特集:魅せる――建築のリニューアル

企業ブランドを建築で表現したリニューアル
 スタイリッシュなボディとグラフィックソフトの充実で人気のパーソナルコンピュータ「Macintoshシリーズ」や小型ミュージックプレイヤーの火付け役「iPod」などで知られるアップルコンピュータ。これらの商品を販売するアップルストアは,米国を中心に世界各国に約150店舗を展開している。今年5月には,ニューヨーク・マンハッタンに24時間営業のフラッグシップストアがオープンし,話題となった。
 アップルストアの日本進出は,東京・銀座を皮切りに,東京・渋谷,名古屋,大阪・心斎橋,福岡,仙台,札幌と,全国主要都市に続々とマーケットを拡大している。ステンレスパネルにアップルの白いロゴマークが浮かぶファサード,透明感に溢れた内装インテリア。各ストアに共通した建築デザインは,一目で「アップルコンピュータ」とわかるブランドイメージを表現している。これらのストアは,福岡店を除き全て既存ビルをリニューアルしたものだ。
 その都市の中心に相応しい価値のあるロケーションを見つけ出し,ストア展開するアップルコンピュータ。そこにある既存建築を独自のブランドカラーに染めかえていくリニューアル――。いま企業ブランドの発信ツールとしても建築のリニューアルが注目されている。
 国内主要都市に7つのストアを展開するアップルストア。当社は,全プロジェクトの設計・施工を担当したが,このうち6店舗がリニューアルである。各店舗の建築には,建物全体をアップルのパソコンに見立てたプロダクトイメージを踏襲することが条件となった。個々の多様な既存建物を,いかに統一感のある建築デザインにリニューアルすることができるか。それが大きな課題だった。
 国内のストアのモデルとなった「アップルストア銀座」のリニューアルを紹介する。
改修後
工事概要
アップルストア銀座
(サエグサ本館ビルリニューアル)
場所:東京都中央区
発注者:アップルコンピュータ
基本設計:Bohlin Cywinski Jackson
実施設計:当社建築設計本部
規模:SRC造 B2,8F,PH1F 延べ 3,940m2
リニューアル:耐震補強,内装・外装改修,
設備更新ほか
2003年11月竣工(東京支店施工)
改修前
アメリカ国外初の旗艦店の誕生
 2003年11月,東京・銀座3丁目の銀座中央通りと松屋通りとが交わる角地に忽然と姿を現した「アップルストア銀座」。アメリカ国外初の旗艦店として注目を集めた。
 1階はコンピュータ売り場,2階は関連商品売り場とコンピュータに関する相談ルームが併設され,3階はデモンストレーションスペース,4階はソフトウエア売り場とインターネットカフェ,5階は講習会を行うスペースとなっている。アップルの関連商品を目で見て,体験できるエンターテインメント性の高いショップだ。

オフィスビルをコンバージョン
 「アップルストア銀座」は,8階建てのテナントオフィスビル「サエグサ本館ビル」(当社施工1965年竣工)を全面リニューアルし,地下1階から5階までを物販店舗にコンバージョンした(6〜8階はテナント・オーナーの事務所)。基本設計を米国設計事務所のBohlin Cywinski Jackson,当社が基本設計協力ならびに実施設計・施工を担当した。
 外装デザインは,低層部に照明を仕込んだアップルマークのサインが浮かぶステンレスパネル,上層部にはガラスカーテンウォールを配した2層構成とし,建物全体でアップルのコンピュータを想起させるデザインを創りあげた。
 内装・インテリアにもこのイメージを徹底し,モノトーンなライムストーンの床にステンレスパネルの壁面,ガラス張りのエレベータをアクセントとし,ショールームのような開放感のある空間とした。アップルの企業イメージに相応しい洗練された建築デザインは,その後の国内のアップルストアにも踏襲されている。
オフィスビルをコンバージョン
企業ブランドを建築で表現したリニューアル技術――アップルストア銀座
建物の長寿命化
 改修にあたって求められたポイントは,ブランドイメージを表現したデザイン性とともに,オフィスとしての機能性と快適性,建物全体の安全性だった。これに応えて,建物診断によりライフサイクルコストを考えた最適な耐震補強と設備改修が行われ,建物の長寿命化を図った。

ブランドイメージを集約させたファサードデザイン
 アイデンティティ性の高いファサード,開放感溢れるエントランスの開口は,エントランス中央にあった柱を撤去し,ブレースをはめ込み補強することで実現した。また,1,2階の適切な店舗空間の確保および3階ショールームの勾配床実現のために,スラブレベルの変更を行い,質の高い店舗空間を確保した。
リニューアル後のファサード
既存躯体 中央柱を撤去し補強 生まれ変わったファサード
環境配慮と街並みとの調和を考えた外装
 4階より上の外壁は既存の腰壁を取り払い,打放しの既存躯体の外側にガラスカーテンウォールを設置し,ダブルスキンとした。ガラス張りの外壁は洗練された印象を与え,環境に配慮したダブルスキンは快適な居室空間を実現した。ガラスカーテンウォールから覗く既存躯体は建物の持つ歴史性をデザインに取り込んだもので,街並みとの調和を意識している。
ダブルスキン ダブルスキン
当社建築設計本部・建築設計統括グループリーダー 長 幸男
アップルプロジェクトの経験から得た建築リニューアルの果実とは――。「アップルストア銀座」から継続して各ストアの設計に携わった当社建築設計本部の長幸男・建築設計統括グループリーダーに話を聞いた。
当社建築設計本部・建築設計統括グループリーダー 長 幸男
 米国アップル社にとって,東京・銀座店は海外初の直営店。今後の成否をかけて,信頼性のある設計パートナーと施工者を求めていました。私たちはプロジェクトの成功にお役に立ちたいと,営業・設計・施工が三位一体となって,ビル改修における高品質で高付加価値のサービスを提案しました。その計画案と熱意と施工実績とが,その後の事業を継続して担当させていただけた理由ではないかと自負しています。
 「アップルストア銀座」の建築に際しては,外装から内部空間の細部に至るまで,高いデザインクオリティが求められました。今後のストア展開のモデルとなる,という責任感が大いに私たちのモチベーションを高めました。
 アップル製品のデザインコンセプトをそのまま建築空間に表現しようと,素材の選定に至るまで,試行錯誤を繰り返し,アップル社の担当者と頻繁に議論を交わしました。こうした中から良質な建築が生まれ,相互の信頼関係が生まれたのだと思います。
 このプロジェクトでは,店舗の改修だけでなく,テナントビル全体のリニューアルが行われました。ビルオーナーとテナントという双方のお客様に対して最良のサービスの提供が求められたわけです。当社の豊富なリニューアル技術と施工経験が,築40年の既存ビルを耐震性能をはじめ安全性・機能性を備えたビルに蘇らせ,建物の価値を増大させました。テナントのニーズに応える店舗空間創出へのチャレンジは,私たちにも貴重な経験になったと思います。これを活かして,今後もアップルストアプロジェクトの継続と新たなリニューアルニーズに対応できればと思っています。
 この6月,国内第7号店となるアップルストア札幌が無事オープンを迎えました。当日,店舗前に並ぶアップルファンの長蛇の列を見る時,それはプロジェクトの成功を実感し,もの創りの感動を味わう瞬間なのです。
アップルストアプロジェクトチーム



Phase 1 企業ブランドを建築で表現したリニューアル
Phase 2 価値ある建物の保存〜20世紀の名建築を21世紀に蘇らせる〜
Phase 3 施設の特性を生かしたリニューアル