特集2:21世紀を語る 〜技術者たちの夢

21世紀を語る 〜技術者たちの夢
〜技術者たちの夢
環境の世紀,ITの世紀などと言われる21世紀が,ついに幕を開けた。特集2では,土木,建築,環境,IT分野の4人の社員に,それぞれの21世紀に描く夢,展望,未来を語ってもらった。

次世代インフラの行方
〜ITSでつくる新しい都市とインフラ
吉田正
土木設計本部 設計技術部 次長
吉田 正

 21世紀の道路インフラとしてITS(Intelli-gent Transport Systems)が注目を集めている。高度道路交通システム・ITSの中核となるのはETC(自動料金収受システム)やAHS(走行支援道路システム),VICS(交通情報通信システム)などである。ITSは道路・交通分野と車両・情報通信分野が融合された新しい道路システムであり,多分野の産業の市場を創造する新しい社会インフラとしても期待されている。
 「ITSはそれ自体が“目的”のように思われていますが,そうではありません。ITSを利用して周辺の様々なものの機能や,都市のあり方を変えていく“手段”なのです。例えば,ETCは出入口にゲートを設置するだけなので,簡単に安く,しかもインターチェンジやランプ自体を小さな敷地で整備することができます。レジャー施設などに設置すれば入場料金や駐車料金を車をストップさせずに徴収できます。物流施設に設置すればドライバーや積載貨物の種類など詳細な情報まで一元管理できるようになるわけです。要するに,ITSを利用して,駅前,港湾,教育施設,空港,医療,物流,レジャーなど様々な施設の“機能”が変わっていくのです。その点はITと非常によく似ていると思います」
 ITSの大きな柱であるAHS(走行支援道路システム)。これは,道路上に埋め込まれたレーンマーカ(磁石)を車両のセンサーが検知することにより,自動走行を可能にする。高速道路などでは,一定速度の走行を制御でき,運転者はハンドルから手を離すことも可能となる。このシステムを利用すれば,最小限の道路幅員で安全・円滑に走行できるだけでなく,安価な新しい交通システムをつくることができる。
 当社では,ETC対応のインターチェンジの計画立案に効果を発揮する交通シミュレーション(REST)の開発やレーンマーカの施工技術等の研究を行っている。「ITSというと電機メーカーや自動車メーカーが主導と思われがちです。しかし,ITSの基盤はあくまでも道路です。建設分野がもっと主導となって,いろいろな事業を提案していかなければと思っています」
 「私がITSで実現したいものの一つは,駅前広場です。駅を核としたひとつの街づくりのあり方としてITSを利用した高度な次世代インフラが考えられるのではないでしょうか。例えば,駅から降り立った人は携帯端末でタクシーやバスを呼ぶのです。そうすると現在のような駅前の大きなバス・タクシープールがいらなくなります。残った敷地は再開発に活用したり,バリアフリー施設をつくることが出来ます。現在の交通のボトルネックとなっている駅前周辺を変えていければと思います」
 21世紀に実現したい夢を聞いた。「当社はこれまで,鉄道の鹿島,超高層の鹿島などパイオニアとして活躍してきました。今の若い社員や研究者がプライドを持てるような夢があるといいと思っています。21世紀には“次世代インフラの鹿島”と言われたいですね。今取り組んでいることがそのひとつの役に立てればいいと思っています」

AHS技術を活用したバスシステム ITSを活用した次世代型の駅周辺施設
AHS技術を活用したバスシステム
(提供:トヨタ自動車)
ITSを活用した次世代型の駅周辺施設



21世紀・建築の行方
〜とりかえる技術\有期限建築
奥平与人
建築設計エンジニアリング本部 建築設計部部長
奥平 与人

巡回公演のための移動劇場 巡回公演のための移動劇場 1,260席,延べ3,300m2。汎用型コンテナ173個で壁を構成。それぞれの部材を軽量化し組立て方法を簡略化して,1か月での建設,1週間での解体を可能とした

