これからの研究開発

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――当社は地震に関する研究では他社を凌いでいますが,今回の地震を経験して,今後,どういう面の研究開発が行われていくことになりますか。

中島 小堀先生を中心に阪神大震災防災検討会というものが作られました。 これは6つの分科会に別れて広く調査検討し,対応していこうというものです。 具体的には地震動や地盤振動,構造,免震・制震から内外装の二次部材や,ライフラインも含めた建築設備,そして人間と社会といった社会工学的アプローチの6分野です。 対応メンバーは小堀研究室,技術研究所,情報システム部,建築技術本部,設計・エンジニアリング総事業本部などの関連部署で構成され,成果は逐次報告されることになっています。

野尻 当社は大手ゼネコンの中でも,地震工学,耐震,免震制震についてのトップレベルの技術を持っており,さまざまな技術を開発しています。 今回の復旧にも最近開発された地盤調査車をはじめとする,各種診断機器やソフト技術が活用されています。

 地盤調査車「GEO-EXPLORER」

今後の課題として,これら診断技術の精度のアップ,そして補修・補強技術の強化があげられます。 今後,設計法の見直しがあると思いますので,これに対応した早くて性能のよい構造や工法を提案する必要があります。 古い時代に作ったものを現在の基準にあわせて補強するというニーズが増えてくると考えられますから。

小堀 それはひとつの社会問題なんですね。新基準にのっとった建物は壊れなかった,古いものは壊れた。 じゃあ,今ある古いものはどうするか。 今ある古いものを診断し,補強をすることをどう具体的に進めるかということは必ずしも簡単な問題ではありません。 費用もかかるし時間もかかる。 持主がなんとかしなくちゃいけないと思ってくださればいいのですが,時が経てばどんなに辛かったことも風化してくる。 被害が起こってからでは遅いし,被害が起こる前に警告すると,明日にでも地震が起きるのかということになる。 まず社会的に危険の恐れのあるものをどう補強していくかが大切ですが,法律とも絡んでくる問題ですしね。

――中長期的にみての課題はどうですか。

野尻 土木では免震技術です。既に出来上がっている橋を免震化ができるだろうかというのが大きな技術課題になると思います。

小島 実際に被害を受けた神戸では,既存の建物に制震,免震の処置ができないのかという問い合わせが結構きています。

小堀 今回のことは阪神地区だけの問題ではありません。本当になんとかしなければいけないのは,むしろそれ以外の都市だと思います。 でもなかなかそういう意識がない。それが問題なんですよ。 耐震診断も含めてその先どうするか,制震,免震も含めたシステムの構築が必要なことは,いまさらの技術課題ではなくて,10年も前からわかっていたことなのです。

中島 制震,免震の技術は,地震があるごとに注目されてきましたが,今後は普及に弾みがつくことと思います。

――最後に,現地で直接指揮しておられる小島支店長,今後の取り組みはいかがですか。

小島 一部の方は社員といえども被災者です。そういう中で社員の行動・心構えは,非常に健全なものであったと感じました。 自分の施工した建物に誰の指示もなく,皆飛んでいっているのです。ほとんどの社員が,地震が起きて2〜3日中に交通機関もままならない中,なんとか回ってるのです。 その結果,得意先からは大変な評価をいただきました。 技術屋としては当然の行動ではありますが,自分の家の片付けも終わってないのに,そういう行為にでたことは大変立派だと思いました。 現場担当,診断・調査,得意先対応など,本支店のあらゆる部門からの支援部隊170名を含めた340名が,震災のために汗を流しています。 現在,神戸はまだライフラインが復旧していません。 そんな中,現場で寝泊まりしたり,借りたバスの中で寝泊まりしたりと,大変苦労しながら頑張っています。 また,医師の派遣など,非常に早い時期から全社的に対応していただき,大変心強く思っていますし,感謝しています。 最近,復興という言葉が出てくるようになりました。 しかし,私が現地を見ている限りでは,まだ生活機能,インフラ,業務機能といった機能復旧に全力をあげている段階で,街は二次災害の可能性のある危険な状態にあります。 復興という言葉は明るさのあるものですが,足元をおろそかにしてはいけない。 慎重な対応が求められると思います。 もちろん,いろいろな計画部隊も動きはじめ復興の兆しも見えはじめました。 当社も積極的に参画したいと考えています。

――どうもありがとうございました。支店及び支援社員の皆様は厳しい環境の中,ご苦労の多いことと思いますが,長丁場でもあり,健康に気をつけて頑張っていただきたいと思います。


写真は鹿島月報より転載

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