特集:鹿島ブランドを考える・・・第2回

1.ブランド評価技術と建設業のブランド

ブランド価値を定量的に評価する
 ブランドが企業の重要な「資産」であると認識され始めたのが1980年代の後半である。以来,ブランドは経営の主要テーマとして位置付けられるようになり,企業は自社の確固たるブランドを構築することに注力を注いでいる。企業ブランドはもはや企業イメージの範疇を大きく超え,「無形資産」として認知されるようになってきた。しかし,ブランドはこれまでその価値の測定が不可能に近かった。定量的に評価する術がなかったのである。
 企業ブランド研究の第一人者である一橋大学・伊藤邦雄教授は,昨年,企業ブランドを定量的に評価する手法を開発した。ブランドが顧客や従業員,株主に与える影響力を数値化し,更に,ブランドにより生み出される将来のキャッシュフローを現在価値に換算する方法である。また,伊藤教授は日本経済新聞社と協力して企業ブランドの総合力といえる2000年度のCB(コーポレート・ブランド)価値のランキングも同時に発表した。第1位はNTTドコモ,以下ソニー,セブン-イレブン・ジャパン,トヨタ自動車と続く。革新的なサービス,商品を提供し,優れたビジネスモデルの構築に成功している企業が上位に並んでいる。上位200社のなかに,建設業は1社も入っていない。
 企業のブランド価値を算出するに当たっては,当該ブランドが主たるステークホルダーである顧客,従業員,株主にとってどのようなイメージを想起させ,それが財務的な成果にどれほど結びついているかを数値化することがポイントである。数値化にあたっては財務データ,企業イメージ調査,働き甲斐・ゆとり調査や,アナリスト,有識者への質問なども加味されている。株式時価総額からバランスシート上の有形資産を差し引いた無形価値を軸にコーポレート・ブランド価値を推定している。
 このように,ブランド価値を定量的に評価できるようになると,今後は,売上高や経常利益と同じように「ブランド価値」を数値目標として設定したり,「ブランド価値」を資産としてバランスシート(賃借対照表)に計上することが,遠くない将来現実となるかもしれない。

建設業のブランドの特殊性
 建設業の顧客のほとんどは,官庁や自治体,企業,法人である。すなわちBtoBビジネスが主体であるため,消費者を顧客に持つ企業に比べて,社会や一般消費者に対するアピールをややなおざりにしてきた。言葉を換えれば発注者である企業や法人に対してのみ技術的な優位性や品質の高さをアピールしていればよかったのである。「鹿島ブランド」は“建設業の中では”存在していたかもしれない。しかし,これからは鹿島という企業が社会に対して何を提供できるのかを広くアピールできなければ,すなわち「鹿島ブランド」を広く社会に浸透させなければ,この厳しい競争淘汰の時代に生き残っていけないのではないだろうか。
 当社はこれまで160年余りの歴史の中で先見性のあるカリスマ的な経営者のもと,「人材」という価値ある無形資産によって,高い技術力と顧客に信頼される品質を生み出してきた。そこに「顧客からの信頼」という鹿島ブランドを築いてきた。しかし,現在,生産供給力の過剰化とコンピュータ技術の進歩により技術の平準化が一層進んでいる。果たして「鹿島ブランド」と呼べる付加価値は社会や市場において存在しているのだろうか。

鹿島ブランドは存在するのか?
 先に述べたように,ブランドの定量的評価手法が登場する一方,数値に換算できない,ステークホルダーの心の中に存在するブランドも,また確実に存在している。ブランドとは,その企業のファンがどれだけいるかという部分であるからだ。ここでいうステークホルダーとは顧客だけではない。従業員も重要なステークホルダーである。企業のブランドを創造し,顧客や社会にブランド価値を提供するのは,まさに我々社員であるからだ。社員が自社に誇りと愛着心を持ち,その企業のビジョンを理解して業務を推進することなくして,確固たるブランドなど築けるはずがない。社員が自社のブランドを信じ,それを磨く意志を持てばロイヤリティも高まる。
 第1回で,強いブランドを持つ企業に共通することは「一貫したフィロソフィーを持ち,それを実行するための強い意志と高度なテクノロジーを進化させている」点だと述べた。今の鹿島に一貫したフィロソフィーはあるのだろうか。社員は鹿島の進むべき方向性とビジョンを共有し,一体となって進んでいるだろうか。今の鹿島に果たして「鹿島ブランド」はあるのだろうか?
 次ページでは,「鹿島社員が考える鹿島ブランド」を展開していこう。

CBスコアのマトリックス(プレミアム・認知・忠誠指標)
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コーポレート・ブランド価値ツリー
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コーポレート・ブランド価値は,どれだけ多くの顧客,従業員,株主を長期間にわたってひきつけられるかを示す「CBスコア」,そのブランドがブランド価値をキャッシュフローに転換させる能力を示す「CB活用力」,事業を通じてキャッシュフローを生む機会を示す「CB活用機会」の三要素で構成される

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー3月号
伊藤邦雄「コーポレート・ブランドの評価と戦略モデル」より




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