 奥平氏は20数年間,商業建築の設計業務に一貫して携わってきた。その中で,数年前から提案してきたのが,施設の耐用年数をあらかじめ想定しその期間に見合った合理的な材料・工法で建設する「有期限建築」という考え方だ。
 「私が接するどの商業施設の発注者からも『鹿島さんには重厚で素晴らしい建物を作ってもらうが,もう少し軽快で合理性・効率性を優先させた,使いやすい売り場空間をつくって欲しい』と言われるのです。鹿島の品質保証をした建物が,商業施設のニーズと合っていなかったんですね」。氏は1981年に軽装備店舗として当社の固有技術であるアンボンドフラットスラブを元に,躯体と内装が一体となった店舗,売り場変更などにすばやく対応できる店舗を商品ディスプレイの什器をも含めて開発した。そして95年,「有期限建築」という言葉をはじめて提唱した。「建築はつくったら20年30年壊さずにそのまま使うという発想ではなく,骨格はきちっとつくりこみますが,使い勝手によって部材を取り替えられるような構造・仕上げ・設備というものをトータルで考えました。発想のきっかけは現場で使っている仮設資材なんです。全天候屋根材,防音の仮囲い。これらを本設として使えないか。当社の持つ構造技術,施工技術を駆使し部材の耐用年数を5年,10年と期間を限ることによってどこまで生活の仕方をサポートできるかということを考えたわけです」
 現在,劇団の巡回公演のための移動劇場をわずか1か月で建設する計画が検討中で,来年実現する予定だ。「世界標準のコンテナを積み上げ,仮設資材をフルに活用した劇場になる予定です。1か月で組み立て,公演期間が終わったら解体して次の公演地へ移る。これは言ってみれば有期限建築の究極的な回答だと思います。建築が“不動産”から“動産”に変わっていきますね」
 「これからの建築は,ファッションと同じ様に,取り替えていけるものが求められるのではないでしょうか。特に日本のように四季のある風土,温湿度差のある風土ではそうだと思います。もっと身近な建築を考えたい。例えば,週末だけの建築,言ってみれば,今日一日だけの建築をつくって欲しいと言うニーズに対して果たして応えられるのだろうか?そのようなニーズに応えるためには,鹿島がこれまで培ってきた技術を再構成しておくことが必要だと思います」「これからの時代は,家の中ですべての生活が,ビジネスも含めて完結できる時代です。買い物も,仕事もすべて家の中でできるでしょう。しかし,どんな時代になっても人間は“ドアから外に出たい”という欲求が必ず起こります。その欲求を起こさせるための仕掛け,仕組みが“集客装置としての建築”だと思うのです。人々のドアから出たい欲望,目的意識を建築が受け入れるときに,人々は経験を通して記憶を共有できる。記憶を呼び覚まし,経験が交流される建築。それが21世紀の建築,21世紀の都市の在り方なのではないかと考えています」
 「“100年をつくる鹿島。”は有期限建築の考え方をしっかり持っていることによって,逆に100年をつくってゆけるのではないでしょうか?もっと身近な有期現建築と,もっとユニバーサルな100年建築。変わってゆく人々の“暮らし”を支えていく建築を創造していきたいと考えています」



廃棄物の行方
〜資源循環型社会は実現するか?
八村幸一
環境本部有機性廃棄物資源化グループ 課長
八村 幸一

 21世紀は環境の世紀と言われるように,資源循環型社会の構築,地球温暖化防止対策などが,より一層求められるのは言うまでもない。その二つの社会的要求に対して応える技術が当社の開発した生ごみをエネルギーに変える「メタクレス」だ。
 メタクレスは生ごみをメタン菌により発酵させ,メタンガスを発生させることによりエネルギーを回収するというリサイクル技術である。燃料電池との組合わせにより,より高効率で環境負荷の少ない発電も可能だ。八村氏はメタクレスの営業に全国を忙しく巡る日々が続いている。
 リサイクルをするために膨大なエネルギーを使っていては,温暖化ガスの削減は達成できない。メタクレスはもともと生ごみに含まれているエネルギーを取り出し,処理施設そのものを動かす以上のエネルギーが回収できる。温暖化対策に貢献でき,しかも廃棄物をリサイクルできるという一石二鳥の技術なのだ。
 生ごみを始めとする有機性廃棄物は廃棄物全体の60%近くを占めると言われているが,リサイクルが最も遅れている分野でもある。当社ではメタクレスにコンポスト技術などを組み合わせ,生ごみ,畜産廃棄物を始め様々な有機性廃棄物をトータルに資源化する施設を提案中だ。「当社は個々の施設を作るだけでなく,地域の有機性廃棄物の全体像を捉えて,その中で総合的に資源化する施設を提案していきたいと考えています」
 21世紀,資源循環型社会は実現するのだろうか?「家庭で“容器包装ごみ”と“生ごみ”を分別・リサイクルしたら,家庭から出る可燃ごみはものすごく少なくなると思いませんか?21世紀には処分場に埋め立てるものは非常に少なくなり,ゼロエミッションに限りなく近づくのではないかと思います。リサイクルは国,自治体,企業,国民が足並みを揃えて推進していくことが非常に重要です。国,自治体による規制の強化に加え,国民,企業のリサイクルへの意識が高まる21世紀の最初の10年には,資源循環型社会の構築が加速されていくと思います。メタクレスはその中核的な技術のひとつとなるのではないでしょうか?現在,施設の大規模化の開発を進めており,近い将来に,小規模なユニット型メタクレスの開発も進めたいと考えています。各ビル用や各家庭用のメタクレスも燃料電池の小型化が進めば実現可能です。更に,生ごみをガソリンの代わりに車に入れて,燃料として走らせるといったことも,もう夢物語ではありません」
 資源循環型社会を構築するために当社はどんな役割を担うべきなのか。「まず一つ目は,施工時や解体時に出る建設廃棄物のリサイクル率を上げること。二つ目は我々が使用する建材にリサイクル商品を使う努力をすること。そして,三つ目にコストが安くて環境負荷が少ない資源化技術を開発・普及させていくことが必要だと思います」
 最後に,夢というよりは目標ですが,と前置きして「ベンチャー企業,メーカーなどが保有する優良な資源化技術やそのアイデア,事業プランなどをサポートし,旧来の形式にとらわれない大胆な発想で,環境負荷が少ない,より理想的な資源循環型社会構築の実現に貢献できる環境エンジニアを目指していきたいと考えています」と語った。

