特集:エコサイト――CO2削減施工の最前線

ECOsite 2 合理化 東五反田二丁目第2地区第一種市街地再開発事業施設建築物新築工事(超高層住宅棟)

仕事の効率が上がれば,作業に要する時間は少なくなり,エネルギー消費量も削減できる――。
作業員,重機,資材が錯綜する建設現場。
施工法の工夫,動線や工程を整理することで,作業はスリム化する。
合理化施工をCO2削減へ結びつける取組みもはじまっている。

【工事概要】
場所:東京都品川区/発注者:東五反田二丁目第2地区市街地再開発組合/プロジェクトマネジメント:三井不動産,三井不動産レジデンシャル/設計者:日本設計/規模: RC造 B2,44F 736戸 延べ93,918m2(そのほか同再開発事業で高層業務棟,中層住宅棟,地域貢献施設の総延べ29,810m2)/工期:2007年6月〜2010年6月/東京建築支店JV施工

仕事の効率化とCO2削減

モニタ朝礼。作業員は8時に作業を開始できるよう6:30〜8:00の放映時間内にモニタ確認し,個別朝礼の実施後,それぞれの持ち場へつく

JR山手線の大崎,五反田の両駅から徒歩6分。品川区の再開発エリアに建つ超高層マンション「パークタワーグランスカイ」が,6月末に竣工する。徹底した合理化施工で,工事を2ヵ月,検査期間を1ヵ月短縮した。

ここでは合理化の主眼をコスト削減にとどめず,CO2削減にも結びつけた。プロジェクトマネジメントと販売を担当する,三井不動産レジデンシャルの要望に応えるかたちのチャレンジでもあった。

超高層型の朝礼

そのひとつが,建設現場に必須である朝礼の見直し。ここでは日々の伝達事項を,作業員の詰め所に設置された大型モニタで繰り返し放映し,各自で映像を確認するシステムを構築した。

最大のメリットは,作業員に情報を正確に届けられることだ。1,000人もの作業員が働くような大規模工事の朝礼では,全員に声が届きにくく,後方からは掲示も見えにくい。超高層の現場では,朝礼終了後の一斉移動によるエレベータ前の渋滞などで,作業開始までに30分以上かかることもある。早朝や夜間に作業ができない住宅街などでは貴重な時間だ。

このシステムはすべての工事に適合するわけではないが,すでにいくつかのビル建設現場で導入されている。

建設ロジスティックの導入

場内運搬の専従業者が作業場所まで資材を運ぶ。内装・設備の技能者は専門作業のみを行うことで,揚重・運搬が効率化した

“生産性向上の徹底によるCO2削減”を掲げるこの現場では,施工法から工程管理,作業員の通勤方法まで,さまざまな側面から合理化を追求した。
  そのひとつが,資材の搬送の効率化を図る「建設ロジスティック」の導入である。まず躯体工事では,2層分の柱・梁をユニット化し,搬入車両やクレーンによる揚重回数を削減した。
  また,内装や設備工事は,一般に工種別の業者ごとに搬入・工事を行うが,ここでは場内運搬の専従業者を配置し,作業場所まで資材を搬送。内装・設備業者は専門作業のみを行う。こうした分業化によって揚重・運搬の効率を図り,工事用電力が低減した。
  建設ロジスティックによる効果は,この現場で独自に設定した従来施工と比べると,2割のCO2削減が認められた。
  さらに,タクト工程における各作業が工場のラインのように実施され,工期の安定と作業の平準化をもたらした。その結果,作業員が固定化し,通勤車で運んでいた工具類は現場に常置できるようになり,作業員の電車通勤が可能となった。このモーダルシフトによって大幅なCO2削減効果がみられたという。

2層柱2連梁。部材の大型化によって揚重・運搬の回数を削減 壁パネル工法。部材のユニット化で現場からの廃棄物も低減

データを取る文化

建設工事におけるCO2削減の数値は,“作業のサンプル”の計算にとどまることが多い。「ここでは建築管理本部,技術研究所,東京建築支店の協力のもと,合理化前後の実際の作業量を算出し,CO2削減量に換算しました」と当JV事務所の高濱裕達次長は話す。
  「施工の合理化もCO2削減も,定量的に評価しなければ効果は測れない。1坪あたりに要する総人数を指標に労務量を算定しました。佐藤雄二所長が10年かけて築いた“データを取る文化”とCO2削減が,この現場で結びついたのです」

プロジェクトの成否を左右する総合図

総合図会議。かつてサブコン参加で十数人規模だったが,事業者,設計者と当社に絞られた

合理化の徹底は,図面の作成方法も変えた。「総合図」は通常,建築平面詳細図に設備のサブコン各社がユーティリティを描き,更新していく。数社の回覧・修正は時間がかかり,その間の設計変更による混乱や作図ミスの要因にもなっていた。ここでは,当社が調整・作図を一元化して行った。

「お客様は総合図を見て,事業判断をします。当社が情報を一元管理すれば,お客様や設計者との打合せで早期にニーズを取り入れ,タイムリーに反映・調整できます。打合せもコンパクトになり,関係人員も削減できます。その結果,手戻りがなくなり,工程が安定するのです」。設備担当の水井寛次長は,総合図を “お客様のニーズのかたまり”ととらえる。

CO2削減施工という市場価値

竣工の3ヵ月前,棟内にモデルルームがオープンした。このような対応ができたのも,合理化の一環である。

多大な時間がかかる住戸内の施主完了検査を,お客様の協力のもと,本設の電気・ガス・水の供給を前倒しすることで,工事中に完了。40日見込んでいた736住戸の検査期間が,共用部分の3日のみとなり,検査関係人員の大幅な削減をもたらした。

このような“生産性向上の徹底によるCO2削減”の取組みの結果は,エンドユーザーにも情報発信されている。「お客様は『コンストラクションリポート』を発行し,“住まいのすばらしさ”としてPRされています。施工での環境対策が,市場での付加価値になるのです」(高濱次長)。

建設工事における生産性向上の追求が,CO2削減効果というかたちで社会に評価される時代が訪れた。

生産性向上をめざした取組みによるCO2削減効果
竣工が近づくパークタワーグランスカイと当JV事務所の高濱裕達次長(左)と水井寛次長。「合理化の手段はプロジェクトの特徴によって異なります。大切なのは在来の手法にとらわれず理念を持ち,さまざまなアイデアを実現していくことです」