振動や騒音を発生するばかりでなく,車両の走行にも影響をおよぼし,劣化が進みやすい部分である。
 そこで進められているのが,ECC連結板による高架橋のノージョイント工法だ。当社グループ(鹿島,リテックエンジニアリング,カジマ・リノベイト)と首都高速道路との共同開発だ。車両の走行や温度変化による橋桁端部の変形に対して,金属材料のような引張変形性能をもつECCの伸縮性能が有効なのである。
 すでに,2005年11月に行われた首都高速4号新宿線の集中工事のほか,首都高速3号渋谷線に改良型が適用され,かねてからの課題でもあった施工時間の短縮も確認されている。
ECC連結板を用いた高架橋の断面図 首都高速4号新宿線での施工の様子

 寿命1万年のコンクリート〈EIEN〉
 金属のように曲がるコンクリート〈ECC〉
 薄さを極める超高強度コンクリート〈パワークリート〉
 環境との共生をめざす〈自然対応型コンクリート〉