![]() |
【工事概要】 (仮称)大宮下町3丁目マンション計画新築工事 場所:さいたま市大宮区/発注者:近鉄不動産,当社開発事業本部,小田急不動産/設計:当社建築設計本部/用途:共同住宅,事務所,駐車場/規模:RC造一部S造 B1,30F,PH2F 941戸 延べ99,994m2/工期:2008年9月〜2011年2月(関東支店施工) |
![]() |
大宮駅は,JRの在来線6線,新幹線5線のほか,東武野田線,埼玉新都市交通伊奈線が乗り入れ,1日の乗降客が50万人を超える巨大ターミナルだ。
駅から東に徒歩約7分,旧中仙道を越えたところに建設現場がある。かつて,映画館,ボウリング場,ゴルフ練習場などからなるレジャー複合施設であった6,000坪近い敷地は,周囲に建ち並ぶ建物群とはスケールで一線を画す。すぐそばには,大宮の由来である氷川神社の参道があり,ケヤキ並木の歴史的な景観をもつ落ち着いた佇まいだ。このプロジェクトは賑わいと静寂の分水嶺に位置している。
「グランドミッドタワーズ大宮」は,近鉄不動産,当社開発事業本部,小田急不動産の共同事業で,設計は当社建築設計本部が担当している。この計画では,周辺への景観的な配慮から建物高さを100m未満に抑え分棟化し,約1,000坪のプライベートガーデンを確保した。延床面積約3万坪の大規模プロジェクトである。
建物は,30階のツインタワー住宅F棟(フォレストタワー)・S棟(スカイタワー)で構成され,住宅の総戸数941。居住者専用のコンビニエンスストアや,託児所などを併設する。タワーの外観を4面統一し,ファサードに凹凸をつけた分節デザインにより周囲と調和を図った。
ツインタワーの構造は,HiRC構造・ハイブリッドダブルチューブ構法で,コーナー部とそれ以外の部分で梁位置が異なるのが特徴である。
取材で訪れたとき,2棟の住宅棟は27階の躯体を工事中で,低層部の4,5,6階はすでに内装の仕上げ工事が行われていた。
現場の平地では,幅15m・高さ10mの門型クレーンが,警報音を鳴らしながら部材を吊り込んでいる。その脇には部材が並べられ,配筋,検査,型枠組みなどの作業員がところ狭しと動き回る。約900名が働く大規模現場だ。
RC造の場合,通常現場で配筋,型枠,コンクリート打設が行われ,順次上層階を施工する。最近では工期短縮と品質確保から部材をプレキャスト(PC)化,工場でPC部材を製作して現場で組み上げることが多くなっている。この現場では,大規模敷地のメリットを活かし,さらに周辺環境への配慮から,PC部材を現場で製作する「サイトPC」を積極的に採用した。
![]() |
F棟・S棟の施工にあたり,2ヵ所のPC製作のサイトを設営した。各サイトには門型クレーン,クローラクレーン,ポンプ車とタワークレーンで1セット。部材の運搬距離が少なくなるように合理的に配置している。各サイトでは2棟それぞれ各フロア半分ずつの建込みを受け持つ。2棟2サイトの両面施工だ。
3階からの基準階では,1棟1フロアで必要となる柱や床版などのPC部材は合計171ピース。そのうち120ピースを現場で製作し,小さいが塗装などの仕上げ工程が多い残りの51ピースを外部工場で製作している。コンクリート容積に換算すると85%がサイトPCとなる。
![]() |
PC化全般を担当する比田井秋寿工事課長は,「ストックヤードは1フロア分の部材を置くスペースしかないので作り過ぎもできない。2ヵ所のサイトでは2棟それぞれに対し,互いにタイミングを合わせてPC部材を製作・供給する厳密な工程管理が必要」という。「車では運べない大型のPCを現場で作ることで,部材数を減らして合理化できた。梁をセンタージョイントとすることでジョイント数も減らせ,工期短縮に貢献できている」。基準階を5日サイクルで施工するには,安全に揚重するためのコンクリート強度確保が重要である。12N/mm2以上なければ揚重できないので,蒸気養生で部材を温めて強度発現を促している。
合計約3万坪の建物はすべてが桁違い。1フロア当たり5日間でサイトPC・場所打ちの合計約1,800m3のコンクリートを要する。それでもサイトPCを採用することで,工場製作のPCなどを積んだトレーラー車輌の出入りは70%減らすことができた。さらに,前面道路は一方通行で狭いため,ゲートを4ヵ所に分散して周辺への負担を低減している。周辺環境への配慮である。
![]() |
|
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
現場を仕切る坂田正和所長は,記録管理で,鉄筋の全数検査,チェックシート活用,ユビキタス端末利用などを徹底。「マンションを買ったお客様が満足できる品質を確保する。そのためにもあらゆる事柄を記録管理しておくことが大原則です。安全・安心・環境に配慮したこの現場を地方都市部の大規模住宅プロジェクトの施工現場標準版として育てたいと思っています」と現場の運営方針を語る。
PC化による合理化施工では,全社的な取組みとして本社,技術研究所はもちろん他支店の工事現場(「特集 ECOsite2 合理化」に関連記事掲載)の協力も得ながら現場を指揮している。
完成すると,氷川参道エリアに拡がりと落ち着きのあるコミュニティが誕生する。
![]() |
近くには小学校があり,登校時の誘導について,現場の社員・作業員が協力している。碇大平さんは「毎日行うことで地域の皆さんとの接点が生まれます」と,児童の安全な登校を見送っている。
工務全般を指揮する馬本宣典副所長は,「ご近所の皆さんのご理解があってこその大規模現場。通学時の誘導補助活動を続ける中で,一昨年末に餅つき大会と落語会を近隣の方々に声かけして開催し,好評につき昨年も行いました」。落語会には立川志の輔門下の噺家が登場。馬本副所長がかつて温泉旅館新築の柿落しで企画したアイデアとご縁が活かされた。
![]() |
![]() |
![]() |
工事で発生する産業廃棄物の資源化は現場の最重要課題。入社4年目の岡村さんは,これまでの現場でもゼロエミッションを任されてきたエキスパートだ。「廃棄物の分別は職長さんたちへの意識付けが肝心。はじめは抵抗のある十数種の“分ける”行為を根気強く,一緒になって分別し指導しています」という。
現場の初動期には職長会による産廃中間処理場の見学会を実施して,ゼロエミ活動の結果がどう反映されるのかを体験してもらった。毎週1回の一斉清掃では,現場内から掃き集められた細かいゴミを丁寧に全員で分別。昨年11月からは“産廃検収員”制をスタートし,分別指導や廃棄状況のチェックなどを作業員に手伝ってもらっている。さらに2ヵ月に一度,安全大会でゼロエミに積極的な作業員を環境表彰して,モチベーション向上を図っている。
「作業員に過度の負担をかけずに,十分理解してもらい自発的に分別するようになりました」と,着実にいい環境を作り上げている。
![]() |
![]() |
![]() |