――今まで,関東大震災を目安に耐震計画が立てられましたが,今回の地震を経験して考えねばならないのはどういう事でしょうか。
小堀 今回の地震は数百年に1回の内陸型地震です。
ですからこのような直下型地震に学ぶだけでは対策が片寄ります。
東京や名古屋などが受ける海洋型の地震は海の深いところで,もっと大きなマグニチュードを持ったものです。
そうすると地面の動きは当然違ってくる。
今回は,もともと大地震が起きると言われていなかったところで起きたために,大きな被害を生みました。
しかし,新耐震基準に沿って,我々の設計の技量を発揮して作ったものは,少々の被害はあったものの驚異的に壊れていない。
壊れたものから学ぶのも大事ですが,壊れなかったものがなぜ壊れなかったのかをつきつめることが,安全なものを作る上で一層大切だ。
今まで一次災害,つまり直接構造物が壊れたとか安全だったとかが中心に議論されてきていますが,二次災害は現在も続いています。
そういう事にも配慮していかなければならないですね。
小島 建物は構造だけがしっかりしていればいいというものではないとつくづく感じました。
震災の時の非常用電源,あるいは非常用エレベータの作動が非常に遅かった。
非常用電源は電気が止まっても少なくとも40秒以内に自家発電が動き出すと考えられていたのに,それがなかなか作動しない。
たとえ動き出しても水が出ないから冷却水が使えずにオーバーヒートしてしまい,暫くするとまたすぐ止まってしまう。
特に上下間の足である非常用エレベータは自家発電で作動するため,ほとんど役に立たなかった。
構造中心の耐震の考え方の見直しが迫られている中で,たとえば集合住宅は構造がしっかりしていても内装が破壊されるということは,住民にとっては堪え難い苦痛です。
我々は建物の構造がしっかりしていれば大丈夫だと考えていましたが,それだけでは現実に即していなかったことを知りました。
これからは,構造だけでなく設備や仕上げを含めた耐震設計を進めていく必要があると思います。
また,建物だけでなく建物を含む地域,都市がどうあるべきかが復興の計画の中で討議されていくと思います。
最近は設備と建築の分離発注が多いのですが,今回の地震はこのことについて疑問を提起したと思います。
ゼネコンが一体として,計画して施工して,設備に関してイニシアチブをとっていくことで解決していくと思います。
小堀 今までの,それぞれの仕事の守備範囲を決めて縦割りでやる方法は崩さなくてはなりませんね。
たとえば建物は構造的になんともないが,エレベータが動かない,内装がめちゃめちゃだということが起こった。
しかし,制震・免震で揺れを少なくすれば,そういうことはなくなる。
1年前のノースリッジの地震でも,構造は何ともない病院が機能を失ってしまったという事例があります。
建物が激しく揺れたために,薬が全部棚から落ちてしまったり,スプリンクラーが作動しカルテが水浸しになってしまったりしたのです。
今回の地震で90%近くの病院がひどい被害を受けました。
特に地震直後は,救急医療を施さなくてはいけないのに,病院としての機能を失ってしまっていた。
今までの縦割りの守備範囲を越えたとらえ方をして,ゼネコンの本領を発揮していかないと,本当の意味での地震に対する安全は保証できないと思います。
――土木はいかがですか。
野尻 一番問題があったと思われるのは,ライフラインのひとつである道路がほとんど使えなくなってしまったことです。
計画的な問題もありますが,高速道路に代表される立体的な空間利用の問題です。一つひとつの構造物を見るのではなく,三次元的に見る必要があるということです。
建築は点ですが,鉄道や道路は線です。
どこかで切れれば全て機能を失うという弱点を持っています。三次元的,立体的な設計が実際にされてなかった。
結果的に,一番力が集中する,壊れやすいところが壊れてしまった。
さらに上の道路が壊れたら,下の道路も使えなくなってしまい,救援活動にも支障をきたすことになった。
これは,今後大いに議論されることだと思います。
それから,バックアップのシステムを持っていなかったという,日本の社会基盤の弱点が露呈されました。
ヨーロッパやアメリカの主要都市間は,何本かのバイパスを確保していますからね。
土木の場合,今回の最大の教訓は,地盤,地形を含めた三次元的な耐震設計がなされていなかったことだと思います。
小島 神戸の地形そのものが東西に細長いのでライフラインが集中している。それらが使えないとなると,海か空からのアプローチしかないのです。 ところが,港湾施設も壊滅的な打撃を受けてしまった。
ライフラインである鉄道も各所で被害を受けた。
野尻 最近,耐震岸壁といったものが作られていて,神戸港にも数か所あります。ここは,あれほどの地震でもほとんど被害を受けていないのです。
ライフラインとしての港湾施設の見直しが必要でしょう。
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