[2007/08/31]

世界初、長周期地震に対応した
エレベータ地震時管制運転システムを開発

  • 世界初の長周期地震時管制運転を実施
  • ロープの揺れをリアルタイムに解析
  • 当社の保有する制震技術を活用

 鹿島(社長:中村満義)は、超高層ビルで発生している長周期地震によるエレベータロープの引っ掛かり事故によるエレベータの停止を未然に防ぐ、リアルタイム制御を利用したエレベータ地震時管制運転システムを開発しました。
 これは、建物内に設置した地震計で、長周期地震の発生時に入力加速度を計測し、エレベータロープの揺れをリアルタイムに解析して正確に推測し、ロープの揺れが過大な場合にはロープの揺れが一定以下に収まるまでエレベータの運転停止を継続するシステムです。
 当社では先月竣工した新本社ビルをはじめ、既に4件の当社設計・施工の高層建物に本システムを導入しています。

長周期地震対応 エレベータ地震時管制システム概念図
図-1 長周期地震対応 エレベータ地震時管制システム概念図

開発の背景

 ここ数年のエレベータに関する事故のほとんどは、地震による揺れは小さいものの、ゆっくりした揺れが長時間継続する長周期地震動により、もともとゆっくりした揺れに対して比較的揺れやすい超高層ビルのエレベータロープが共振し、大きく揺れて損傷することが原因です。現行のエレベータに備わる地震時管制運転装置により、地震時には一旦、エレベータが停止します。ただ、その停止時間は1分程度と限られており、長周期地震動により揺られたロープは、その後もさらに揺れ続ける場合があります。そこでエレベータの運転が再開された場合には、ロープが激しく揺れている最中にエレベータが動くことになり、エレベータロープが昇降路内の突出物に引っ掛かる可能性が高まり、破断等の損傷を受ける恐れがあります。

十勝沖地震での建物とロープ揺れ解析例 十勝沖地震(2003年9月)では札幌市内の超高層建物において多くのエレベータの事故が発生。この折に近辺で観測された地震波を使って札幌市内の40階建ての建物とエレベータロープの変位を解析した結果、地震検知で一旦停止したエレベータが通常運転に復帰する60秒後においてもロープは1m以上の揺れ幅となっていることが判明。
図-2 十勝沖地震での建物とロープ揺れ解析例

 一般的に行なわれている地震時管制運転では、長周期地震動のような、入力加速度が小さく、建物の応答加速度も小さい地震においては、エレベータに影響を及ぼす地震とは感知できずにエレベータを停止できません。しかし、長周期地震動によって建物が共振して揺れだすと、その揺れに共振したロープの揺れが次第に大きくなっていきます。また、このロープの揺れは建物の揺れによって引き起こされているため、これを知るためには、建物の揺れを知ることも必要です。当社では、超高層建物の地震動解析技術を有しており、また、この解析をリアルタイムで行なうための技術として世界でも当社だけが有するアクティブ制震で培われたリアルタイム制御技術を応用することが出来たため、本システムを開発し、実用化することに至ったものです。

システムの概要

 当社では2003年から地震時における建物とエレベータロープの変位に関する調査と解析を続け、長周期地震時におけるエレベータロープの揺れをリアルタイムで正確に推測する手法を開発し、エレベータの運行を制御するシステムをこの度開発しました。
 このシステムでは、まず、建物に設置した地震計により地震時の入力加速度を計測します。次に、予め入力しておいた建物固有の構造解析基礎データ、及びエレベータロープの振動データをもとに、リアルタイムにエレベータロープの振動解析を行います。解析の結果、ロープの揺れ幅が過大な場合には現行のエレベータ地震時管制に移行させエレベータの運転を休止し、ロープの揺れが安全値以内に収束した後に運転を復旧させるものです。

長周期地震対応エレベータ地震時管制運転フロー
図-3 長周期地震対応エレベータ地震時管制運転フロー

 他社では振り子式揺れ検知器やスペクトル解析を利用して長周期地震動を検知し、エレベータ等の制御に利用しているシステムもありますが、建物に設置された地震計からの入力加速度の計測値を基に、リアルタイムでロープ振動解析を行い、制御する方法は世界初のシステムです。
 なお、本システムはエレベータメーカーの制御とは別系統のシステムであるため、複数の異なるメーカーのエレベータにも適用できます。また既存建物についても、建物やロープの基礎データが取得でき、現行の地震時管制運転システムが導入されているエレベータであれば、適用することが可能です。

今後の展望

 本システムに加えて、10月から実施される緊急地震速報や、当社が開発したRDMS
(リアルタイム防災システム)を組み合わせることにより、地震後の建物の機能回復を適切に行なうことが可能となります。
 鹿島は本システムを自社設計・施工の超高層ビルに採用していく他、当社が施工した既存の超高層ビルにも採用を薦める予定です。

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その後予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。