[2005/7/27]


コンクリート構造物のひび割れ発生リスクを定量的に評価できる設計法を開発

実構造物に適用して効果を実証


背景本設計法の概要本設計法の適用事例開発者からのひとこと
今後の展望

 鹿島(社長;中村満義)は、鉄筋コンクリート構造の床スラブに対して、耐久性上大きな問題となる収縮ひび割れの発生リスクを解析により予測し、適切な対策によって制御を可能とするひび割れ制御設計法(SCRAD*;スクラッド)を開発。このほど物流施設に適用し、その精度と実用性を確認しました。
 ひび割れは、構造部材に発生する収縮しようとする力「収縮応力」が、これに抵抗しようとする部材の持つ「ひび割れ強度」を上回ることにより発生します。本設計法では、新たに開発した解析手法により、この「収縮応力」と「ひび割れ強度」を予測し、ひび割れ発生のリスク(ひび割れ発生確率)を定量的に評価することができます。この設計法により、これまで経験的に行われてきた材料及び施工に関するひび割れ対策について、その効果を数値で評価することが初めて可能になりました。
 今後、鹿島では、建築物の高耐久性化に対する社会ニーズを満足するための重要な要素技術として本設計法を積極的に採用していく方針です。
*SCRAD Shrinkage Cracking Risk Analysis Design

背景



 コンクリートは、時間を経て乾燥することや、日射・外気温の変動の影響によって収縮する性質があります。そのため、コンクリート構造物にとって、ひび割れはある種避けられない宿命と言えます。近年、住宅の品質確保の促進等に関する法律の施行やインフラストック重視による建築物の高耐久性化への要求から、鉄筋コンクリート構造の躯体コンクリートに発生するひび割れへの社会的な関心が高まっています。コンクリートのひび割れは、鉄筋腐食の大きな誘発要因となり鉄筋コンクリート構造物の耐久性を損なう恐れがあることから、ひび割れを定量的に制御する技術への需要は極めて高いといえます。
 これまでのひび割れ対策は、例えば、コンクリートにある間隔で誘発目地を設けて、そこに意図的にひび割れを集中させ、それ以外のひび割れは、耐久性と機能性の面から有害とされる幅(0.3mm)以下に抑制することで対処してきました。しかし、施設の多様化や要求性能の高度化により、ひび割れをどうしても発生させたくない、または、従来技術だけでは対応できない例が増加しています。例えば、
  1. クリーンルームや有害物処理施設など、気密性や水密性が特別に要求される場合
  2. 長期にわたる供用期間の設定や過酷環境下での供用により、要求される耐久性が非常に高い場合
  3. フォークリフト車輪の衝撃など過酷な荷重条件によって、ひび割れ部の欠け等が生じ、損傷が広がる懸念がある場合 などです。
 従来のひび割れ対策は、経験的な予測から対策を施すのみで、ひび割れ発生を物理的に予測する解析法はありませんでした。これはひび割れを起こす収縮応力を定量的に評価することができなかったためです。このほど当社では、この収縮応力を評価する一般式を定式化し、さらにひび割れの発生を定量的に評価できる合理的な対策法「ひび割れ制御設計法」を開発しました。本設計法は、ひび割れ発生抑制の要求性能の高い構造物へ適用することで、定量的に発生確率を算定し、その対策法を提案できるものです。

本設計法の概要



 本設計法では、ひび割れ発生のメカニズムをモデル化することが前提となりました。収縮ひび割れは、乾燥や温度変化による収縮を妨げる要因、例えば、床スラブであれば、梁による拘束で発生する収縮応力がひび割れ強度を超えるために発生するとされています。しかし、実際の収縮ひび割れのメカニズムは複雑で、ひび割れ発生予測が精度よくなされているとは、言いがたいのが現状でした。

 
収縮ひび割れ発生のメカニズム

 そこで、当社では、各種条件下におけるひび割れ発生の推進力である「収縮応力」を解析により算定し、また、ひび割れ抵抗力であるコンクリートの「ひび割れ強度」を圧縮試験結果から算定。両者の数字から「ひび割れ係数」を算定し、ひび割れの起こりやすさの指標「ひび割れ発生確率」を出します。
 この「ひび割れ発生確率」は、天気予報の「降水確率」のようなもので、0〜5%では、ひび割れは発生する心配はほとんどなく、30%以上の高確率になると、ひび割れ発生の懸念が大きくなります。
 さらに、本設計法では、ひび割れ発生確率を許容値以下に抑えるために、コンクリート材料や施工法、構造形式の変更による対策が提案され、その対策に関する費用対効果を算定することができます。

 

ひび割れ発生率

ひび割れ発生確率とひび割れ発生の関係

ひび割れ係数とひび割れ発生確率の関係

ひび割れ係数とひび割れ発生確率の関係

 本設計法では、図-Tに示すように、(1)コンクリートの調合・材料、(2)目地配置、(3)部材厚、(4)鉄筋量、(5)打設工区、(6)環境温度、(7)養生期間等を入力項目とし、収縮応力とひび割れ強度を解析し、ひび割れ発生確率を算定します。ひび割れの発生が予測される場合には、入力項目を再設定して、その効果を確認しながら対策を決定することができます。
 本設計法の中核となる設計用解析ツールは、表計算ソフト上で作動する簡易なもので、設計や施工担当技術者が容易に扱うことのできる仕様となっており、通常の建物であれば、半日程度の時間で解析を完了することができます。
 また、この解析法では、ひび割れの発生確率のみを推定しますが、非線形有限要素法による精密法では、さらにひび割れの位置と幅が評価できます。このシミュレーション手法は弾塑性FEMと呼ばれる先端解析方法を用いたもので、ひび割れ位置、ひび割れ時期、及びひび割れ幅まで詳細に予測できるものです。ただし、この精密法による設計はまだ適用例がなく、現状では部材レベルでの精度検証に止まっています。

 
設計の全体フロー
図-1 設計の全体フロー

 

シミュレーション手法の精度検証
壁部材によるひび割れシミュレーション手法の精度検証

 
実験と解析の比較
中央位置のひび割れ幅に関する実験と解析の比較

本設計法の適用事例

 

 別添資料参照

開発者からのひとこと

 

 ひび割れ制御はコンクリート技術者にとって永遠の課題です。今回の開発を通して、この課題の解決に大きく近づくことができました。今後、設計法の精度の向上を図り、より美しく品質の高い建築物を低コストでご提供できるよう努力する所存です。


今後の展望


 今後当社では、長期の耐久性が要求される床スラブや、汚染源に対して高度な気密性が要求されるクリーンルームの床スラブなどを中心として、本設計法の積極的な適用を図り、鉄筋コンクリート構造物の品質と信頼性の向上を目指していくこととしています。
 また、本設計法の適用範囲を今後外壁へ拡張することが期待されますが、これにより、これまでひび割れによる影響が大きく適用が難しかった仕上げ材の適用が可能になる他、条件によってはひび割れ誘発目地を設置しなくても済むなど、鉄筋コンクリート構造物の外装の自由度を飛躍的に高める効果も期待されています。
 当社では2003年9月にひび割れの発生を抑制する「ひび割れ低減コンクリート」を開発しており、本設計法と併せ積極的に提案していくことで、高品質な鉄筋コンクリート構造物の提供に貢献していく方針です。


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