[2012/06/20]

「いきものを利用した都市域の緑地管理手法」が
平成23年度土木学会賞「環境賞」を受賞

 鹿島(社長:中村満義)は、ヤギやニワトリなどのいきものを利用し、環境負荷低減、在来植生維持やいきものとの触れ合いなどを実現する、都市域の緑地を対象とした維持管理手法を開発しました。本手法は、「いきものを利用した都市インフラの緑地管理手法の研究」として、平成23年度土木学会賞「環境賞」を受賞しています。

取り組みの背景

 当社は、2005年上場企業で初めて生物多様性のガイドライン[鹿島生物多様性行動指針 (2009年改名・改定)] を策定し、生物多様性に配慮した都市づくりの推進や環境教育など、建設事業を通した生物多様性の保全に取り組んでいます。特に都市域における建設事業では、生物多様性都市デザイン「いきものにぎわうまち」をコンセプトとして、ニホンミツバチプロジェクトやカニ護岸などを推進してきました。このような当社の積極的な取り組みに対し、2008年には「第18回地球環境大賞」環境大臣賞、2009年には「第1回生物多様性日本アワード」優秀賞、2010年にはグッドデザイン・フロンティアデザイン賞など数多くの賞を受賞しています。


いきものを利用した都市域の緑地管理手法

 今回、開発を行った「いきものを利用した都市域の緑地管理手法」は、従来、里山や奥山エリアで一部実施されていた、ヤギなどを利用した除草管理手法を都市域に展開したものです。

 都市域では、公園だけでなく集合住宅、業務ビル、工場、病院、学校など様々な施設に緑地が整備されており、適切な維持管理を行う必要があります。ところが、芝刈り機などの機械除草では、騒音や二酸化炭素、植物性廃棄物が発生します。また、予算や人手不足から十分な除草作業を実施できない緑地も少なくなく、繁殖力の旺盛な外来雑草が繁茂し、景観悪化や害虫・害獣の発生、防犯対策などの課題が生じています。加えて、外来種の繁茂によって在来種が抑制され、生物多様性が低下することで、いきものの生息環境としての質の低下も懸念されています。

 この課題を解決するため、東京都調布市の人口密集地に位置する当社社宅内部の緑地において、ヤギやニワトリを用いた継続的な除草試験を実施し、いきものを利用する緑地管理手法を開発しました。

 この手法により、(1)機械除草の際に発生していた騒音、二酸化炭素、植物性廃棄物をゼロにする環境負荷低減型の管理、(2)外来種の抑制と在来種の再生、(3)ヤギ乳などの自然の恵みの享受が可能となります。


                 トリプルゼロ イラスト
                 

開発の概要

 東京都調布市飛田給の当社社宅の緑地において、2010年3月からヤギと烏骨鶏(うこっけい)という品種のニワトリを用いた継続的な除草試験を実施しています。当該緑地では、試験開始まで年間2回の機械除草を実施していましたが、管理頻度の不足からセイタカアワダチソウなどの外来雑草が繰り返し繁茂する状態でした。除草試験では、刈取り調査による除草量の評価と、植生調査による主要植物の変化に関する評価、さらには集合住宅住民などへのアンケート調査を実施しました。

 その結果、主にヤギによる採食により、外来種であるセイタカアワダチソウの覆う面積や草高が大幅に低下し、ギョウギシバやアオスゲといった在来種の覆う面積や草高の上昇が確認されました。また、ヤギが採食を避けるドクダミ、ヘビイチゴ、ヤブガラシなどはニワトリが採食することにより、刈り残しのない全面的な除草管理が可能となりました。



除草試験前除草試験後
除草試験前除草試験後

 近隣住民などを対象として行ったアンケート調査では、本手法による除草を開始する前に臭いや鳴き声に対して不安に思っていた住民が「ヤギやニワトリの鳴き声や糞は気にならない」「いきものとの触れ合う機会があるので賛成」との意見に変わったことが明らかになりました。加えて、除草試験開始後にいきものや自然環境に関する会話が増えたとのデータも得られており、都市緑地におけるヤギやニワトリによる除草が自然環境に関する啓発活動にもなることが示されました。

自然環境に関する会話の有無
                           自然環境に関する会話の有無



ヤギに触れ合う子供たち採取したヤギ乳ニワトリ(烏骨鶏)
ヤギに触れ合う子供たち採取したヤギ乳 ニワトリ(烏骨鶏)
 

今後の展望:「ヤギの参勤交代」

 草が育たなくなる冬期や交尾・出産の際にはヤギを里に帰す必要があります。そのため、本年度からは、埼玉県羽生市のNPO法人「雨読晴耕村舎(代表:後藤雅浩)」と連携し、「ヤギの参勤交代」を行っています。これは東京と羽生市をヤギが行き来することで、都市では緑地の除草、近郊では休耕地の除草を実施するものです。同時に、子供から大人まで両地域の様々な人がヤギとの触れ合い活動を通して交流し、都市と近郊それぞれ抱える環境問題を共に考える啓発活動と位置付けています。春の除草を終了後、現在ヤギは羽生に滞在していますが、6月下旬には調布の社宅にやってきて夏の除草を再開する予定です。

 今後、環境負荷低減、生物多様性の保全に配慮したまちづくりを推進する手法として、様々なプロジェクトにおいても積極的に展開していく方針です。


参考ホームページ:『いきものにぎわうまち』 別ウィンドウが開きます


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