生ごみ燃料電池発電の仕組み



ITと建設業の行方
〜ITの鹿島を目指して
西野篤夫
ITソリューション部
エンジニアリングシステムグループ
(学校教育エンジニアリング)グループ長
西野 篤夫

杉並学院(中・高校)PCラウンジ
杉並学院(中・高校)PCラウンジ

 業務の効率化を目指したIT活用が,ビジネスの仕組みを変え新しい産業を生み出すIT革命へと進んだ20世紀終盤。ITはこれからどのような方向に進むのであろうか?
 西野氏は学校教育についてのITエンジニアリングを提案している。「これからは情報系のインフラというものを抜きに建物は考えられない。ITが建物の価値を左右する時代の到来です。学校では各教室に必ず情報ネットワークが引かれるようになってきました。情報系インフラコストの建設プロジェクトに占める割合は約10%にまで拡大しています。情報系の学校などでは3分の1くらいがIT関連費用となることもあります」と,近年の学校のIT化を語る。
 当社ではアメリカ・マサチューセッツ工科大学との共同研究を通じて「Caddie」という教育支援システムを開発,大学などに提案している。このシステムは講義に関する資料を一元管理するシステムで,教職員の作業を低減でき遠隔地からも学生が講義に参加できることが大きな特徴だ。教員は講義ホームページを簡単に作成でき,課題の提示や成績管理などが行える。学生側も課題の提出や教員への質問,学生同士の連絡などもインターネットで行うことができる。また,やり取りする情報はデータベースに保存されるため,今まで散逸しがちだった講義資料,レポート,ディスカッションの履歴などが体系的に蓄積され,学校の知的資産として学内外から活用できる。「ITが新しい時代の教育をどう変えるか,学校側も非常に興味を持っています。少子化時代を迎え,社会人向け教育が学校にとっての新規市場として注目されています。遠隔教育を強力にサポートするCaddieは,教育方法ばかりでなく学校のあり方そのものまでも変える可能性があるシステムです」
 「空間に対してのアメニティということが言われて久しいですが,“ITアメニティ”という言葉が生まれています。ITに対してどれだけ快適かということが施設価値のひとつの指標となっています。オフィスビルなどは勿論ですが,学校,ホテル,研究施設,病院などでもインターネットにどれだけ快適に接続できるか,つまりITアメニティの整備状況が重要な時代になると思います。例えば学校では,ITにより教室の利用性や,教育の質,効率が飛躍的に向上します。当社はITアメニティの高い教育施設をいち早く提案していくことで学校建設市場をリードできるでしょう」
 「“建設業は箱だけをつくればいい”という時代は終わりました。お客様の経営や将来像までもコンサルティングして,提案できなければ生き残れないと思います。学校などでも,建設業はお客さんに「教室をどのように使いますか?」と使い方を尋ねますね。しかし,情報通信メーカーは「将来の学校教育をどうしたいか?」を学校と一緒に考え始めているのです。我々も情報環境まで含めた学校づくりを提案していかないと,付加価値の高い,お客様の満足のいく建物を提供することができなくなると思います」
 「これからは新しい街づくりや建物,革新的な仕事のやり方などをITから発想できる社員,つまり,“ITのビジネス遺伝子”を持った社員がたくさん出てきてほしい。さらに鹿島発のIT系ベンチャービジネスが生まれ,その中から鹿島の新しい事業の柱が次々に出てくる。つまり“ITの鹿島”と言われるようになれば21世紀の鹿島は安泰です」



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|特集2:21世紀を語る 〜技術者たちの夢
|特集3:鹿島社員が考える,21世紀の予言