本設計法では、ひび割れ発生のメカニズムをモデル化することが前提となりました。収縮ひび割れは、乾燥や温度変化による収縮を妨げる要因、例えば、床スラブであれば、梁による拘束で発生する収縮応力がひび割れ強度を超えるために発生するとされています。しかし、実際の収縮ひび割れのメカニズムは複雑で、ひび割れ発生予測が精度よくなされているとは、言いがたいのが現状でした。
そこで、当社では、各種条件下におけるひび割れ発生の推進力である「収縮応力」を解析により算定し、また、ひび割れ抵抗力であるコンクリートの「ひび割れ強度」を圧縮試験結果から算定。両者の数字から「ひび割れ係数」を算定し、ひび割れの起こりやすさの指標「ひび割れ発生確率」を出します。
この「ひび割れ発生確率」は、天気予報の「降水確率」のようなもので、0〜5%では、ひび割れは発生する心配はほとんどなく、30%以上の高確率になると、ひび割れ発生の懸念が大きくなります。
さらに、本設計法では、ひび割れ発生確率を許容値以下に抑えるために、コンクリート材料や施工法、構造形式の変更による対策が提案され、その対策に関する費用対効果を算定することができます。
 ひび割れ発生確率とひび割れ発生の関係
|
ひび割れ係数とひび割れ発生確率の関係
|
本設計法では、図-Tに示すように、(1)コンクリートの調合・材料、(2)目地配置、(3)部材厚、(4)鉄筋量、(5)打設工区、(6)環境温度、(7)養生期間等を入力項目とし、収縮応力とひび割れ強度を解析し、ひび割れ発生確率を算定します。ひび割れの発生が予測される場合には、入力項目を再設定して、その効果を確認しながら対策を決定することができます。
本設計法の中核となる設計用解析ツールは、表計算ソフト上で作動する簡易なもので、設計や施工担当技術者が容易に扱うことのできる仕様となっており、通常の建物であれば、半日程度の時間で解析を完了することができます。
また、この解析法では、ひび割れの発生確率のみを推定しますが、非線形有限要素法による精密法では、さらにひび割れの位置と幅が評価できます。このシミュレーション手法は弾塑性FEMと呼ばれる先端解析方法を用いたもので、ひび割れ位置、ひび割れ時期、及びひび割れ幅まで詳細に予測できるものです。ただし、この精密法による設計はまだ適用例がなく、現状では部材レベルでの精度検証に止まっています。