特集:鹿島のCSRを考える

ア・ラ・カルト 〜建設業と鹿島とCSR〜
CSRとは? と問うと,さまざまな答えが返ってくる。
当社のCSR指針にも,CSRの一般的意味が示されているが,その範疇は広く,掴み所のない概念に戸惑う人も少なくない。
建設業に求められるCSRとは何か。鹿島のCSRメッセージとは。そしてステークホルダーが満足するCSRとは――。
キーワードをア・ラ・カルト風に並べて,CSRの輪郭に迫ってみた。
CSRと企業を取り巻く社会環境の変化
「三方よし」の商売「三方よし」の商売
 日本でCSRは新しい概念ではない。江戸期に活躍した近江商人は活動の基盤を「売り手よし,買い手よし,世間よし」の「三方よし」に置いて商売をした。こうした考えを踏襲して,経営理念にCSRの要素を盛り込み,発展を続けてきた企業も数多くある。
 当社の経営理念のルーツは,中興の祖・鹿島守之助の「経営の基本方針は人道主義と合理主義」にある。守之助にとって経営とは,良き人づくり・会社づくりを通じて常に「現代の我々よりも完全な,より幸福な世代を育て上げること」,つまり「社業の発展を通じて社会に貢献すること」だった。
 しかしそれはいわば「家訓」であり,日本人や日本の企業の気質として,敢えて積極的に掲げることはなかった。

CSRの源流
葉山水域環境研究室 日本のCSRの源流にあるのが,公害などの環境問題であるといわれる。当社の環境への取組みも,1970年に公害防止施設室を設置したのが始まりだった。その後,環境問題へのより積極的な取組みを進め,鹿島技術研究所(1949年設立)の分室として,1981年に葉山水域環境研究室(旧水産研究室),1993年には検見川緑化試験場を設置。建設事業と生態系の共生に向けた研究開発と活用に取り組んだ。

等身大の姿をありのままに
等身大の姿をありのままに 情報開示はCSRの第一歩である。
 経営の透明性が高いかどうか,特にステークホルダーにどのような情報を開示しているか,が大きな意味を持つ。ありのままの経営情報の開示は,社内のガバナンス体制や取組みがしっかりしているからこそできる。
 CSRは「ステークホルダーとのコミュニケーション」が鍵を握ると言われている。将来の社会にどういう形で貢献していくのか,そのビジョンを提示し,ステークホルダーと会話する企業こそが持続的な企業となりうる。

信頼される企業に
 近年になってなぜCSRがクローズアップされたのか。それは日本企業もグローバル展開を強化したことで,外国人投資家の持ち株比率の増加や,発展途上国における環境や雇用や人権などに関心が高まった。さらには国内で相次いだ企業不祥事に対して,コンプライアンスと情報開示・透明性への社会的要請が高まるなど,企業を取り巻く社会的責任が一層問われてきたことが背景にある。
 企業としてこうした課題に正面から向き合い,ステークホルダーへの情報公開により,信頼される企業になろうという前向きな活動がIR(インベスターリレーションズ)としても重視されてきている。

安心企業という評価
 問題の発生時に,社会は企業がいかに情報伝達と的確な意思決定が迅速に行えたかを見る。これがCSRなのである。むしろ,いま問われるリスク管理経営とは,安心企業という評価だろう。以前は安心できない商品でも,安全だと分かれば消費者は許してくれた。しかしいまは結果的に安全でも,安心できない商品を許してはくれない。

建設業に求められるCSR
法令順守の本質と精神法令順守の本質と精神
 建設業はかつてないほどに「企業の社会的責任」が問われている。当社は2007年度期首経営総合会議で,一連の不祥事を厳粛に受け止め,全社員に改めてコンプライアンスの徹底を指示した。同会議で中村社長は,社員に次のようなメッセージを送っている。
 「大切なのは,法令やマニュアルに形式的に従おうとすることではなく,その背後にある本質と精神を理解することである。それは社会の要請であり,それに誠実に応えようとする鹿島の『良心』でもある。一人ひとりが自分の胸に手をあてて,法令違反を許さない会社の姿勢を徹底してもらいたい」。法律だけでなく,社会常識や公序良俗,モラルを守ることが求められている。

本業としてのCSR
  安全で安心できる生活を享受できる国土を,次世代に受け渡す――。それが建設業としてのCSRの根幹をなす,といっても過言ではない。そのために建設業は,営々と技術の開発と伝承,高品質の保持,自然との共生に努めてきた。こうした積み重ねの努力が,次世代を担う人に明るい未来を約束することになる。
 これからは,地球環境を守りつつ,社会の発展を続ける方策を考え,併せて防災・減災や災害復旧への技術力向上に努めることも,建設業に課せられた重要なCSRと考えている。

環境創造への貢献
環境創造への貢献 社会資本整備をする上で,環境問題は避けて通れぬテーマである。建設業には,事業活動に伴う環境負荷をどう低減するか,という課題とともに,人が安全で住みやすい環境創造にいかに貢献していくかが求められる。その実現に,当社をはじめ建設業が培った技術が寄与できる。生態系保全,緑化,環境予測や評価,汚染土壌の浄化など,自然保護や持続可能な社会のために建設業が提案し,実現してきた技術やノウハウは少なくない。

