特集:関東大震災を知る

study0 未解明だった「揺れ」の実態 

最大の被害と記録の混乱
 「九月一日の地震とはむろん比較にはならぬ。あの時は連続的に強いのが三回ばかり襲うて来た」(大阪朝日新聞1924年1月16日)。
 関東地震の翌年に神奈川県の丹沢山地で発生した大規模な余震の際に,中央気象台の中村左衛門太郎が新聞に寄せたコメントの一部だ。このほかにも関東地震で東京が立て続けに3回揺れたとする体験談は多いが,今日では意外と一般に知られていない。
 地震,火山,津波,台風──複雑な地形のうえに形成される災害列島・日本は,つねに自然の脅威と隣り合わせにあった。そのなかでも1923(大正12)年の関東地震は,史上最大の被害を出し,関東大震災という呼称で広く知られている。
 その被害記録は,公刊された出版物もふくめて膨大な数にのぼる。ところが,被害形態の複雑さなどが原因となって記録が混乱し,関東地震の揺れの実態は,近年に至るまで正確には解析されていなかったのである。
 たとえば,「ほとんどすべての地震計の針が振り切れていて,解析に耐えうる記録がない」という通説は地震の大きさを物語るエピソードであり,専門家の間でさえもまことしやかに語られてきたという。しかし,実際に資料や記録を当たってみると,少なくとも関東地震の揺れの記録の調査全国5〜6ヵ所の測候所では,地震計の針が振り切れずに揺れを完全に記録していることが判明した。また,針が振り切れた地震計の記録でも,揺れの解析に耐えうるものもあった。
 地震の実態を知り,揺れの強さを正確に再現することは,将来の地震に対する防災対策を考えるうえで,きわめて重要になる。当社・小堀研究室では,膨大な被害記録を収集・整理し,被害の実数を再評価することで,南関東一円の被害状況と震度分布を明らかにした。その成果の一部が前ページの図である。
 そして,市町村単位の被害の集計,関連省庁などの報告書や震災誌をはじめ,各地の郷土資料などを相互比較し,今後の地震動の強さの検討に役立つ均質なデータベースを作成した。
 本特集では,これまでの調査で明らかになった関東地震の実態として,被害状況,揺れの実状,建物被害の側面から紹介したい。
関東地震の揺れの記録の調査



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