特集:進化するコンクリート

環境との共生をめざす〈自然対応型コンクリート〉
コンクリートを環境で選ぶ時代
 コンクリートをめぐる試みは,環境面でも新たな可能性を切り拓いている。
 従来のコンクリートは建造物の安全性を重視する一方で,自然環境に対しては必ずしも十分な配慮がなされていたわけではなかった。しかし近年,自然の仕組みを把握し,環境に適応したコンクリートの開発が急速に進められている。
 当社が発想するのは,土に近づけること。強度と耐久性を損なわない〈自然対応型コンクリート〉が,生物との共生に向けて次々と実用化されている。
 そのひとつが〈ウェットコンクリート〉である。〈ウェットコンクリート〉の特徴はその名のとおり,保水性にある。コンクリートの製造段階で植物繊維を配合することで,通常のコンクリートとは比べものにならないほど保水性がアップした。1m3で200リットル,ドラム缶1本分の保水量が実証されている。すでに適用された場所では,ホタルやカエルといった生物が新たな自然を築きはじめた。
 こうした技術は,さまざまにかたちを変え,自然再生の糸口を見出している。陸生と水生の動植物が共に生息できる〈環境配慮型ポーラスコンクリート〉やカニやカエルの棲み家にもなる〈カニ・カエルパネル〉などである。
 自然環境の整備やヒートアイランド対策といった課題は,自然対応型コンクリートの登場によって急速に見通しが明るくなった。コンクリートを環境に合わせて選ぶ時代の到来といえよう。
Eco-File.1 土に近づける〈ウェットコンクリート〉
 コンクリートやアスファルトに覆われた空間を土に戻すことはむずかしい。土と同様の吸水,保水,蒸発散を備えた〈ウェットコンクリート〉とそれに必要な水は,かつてあった湿潤空間の復活に役立つ。それは,夏の高温化防止だけでなく,乾燥化が引き起こす病原菌,道路粉じん,花粉などの飛散防止にもなる。
 私たちの生活空間には水を介在する湿潤した部分と,水を介在しない乾燥した部分があり,両者のあいだで大小さまざまな大気の動きをつくり,このなかでわが国特有の風土・文化が培われてきた。
 しかし近年,生活空間での湿潤部分だった土が,不透水,非保水を基本とするコンクリートやアスファルトなどにとって代わり,私たちを含めた生き物の生活空間が湿潤から乾燥に改変したことで,環境悪化を引き起こしている。
 この改変を修復するために当社では,通常のコンクリート配合材に植物繊維を添加し,吸水,保水,蒸発散,毛管作用があり土に近い働きを持つウェットコンクリートを開発した。そしてコンクリート配合材を調整することで,保水率,強度,形状など異なる機能を持ったものと,その組み合わせで修復に対応している。植物繊維を加えたソフトコンクリートの表面は土に近く,片手で持てるほど軽い
 さらに,ウェットコンクリートの機能を発展させたのが〈ソフトコンクリート〉である。ソフトコンクリートはウェットコンクリートを超軽量化したもので,現在は建物の屋上で試験的に使用されている。パネル化されたソフトコンクリートは,表面と裏面で遮熱塗料を塗り分けることで,それぞれ異なる効力を発揮するのが特徴だ。表面に塗れば,水の蒸発散を防止して,ビル内の温度の上昇を抑制する効果がある。裏面に塗れば,保水性を発揮して,屋上からの雨水の流下を遅速させる効果がある。
 新しいコンクリートを用いて,安全と安心の生活空間づくり,それも都市環境の改善の重要な手立てなのである。
ウェットコンクリートを超軽量化したソフトコンクリートは,ビルの屋上で低温化パネルとして試験的に使われている
Eco-File.2 孔にミミズが住む〈環境配慮型ポーラスコンクリート〉環境配慮型ポーラスコンクリート
 河川や水路などの水辺では,陸生生物と水生生物が共棲する。自然環境を考えるうえで極めて重要なポイントである。これまでの水辺環境において,コンクリートが果たしてきた役割は治水のための護岸整備が主だった。しかし,近年の環境配慮への関心の高まりから,護岸のためのコンクリート開発は,生物が生息できる生態系重視型へと大きく舵を切りはじめている。
 その代表格が〈環境配慮型ポーラスコンクリート〉である。骨材の粒径を従来型のポーラスコンクリートの2〜4倍にすることで,コンクリート内部に通常の約2倍の大きさのポーラス(孔,空隙)が備わった。
 内部の隙間を増やすことのメリットはふたつある。まず,植栽の生育に適した黒ボク土を隙間に充填できることである。黒ボク土は腐植を多く含むために肥沃な土壌となり,さらにコンクリートから溶出するアルカリ成分の影響を和らげるために生態系にも優しい。
 もうひとつは,空隙が大きければ,植物が根を張りやすく,植生の定着に役立つ。さらにミミズなどの土壌動物が生息できるため,安定した環境がつくり出せるのである。
〈環境配慮型ポーラスコンクリート〉を用いた護岸で形成された自然植生
断面比較。従来型ポーラスコンクリート(右)に比べると,環境配慮型(左)の空隙(緑色の部分)の大きさは一目瞭然だ 護岸での生物の生育状況(左はヤゴ,右はミミズ)。〈環境配慮型ポーラスコンクリート〉では,空隙に自然土壌を詰められるため,生態系に適した環境がつくり出せる
Eco-File.3 食物連鎖を修復する〈カニ・カエルパネル〉
 これまでのコンクリート護岸は,生き物にとって棲みやすい場所ではなかった。凹凸がなく,白いために照り返しが強く,隠れ場所もない均一な護岸は,生き物の生活空間を消失させた。
 〈カニ・カエルパネル〉は,護岸や壁面に生きる生き物を対象に開発したもので,石積みの機能を再現したパネルには,カニやカエルが好む壁面の凹凸や身を隠す目地,照り返しを抑えた色調,そして冬眠のための裏込めに通じる貫通穴がある。
 カニとカエルは食物連鎖の要の動物で,彼らに安定した生活空間をコンクリートのパネルで提供した結果,沿岸および陸域の食物連鎖を修復し,多様な生き物を呼び戻した。加えて万が一,人が水に落ちるようなことがあっても,パネルに施されている深目地が手・足がかりになるため,従来型の護岸と比べても災害を抑止できるつくりとなっている。
パネルの表面は凹凸がたくさんあり,カニがよじのぼれるようになっている 芝浦アイランド南地区西側(東京都港区)に設けられたカニパネルと潮だまり

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