[2008/09/17]

地域生態系に配慮した都市インフラ計画技術

エコロジカルネットワーク評価技術を開発

 鹿島(社長:中村満義)は、地域の緑地を高度に分析し、その地域の生態系のネットワークを考慮した緑地計画を行うことができる「エコロジカルネットワーク評価技術」を、独立行政法人都市再生機構、財団法人都市緑化技術開発機構と共同で開発しました。本技術は、平成19年度土木学会賞環境賞を受賞しました。

鹿島の生物多様性への取組み

 2008年5月に神戸で開催されたG8環境大臣会合において「生物多様性のための行動の呼びかけ“Kobe Call for Action for Biodiversity”」が採択されるなど、生物多様性・生態系保全は温暖化と並び国際的な最重要課題となりつつあります。国内においても、奥山〜里山地域における生態系保全だけでなく、都市域における地域生態系への配慮にも関心が高まっており、自治体等でも地域環境改善や生物多様性保全に寄与することを目的とした様々な緑化促進政策が打ち出されています。
 建設業は自然環境に直接手を加えることになるため、生物多様性・生態系の保全に極めて重要な役割を担っています。鹿島は2005年度に業界で初めて「鹿島生態系保全行動指針」(HP参照)を策定するなど、生物多様性と建設業の共生に向けた活動に率先して取り組んでいます。今年5月にはドイツのボンで開かれた第9回生物多様性条約締結国会議(COP9)で「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」に署名、リーダーシップ宣言を行いました。これは、生物多様性に先進的に取り組んでいるドイツやスイス、ブラジルの企業34社が署名したもので、日本企業では鹿島を含め9社が署名しました。
 また、鹿島では施工現場において周辺環境への影響に配慮した工事を行うことはもちろん、生態系と建設事業の共生に向けた研究開発にも積極的に取り組んでいます。例えば、ビオトープや屋上・壁面緑化など様々な緑化技術、カニが棲める護岸の開発、アマモ場再生技術の開発、都市の温熱環境のシミュレーションなど多くの実績を積んできました。

エコロジカルネットワーク評価技術の開発

 今回開発した「エコロジカルネットワーク評価技術」は、都市域で広く生息可能であり一般市民にも認知度の高い鳥類・コゲラを指標として、緑地の現況や将来シナリオを評価することにより、地域生態系に配慮した都市開発を支援するものです。
 従来、広域エリアを検討するこのような手法は、経済的・時間的負担が大きく実施が困難でしたが、GISを活用することで限られた予算や期間内で効率的に実施することができます。
 また、コゲラの生息域という評価結果がビジュアルにわかりやすく表示されるため、専門的知識を有さない関係者にも、各種計画に関する理解促進が期待されます。

技術の概要

 本技術は、まずリモートセンシング技術を用いて、解像度の高い衛星データから把握した緑被データと、地表モデル(DSM)および地形モデル(DTM)の差から把握できる樹木の高さデータを重ね合わせて評価対象地域の緑地の状況を判読します。
 次に、都市域の生態系を示す環境指標種としてコゲラを選定し、地理情報システム(GIS)を活用し、コゲラの生息域への都市開発プロジェクトの影響をビジュアルな形で評価することで、新規道路や緑地の整備などプロジェクトの代替案の検討を行なっていきます。
 コゲラなどの鳥類の生息域を指標として緑地保全・創出の効果を提示することにより、これまで費用対効果の算出が難しかった都市緑地整備の効果を目で見て把握することが出来るようになりました。指標種の生息域がどのように変化するのかをシミュレーションすることは、環境に配慮した建設事業を具現化するために重要な判断材料になります。

作業の流れ

シナリオの表示例
シナリオの表示例 衛星データから作成した緑地データを元に
コゲラの営巣可能エリア等がビジュアルに表示される

 例えば、開発地域にどの程度の高さ、種類、規模の緑地を設ければ、コゲラの生息・活動範囲を広げることが出来るかなどのシナリオを条件に応じてシミュレーションすることができるため、地域生態系の保全に配慮した建物の配置検討や開発地の緑地計画、街路樹の選定などの提案を効果的に行うことができます。

 なお、コゲラは、生息の可能性、一般市民の認知度、モニタリングの容易性などから環境指標種として選定しました。コゲラは日本全国の多様な森林に生息しており、樹洞(営巣のための幹に掘る穴)を自らつくることなどから生態系のキーストーン種(重要種)として認識されています。

コゲラ

今後の展望

 本技術はすでに複数の都市開発プロジェクトに適用しています(たとえば、鹿島も参画した都市再生特区地区(神田駿河台三丁目9地区)提案においても適用)。今後、生物多様性・生態系保全に配慮した都市環境を再生・創出する技術として、都市再開発計画はもとより、道路などの土木プロジェクトにおいても積極的に展開していく方針です。

 

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