特集:鹿島ブランドを考える・・・第3回

2 ブランドへの社員の意識

社内ブランド意識調査アンケート
 社員は,鹿島ブランドについてどのように考えているのであろうか?
 社員・役員を対象に意識調査(アンケート)を実施した。その結果を見てみよう。
 アンケートは,社内イントラネットを通じて実施し,2,000人以上の社員,および20人の役員から回答が得られた。回答者の職種(事務,土木,建築など),職群(一般管理,営業,施工管理など),年齢,性別などの属性は,ほぼ当社の従業員構成に沿ったものであった。
 本誌では,本年2月号および5月号でシリーズ特集「鹿島ブランドを考える」を2回にわたり掲載した。予備的な質問として,これらの記事を読んだか否かについて回答を求めたところ,80%近くが「読んだ」と答えている。一般に,ただ「ブランド」と聞いただけでは,ブランド商品など,高額・高付加価値の消費財のみを思い浮かべることが多い。本誌の特集では,こういった狭義のブランドのみならず,広く「企業ブランド」の意義などについて解説している。これより,今回の結果は,「ブランド」に対してある程度以上の予備知識を持つ社員から得られた結果と解釈できる。


意識調査アンケートQ1 ブランドの重要性・必要性は社員も認識
 初めの設問である「当社にとって鹿島ブランドは必要か?」との問いに対しては,92%が「必要と思う」と回答している。この結果は,職種や年齢層にかかわらずほぼ同様で,ブランドの重要性は社員の多くが認識している。
 当社のブランド価値についての設問のうち,ソニーやトヨタなど,いわゆる強いブランドをもった企業との比較において,1/10程度との回答が最も多かった。1/100程度との回答も30%に達している。逆に,これらの有力ブランドと同等との回答は15%程度に留まり,それ以上の価値があるとの回答はほとんどない。
 比較の対象を同業大手他社に限定した場合はどうであろうか。72%が同程度,23%が2〜3倍と回答しており,大半は当社が同業他社と同等以上のブランド力を有すると認識している。つまり,圧倒的ではないが,相対的な優位性は確保しているという意識を社員は有している。
意識調査アンケートQ2 意識調査アンケートQ3

経営理念の認知度
 強い企業ブランドの形成には,企業の姿勢や文化といった「理念・ビジョン」を経営者と社員が共有することが起点となる。当社には,これらを反映した「経営理念」が定められている。それでは,経営理念を社員は認知しているのであろうか?
 「当社の経営理念を知っているか?」の質問に対しては,過半数が「知っている」と回答している。また「断片的に知っている」を含めると認知度は93%に上る。また,認知度は社員の年齢層で異なり,若年層ほど低下する傾向が示された。
 研究開発・設計・施工管理など,当社の社員が手がける業務はきわめて多様である。土木・建築といった職種の相違もあろう。それゆえ,全社に共通する経営理念は,簡潔で不変的である反面,具体的な業務遂行の指標としては,やや抽象的で曖昧にならざるを得ない。日常の業務が,「作業レベル」であることの多い若年層にとっては,その存在を意識する機会が少ないことも,認知度がやや低下する一因であろう。経営理念を反映しながらも,変化する時代に対応した解釈によってより具体的な指標を定めていくことが,これからを担う若い社員に当社の文化や姿勢を浸透させていく上で必要なのかもしれない。
意識調査アンケートQ4

社員の「誇り」と「夢」
 企業のブランド力を高める源泉である社員の当事者意識,一体感を促す,「社員としての誇り」と「将来の夢」について聞いた。 「誇り」については,「大いに誇りに思う」と「少し誇りに思う」を合わせて,93%となった。また「夢」については,30%近くが「大いに持っている」と答え,過半数が「少し持っている」と回答している。しかし,いずれの意識も,経営理念の認知度と同様に,若年層ほど低下している傾向がある。
 現代が「個の時代」と呼ばれるようになって久しい。企業の中での「組織人」としての自分より,社会の中での「個人」としての自分を尊重する昨今の風潮が反映された結果とも言えよう。社会の要求や夢に,当社がより具体的に応える道を見つけていくことが,このギャップを埋めることに繋がるのではないであろうか。
意識調査アンケートQ5 意識調査アンケートQ6

 最後に,前章で示した日経企業イメージ調査と同じ質問に対する社員の回答を見ていこう。
 ただし設問は,「同業他社に比較した評価」であり,全産業の中での相対的評価が示される日経企業イメージ調査とは比較のベースが異なる。
 レーダーチャートより,社員の評価では「信頼性」「人材」「安定性」といった項目の点数が高い。また,「製品・サービス」「研究・商品開発力」も高い評価となり,当社の高い技術力を社員も十分に自負している。その反面,「個性」「活気」「成長力」「社会の変化への対応」といった項目では,同業他社と同程度の評価となっている。
 これらより,社員の目に映る当社のイメージと,「歴史と実績は評価するが,活力は今ひとつ」といった一般社会から見たイメージの間に,大きな相違はないことがわかった。この結果から,「将来に向けた企業活力」を高めていくことが,当社の差別的優位性を高め,強いブランド力を形成するための課題として浮かび上がってくる。
レーダーチャート


 当社はこれまで,あくなき技術開発への熱意と品質に対するこだわりをもって,霞が関ビルや青函トンネルなど,わが国を代表する建造物をつくりあげてきた。同時にこれらは,ニューヨークの摩天楼への憧れや,社会基盤の整備・近代化といった,社会の要求や夢を実現してきた歴史でもある。技術力と人材は,当社が伝統的に培ってきたかけがえのない財産である。その強さを維持しながら,社会と目線を同じくすること。例えば技術開発であれば,単に時代の最先端をいくといったパラダイムで動くのではなく,技術を社会の夢や要求をかなえる「手段」としてとらえ,そのための技術開発とは何かを見つめなおすこと。このような姿勢の継続は,社会からの共感を得て,社会の一員でもある社員の誇りをさらに高めていくであろう。そして,企業活力が向上した当社の姿は,顧客・株主にも魅力的に映り,結果的に差別的優位性が確保できる強い「鹿島ブランド」が培われていくのではないか。経営理念の結びの言葉にあるように「社会に貢献すること」が当社の最終的な目的である。「鹿島ブランドを考える」。本テーマは当社の永遠のテーマではないだろうか。


|1 鹿島ブランドの「測定」
|2 ブランドへの社員の意識