特集:進化するコンクリート

薄さを極める超高強度コンクリート〈パワークリート〉
厚さ1.2mへの挑戦
 2006年度グッドデザイン賞(建築・環境デザイン部門)に,JR秋葉原駅前の歩行者デッキ「アキバ・ブリッジ(AKIBA_BRIDGE)」が選ばれた。土木構造物の受賞がまだ少ないなかで,景観を重視する今日を象徴するかたちとなった。
 アキバ・ブリッジは,都心の新たなIT拠点「秋葉原クロスフィールド」の大きなふたつのビルと駅をつなぐメイン動線。スレンダーなデザインが特徴だ。その“薄さ”は驚異的だと土木技術者は口を揃える。
 全長63m,幅員8.8m という広々とした歩行空間をかたちづくるデッキは,設置できる高さの範囲がきわめて狭い条件にあった。ビルを通過する上下の空間制限によって算出される橋桁の厚さ(桁高)はわずか1.2m。駅前ロータリーに橋脚を出さないためのスパンは33m。通常の技術での桁高は2m近くなる。
 そこで適用されたのが,最先端の高性能コンクリート〈パワークリート〉である。ベースとなったのは,15年以上にわたる高強度化の研究成果だ。最近の超高層建築の低層部躯体には,通常のおよそ4倍の強度をもつ100N/mm2クラスの超高強度コンクリートの適用が増えているが,アキバ・ブリッジの躯体に適用されたのは120N/mm2。この橋の誕生にあわせるかのように,実用化の見通しが立ったところであった。
秋葉原クロスフィールドと駅前広場を軽やかにつなぐ「アキバ・ブリッジ」
工事概要
場所:東京都千代田区/発注者:エヌ・ティ・ティ都市開発,ダイビル,当社/事業受託・推進:当社開発事業本部/設計:当社土木設計本部/ デザイン協力:エヌ・ティ・ティ都市開発,デザイン総研広島,当社建築設計本部/規模:2径間連続PC桁橋 橋長63m 幅員8.8m 最大支間33m
工期:2004年5月〜2006年1月(東京土木支店施工)
景観デザインへの昇華石炭灰人工骨材〈J ライト〉
 コンクリートは高強度化するほど内部が乾燥状態になり,“縮み”が増える。セメントは水と反応して縮む性質があるため,セメントが多くなるほど縮みは増える。ビルの柱梁よりも長大な橋梁では,この縮みによって構造耐力の低下やひび割れに伴う耐久性の低下につながる恐れがある。
 縮みを減らすポイントとなったのは,コンクリートの骨材。ここで適用された石炭灰人工骨材〈Jライト〉は吸水性が高いため,コンクリート内部の“水気”を保つことができ,乾燥を防止できる。骨材の工夫だけなので材料コストの上昇を抑えられる。こうして高強度で収縮にも強いコンクリートが実用化されたのである。
 そして,桁を薄く軽くできれば,橋脚も小さくなり,構造形式やデザインの点でも大きな可能性が生まれる。アキバ・ブリッジでは,床版を鋼管で支える「ストラット構造」を採用することで,桁下からみた軽快感をさらに高めている。
 この新たな構造は,シャープなエッジの円弧を描き,軽やかな存在感のデッキと,透過性の高い桁下空間を生み出した。最先端のエンジニアリングを景観デザインとして昇華させた点は,グッドデザイン賞の審査員にも高く評価された。
コンクリートの床版を鋼管で支える「ストラット構造」 地上41階建ての超高層マンション「虎ノ門タワーズ レジデンス」(東京都港区)。低層部の柱には100N/mm2の超高強度コンクリートが使われている
New Technology 鉄筋不要のコンクリート〈サクセム〉
〈サクセム〉の補強用特殊鋼繊維 アキバ・ブリッジをきっかけに,さらにチャレンジングなコンクリートが実用化されている。新潟県長岡市で建設中の歩道橋「リバーサイド千秋連絡橋」である。なんと,このコンクリート躯体には鉄筋が入っていない。圧縮に強いコンクリートを鉄筋の引張で補強する鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete:補強されたコンクリート)の概念を覆す技術だ。
 鉄筋の代わりになったのは,わずか直径0.2mmの特殊鋼による繊維材料である。超高強度繊維補強コンクリート〈サクセム〉は,特殊鋼繊維を混ぜ適切な養生温度管理をして固めることで,通常のコンクリートに比べて最大8倍の圧縮強度と高い靭性を確保。鉄筋の補強が不要になった。
 鉄筋がなくなることのメリットはさまざまだ。構造体が軽量化され,施工の省力化が図れる。架設費や基礎の建設費も低減され,高い耐久性によりライフサイクルコストも低減できる。さらに,部材の厚さを極限まで薄くできる。
 そして,サクセムは流動性と自己充填性に優れているため,複雑な形状にも適している。つまり,コンクリートの“自由度”が飛躍的に高まるといってよい。今後の幅広い適用と,新たな構造形式やデザインの登場が期待される。
コンクリート躯体に鉄筋が入っていない「リバーサイド千秋連絡橋」(完成予想パース)
工事概要
場所:新潟県長岡市/原発注者:ユニー/発注者:長鐡工業/設計:当社土木設計本部/規模:3径間連続PCラーメン橋 橋長30m 幅員4.1m 支間26m/工期:2006年12月〜2007年7月
(北陸支店施工)

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