森は、木が多ければ多いほどいい。自然には、できるだけ人の手を入れない方がいい。そう思っている人は多いかもしれません。ところが、森林を放置して木が密集しすぎると、枝葉が傘のように雨をさえぎって地表まで届きにくくなり、森が本来持つ「水を育む力」が十分に発揮されないことがあります。
では、森を適切に整備すると、なぜ水が育まれるのでしょうか。洪水や渇水と森はどう関係しているのでしょうか。専門的で少し難しい「水源涵養(すいげんかんよう)」を、誰もが楽しみながら理解できるようにしたのが、美術家・漫画家のだなこりさんによる漫画広告です。
制作前には「自然には手をつけない方がいい」と考えていたというだなこりさん。漫画を描くために生まれた疑問、理解が変わった瞬間、そして一見しただけでは気づかない細部の工夫から、作品に込めた思いをひも解きます。
INDEX
みもりんのギモン
「自然のまま」が正解とは限らなかった
だなこりさん自身、制作を始めるまで水源涵養について詳しくは知らなかったといいます。まず引っかかったのは「なぜ森林をほったらかしにしてはいけないのか」という疑問でした。資料を読み込むなかで、手入れをされず、木々が“ぎゅうぎゅう”になった森では、地表に水が届かないだけでなく、十分な光が届きにくくなり下層の植物が育たない環境になってしまうことに驚いたと言います。
「自然に人の手を入れることは、単純に悪いことではない」。制作を通じて生まれたこの気づきが、漫画のストーリーを動かす出発点になりました。
「親しみ」を生み出す工夫
「水源涵養」という専門的な情報を一般の方に理解してもらうにはどうしたらいいか。難しいワードをどう表現するか、だなこりさんは図書館の子供コーナーにある本や図鑑で情報収集されたそうです。「木や土に表情をつけ、それぞれの気持ちが伝わるようにしました。」と言います。少ない文字でも、情報がスッと入ってくるのは絵に想像以上に多くの工夫がされているから。土や木にも顔や手を与え、言葉で説明しすぎなくても、それぞれの状態や“気持ち”が読み取れるようになっています。困った表情の土、光が差し込む森、回復して笑顔になる大地。自然の変化をキャラクターの変化として見せることで、専門知識のない読者も物語を追いやすくなっています。
親しみやすい絵柄の裏には緻密な設計
完成した漫画には、一見何気なく描かれているように見えて、実は細かな部分にまで意図や工夫が行き届いています。
例えば、新型センサーを紹介する場面では近未来的な雰囲気を演出するために書体を変えたり、ドローンは一目で形状が伝わるよう上空から見た構図を採用したり。木々が密集する森の表現では、単に黒く塗りつぶすのではなく、光の届きにくさを感じさせる繊細な陰影によって奥行きを表現しました。さらに、登場人物の服装や「みもりん」の色味も細かく調整し、画面全体の色彩バランスを設計しています。
そして、今回漫画に登場する舞台となった「仁淀ブルー」で有名な仁淀川。日本有数の透明感は青だけでなく数種の色を使い表現しました。さらに、仁淀川町の名産である生姜を登場人物の持ち物としてさりげなく描き、知っている人が読むとちょっと楽しくなる遊び心も。
制作データは100を超えるレイヤーで構成され、線画や着色、影、文字などを細かく分けながら制作されました。親しみやすい絵柄の裏側には、読みやすさや伝わりやすさを追求した緻密な設計と丁寧なものづくりの積み重ねが息づいています。
漫画の初稿
自然の恵みは、当たり前ではない
最後に、この漫画を通じて読者に伝えたいことを聞きました。
「自然の恵みは当たり前ではなく、多くの人の努力や企業の先進技術によって守られていることを感じてほしいです。」
私たちが毎日使う水の向こうには、森を整備する人、状態を調べる人、技術で支える人がいます。森、水、暮らし、そして建設会社。一見離れて見えるものは、実は一本の流れでつながっています。「森を切ったら、水が増える?」という意外な問いから始まる漫画を読み終えたとき、自然に手を入れることへの見方も、普段何気なく使っている水への見方も、少し変わっているかもしれません。ぜひ細部に隠された仕掛けを探しながら、漫画をお楽しみください。
制作の舞台裏で生まれた、もう一つのアート
美術家としても活動しているだなこりさん。今回の水源涵養漫画の制作にインスパイアされて、抽象画も制作されました。2時間で一気に描いたそうです。
抽象画「水源涵養」
川の流れや森の息づかい、針葉樹林の広がりなど、さまざまな情景が感じられます。特に漫画を読んだ後に作品を見ると、作中で描かれた森や水の風景と重なり、新たなイメージや発見が生まれるかもしれません。見る人によって感じ方が異なるのも、この作品の魅力の一つです。
だなこりさんは、この絵を通して森や水について自由に思いを巡らせ、それぞれの視点でさまざまな感想を持ってもらえたらと話します。漫画と抽象画という異なる表現が、私たちに自然とのつながりを改めて考えるきっかけを与えてくれます。

だなこり
美術家・漫画家
座右の銘 :自由にのびのびと
好きな食べ物 :和菓子と抹茶
楽しいと感じるとき:美味しいご飯を食べているとき
関連リンク
森林の水を育む力をマンガで発信する広告を制作
https://www.kajima.co.jp/news/info/20260901.html