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JR山手線の大崎,五反田の両駅から徒歩6分。品川区の再開発エリアに建つ超高層マンション「パークタワーグランスカイ」が,6月末に竣工する。徹底した合理化施工で,工事を2ヵ月,検査期間を1ヵ月短縮した。
ここでは合理化の主眼をコスト削減にとどめず,CO2削減にも結びつけた。プロジェクトマネジメントと販売を担当する,三井不動産レジデンシャルの要望に応えるかたちのチャレンジでもあった。
そのひとつが,建設現場に必須である朝礼の見直し。ここでは日々の伝達事項を,作業員の詰め所に設置された大型モニタで繰り返し放映し,各自で映像を確認するシステムを構築した。
最大のメリットは,作業員に情報を正確に届けられることだ。1,000人もの作業員が働くような大規模工事の朝礼では,全員に声が届きにくく,後方からは掲示も見えにくい。超高層の現場では,朝礼終了後の一斉移動によるエレベータ前の渋滞などで,作業開始までに30分以上かかることもある。早朝や夜間に作業ができない住宅街などでは貴重な時間だ。
このシステムはすべての工事に適合するわけではないが,すでにいくつかのビル建設現場で導入されている。
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“生産性向上の徹底によるCO2削減”を掲げるこの現場では,施工法から工程管理,作業員の通勤方法まで,さまざまな側面から合理化を追求した。
そのひとつが,資材の搬送の効率化を図る「建設ロジスティック」の導入である。まず躯体工事では,2層分の柱・梁をユニット化し,搬入車両やクレーンによる揚重回数を削減した。
また,内装や設備工事は,一般に工種別の業者ごとに搬入・工事を行うが,ここでは場内運搬の専従業者を配置し,作業場所まで資材を搬送。内装・設備業者は専門作業のみを行う。こうした分業化によって揚重・運搬の効率を図り,工事用電力が低減した。
建設ロジスティックによる効果は,この現場で独自に設定した従来施工と比べると,2割のCO2削減が認められた。
さらに,タクト工程における各作業が工場のラインのように実施され,工期の安定と作業の平準化をもたらした。その結果,作業員が固定化し,通勤車で運んでいた工具類は現場に常置できるようになり,作業員の電車通勤が可能となった。このモーダルシフトによって大幅なCO2削減効果がみられたという。
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建設工事におけるCO2削減の数値は,“作業のサンプル”の計算にとどまることが多い。「ここでは建築管理本部,技術研究所,東京建築支店の協力のもと,合理化前後の実際の作業量を算出し,CO2削減量に換算しました」と当JV事務所の高濱裕達次長は話す。
「施工の合理化もCO2削減も,定量的に評価しなければ効果は測れない。1坪あたりに要する総人数を指標に労務量を算定しました。佐藤雄二所長が10年かけて築いた“データを取る文化”とCO2削減が,この現場で結びついたのです」
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合理化の徹底は,図面の作成方法も変えた。「総合図」は通常,建築平面詳細図に設備のサブコン各社がユーティリティを描き,更新していく。数社の回覧・修正は時間がかかり,その間の設計変更による混乱や作図ミスの要因にもなっていた。ここでは,当社が調整・作図を一元化して行った。
「お客様は総合図を見て,事業判断をします。当社が情報を一元管理すれば,お客様や設計者との打合せで早期にニーズを取り入れ,タイムリーに反映・調整できます。打合せもコンパクトになり,関係人員も削減できます。その結果,手戻りがなくなり,工程が安定するのです」。設備担当の水井寛次長は,総合図を “お客様のニーズのかたまり”ととらえる。
竣工の3ヵ月前,棟内にモデルルームがオープンした。このような対応ができたのも,合理化の一環である。
多大な時間がかかる住戸内の施主完了検査を,お客様の協力のもと,本設の電気・ガス・水の供給を前倒しすることで,工事中に完了。40日見込んでいた736住戸の検査期間が,共用部分の3日のみとなり,検査関係人員の大幅な削減をもたらした。
このような“生産性向上の徹底によるCO2削減”の取組みの結果は,エンドユーザーにも情報発信されている。「お客様は『コンストラクションリポート』を発行し,“住まいのすばらしさ”としてPRされています。施工での環境対策が,市場での付加価値になるのです」(高濱次長)。
建設工事における生産性向上の追求が,CO2削減効果というかたちで社会に評価される時代が訪れた。
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