防災と災害復旧防災と災害復旧
 2004年の新潟県中越地震では,はからずも当社の制震・免震技術の有効性が実証された。しかし制震構造や免震構造を採用した建物の普及は進んでいないというのが実情だ。
 一方,自然災害の発生に際しても,建設業は様々な形で復旧に対応してきた。決壊堤防の緊急締切工事,無人化施工による砂防工事,災害廃棄物の処理,災害防止のための恒久対策…。中越地震の際は,新潟県内交通網の早期復旧への強い要望を受け,建設会社が総力を結集して完遂した。これも建設業の本業としてのCSRだろう。
鹿島のCSRメッセージ
100年をつくる会社の使命
 当社は,持続可能な社会の形成に向けての自負と責任を「100年をつくる会社」と表現している。社会に長期的に影響を持つ社会基盤を建設する産業の一員として,自らの事業活動が常に次世代の評価に耐え得るか,という視点を大切にしたいと考えるからである。

品質は信頼の基礎
 当社2007年度期首経営総合会議でも,法令順守とともに真っ先にとりあげたのが品質確保だった。当社は建設業の原点に返って,まず品質を中央に据える。品質は信頼の基礎。それを鹿島の経営基軸とした。
 顧客の信頼とは,「鹿島に任せておけば安心」と言われる鹿島であることに尽きる。常にそうした評価を受けられるよう,当社の姿勢を社内外に伝えるコミュニケーションを確立することである。

ステークホルダーが満足する会社ステークホルダーが満足する会社
 当社は2006年度を初年度とする新中期経営計画をスタートさせた。「顧客志向の徹底」と並ぶ基本方針として「企業倫理の実践」を掲げている。その根幹となるのは透明性のある企業活動である。それには,顧客への誠実な対応という本来の社会的責任を踏まえ,技術力に裏付けられた的確な品質の構造物やサービスを提供できる体制構築が鍵になる。

ひとり一人が広報パーソン
 社内への広報活動もCSRを展開する上で大きな意味を持つ。CSRに対するスタンスや行動指針を社員が理解することで,自らの仕事や自社への誇りやロイヤリティが生まれる。それが継続的に体現できれば,社員ひとり一人が広報パーソンとなって,対外的にも自社をアピールできる。企業の等身大の姿をありのままに伝えると同時に,いかに改善を目指すのかという道筋を語ることも大切になる。

事業継続計画(BCP)
 大地震など大規模災害の発生で業務が中断した場合でも,速やかに重要な業務を再開させ,マーケットシェアや企業評価の低下を防ぐBCPが注目されている。当社も,顧客企業などの事業活動回復支援を重要なCSRの一つと位置付け,「今もいざも安心」をテーマに,早期地震警報システム,地震リスク簡易評価システムや多層階免震施設など,ハード,ソフトの両面から様々な分野で,機能や技術の開発を進めている。

安全文化の確立
 建設業は,社会から多くの人の力を借りて生産活動を行っている。業務に携わる全ての人が生き生きと働き,能力を発揮できる環境を構築することも建設業の重要なCSRである。その根幹にあるのが「安全」の確保である。
 当社は「死亡・重篤・重大災害ゼロ」を安全衛生活動の柱に据え,災害防止を推進している。中村社長が全国の支店や現場で「安全パトロール」を続けるなど,現場の安全意識の高揚に努め,全員参加による「安全文化の確立」に取り組んでいる。

column CSR推進室から〜CSRの原点は現場にあり

CSR推進室長 三輪敏彦 当社は,国内だけでも1,700余の現場がそれぞれ“鹿島の顔”として日夜活動しています。工事の完成・引渡しを約した顧客はもとより,近隣・地域社会,協力会社・資機材納入業者,官公庁・各種団体など多様なステークホルダーとの良好な関係に配慮し,その利害を調整しつつ,竣工に向けて皆が全力投球しています。
 そういったプロセスは“CSRの原点は現場にあり”と言うに相応しいものです。法的責任は言うまでもなく,「鹿島の現場」であるが故に求められる配慮や行動が数多くあります。第一線の厳しさは,日々このような元請の社会的責任に直面している点にあります。
 私の現場経験をふり返っても,ダンプによる土砂・砕石等搬出入ルートの交通安全確保・清掃,地元調達に係る商社・商店会等との折衝をはじめ,工事関係者の現場外の火災や業務外の事故にいたるまで,実に様々なことが思い起こされます。これらは “鹿島のこと”と認識されますので,対応の仕方を誤ると,顧客との現在の関係のみならず,鹿島の諸先輩がその地域で過去に築いてきた信頼をも損ないかねません。
 最後にひとつ。現場勤務を通じた地元とのかけがえのない人間関係は,今でも私に元気を与えてくれるものです。現場では,社会に貢献する建設物とともに,地域における“人と人の輪”を日々創り上げているのです。まさに“本業から滲み出るCSR”と言えましょう。

 interview
 鹿島のCSRの全体像・鹿島のCSR関連部署
 ア・ラ・カルト 〜建設業と鹿島とCSR〜
 メディアの眼〜いまこそCSR