特集:鹿島がつくる海外インフラ

Chapter1:ODAと結びついた当社の海外事業
開通したスエズ運河橋

世紀のプロジェクトの完成
 今年9月に米国本土を襲った同時多発テロを契機に,同国によるアフガニスタンへの報復行動が始まった―。その翌月の10月9日,戦火が上がる中東からアフリカへと通じるスエズ運河橋が開通した。
 この橋は,地中海と紅海を結ぶ全長160kmのエジプト・スエズ運河を跨ぐ唯一の橋である。大型船舶が航行できるよう,橋桁の高さは水面から70mと世界一。橋の両起点間の長さは約4.1kmにも及ぶ。総工費の60%が日本政府による無償援助(Official Development Aid=ODA)によって賄われ,当社はNKK,新日本製鐵とともに橋の中央部約1.9kmの建設に携わった。
 この橋の建設では,日本では珍しいスリップフォーム工法を用いるなど,先端の建設テクノロジーが投入された。約3年半に及ぶ工事の最盛期には,約1,000名のエジプト人作業員が働き,ドイツ人,オーストリア人などの専門技術者,これらを指揮する多くの日本人スタッフが従事した。
 1967年の第三次中東戦争などで破壊された橋が,34年振りに開通したことで,アジアとアフリカ北部を結ぶ重要な交易路が復活しただけでなく,「平和のかけ橋」となることが期待されている。

海外インフラ工事の特殊性
 21世紀を迎えた今日においても,多くの国で道路や橋といった社会資本の整備が遅れ,満足の行く社会生活や経済活動が行えないでいる。これらの途上国に対して,日本政府は,ODAの枠組みの中で,各分野における技術協力やプロジェクトへの資金援助を実施している。当社は,このODAによる工事を数多く受注し,途上国でのインフラ整備を行っている。
 これらの国々での工事となると,先進諸国では考えられないような問題点にあたる。そもそも社会資本が整備されていない途上国では,自然環境も厳しく,工事をするのに必要な建設資材や機材などが,なかなか手に入らない場合が多い。また必要な技術力を持ち信頼のおける専門業者や,作業員も確保しなければならない。さらに赴任する社員の危機管理など,様々なリスクに対する備えも必要である。
 当社はこうした様々な問題を克服し,施工方法や工期,品質などの諸条件の違いに的確に対応,現地のニーズに応えた構造物を提供してきている。次頁以降,途上国での海外工事を進める際に重要な要素となる,「資機材の調達」「現場体制」「危機管理」に焦点を絞り,これらについての取組みを紹介する。

当社の海外事業の体制  
 
 当社の海外事業が好調である。2000年度の連結決算で,海外現地法人によるものを含め,売上高が業界一位,純利益では,当社の過去最高を達成した。
 当社は,今年3月に発表した新経営計画「新生3ヵ年計画」の中でも,海外事業の重点的展開を事業戦略上の柱の一つとして掲げている。
 業態が多岐にわたる当社の海外事業の中で,土木事業は海外事業本部による直轄事業となっている。これは,発展途上国における日本国政府のODA関係の工事が多く,工事の場所,種類,規模が様々であるため,同本部が直接管轄している。一方,ODA以外の建築事業や開発事業は,アジア,アメリカ,ヨーロッパの地域毎に置いた拠点(現地法人)を通じて事業を行っている。
 現在,土木事業は,世界11営業所及び17工事事務所で事業展開し,アジア・アフリカ地域に集中している。施工中のプロジェクトの内訳は,ダム2件,橋梁4件,道路3件,空港1件,鉄道施設2件,港湾施設3件,環境施設1件,原子力発電所 関連施設1件となっている。
 人員構成は,海外事業本部約100名の内,直轄事業に携わっている社員は半数にのぼる。
当社の海外事業の体制
※現地法人は,主にアメリカでのKAJIMA USA(KUSA),ヨーロッパでのKAJIMA Europe(KE),アジアでのKAJIMA Overseas Asia(KOA)とその他の現地法人に大別される。


|Chapter1 ODAと結びついた当社の海外事業
Chapter2 周辺諸国も検討資機材の調達
Chapter3 国や地域の実情に即した現場体制声