[2012/09/11]

山岳トンネルの支保工を合理化できる新しい設計プログラムを開発

〜北海道の音威子府(おといねっぷ)トンネルに適用し支保工を合理化〜

 鹿島(本社:東京都港区、社長:中村満義)は、山岳トンネルの支保工の設計に関する新しい解析手法を考案し、これを反映したFEM解析プログラム「トレーシー(TRASY;Tunneling Rational Analysis with Support Yielding model)」 を開発しました。土被りが大きく、かつ、脆弱な地盤内に建設されるトンネルに新しい解析手法を適用することで、トンネルの支保工を合理化できます。
 土被りが250mを超え、脆弱な地盤を掘削する音威子府トンネル(北海道開発局、現在施工中)にこの新しい解析手法を適用し、トンネル支保工の合理化を実現しました。

従来の支保解析手法と問題点

 トンネル支保工(鋼製支保工や吹付けコンクリート)の仕様は、岩盤の程度に応じてあらかじめ決められている標準支保パターンが一般的に採用されます。しかし、断層などに代表される地質が脆弱な箇所では、個々の地質状況を反映できる数値解析(FEM解析)が用いられます。具体的には、鋼製支保工と吹付けコンクリートに発生する応力をFEM解析で求め、双方の応力が許容値を下回るように、鋼製支保工のサイズと吹付けコンクリートの強度や厚さを決定します。

図-1 鋼製支保工と吹付けコンクリート
図-1 鋼製支保工と吹付けコンクリート

 土被りが大きい、あるいは、地盤がより脆弱な場合は、土圧が大きくなり支保工に発生する応力が増加します。このとき従来の数値解析手法を用いると、鋼製支保工の応力が吹付けコンクリートよりも先に許容値(降伏応力)を超過するので(図-2 A)、鋼製支保工の応力が許容値を下回るように支保工のサイズを大きく設計します(図-2 B)。
 つまり、従来の解析手法を用いて設計すると、吹付けコンクリートに余裕があっても、鋼製支保工の応力が許容値を超過すれば、鋼製支保工のサイズを大きくすることになります。

図-2 従来の解析手法に基づくトンネル支保工の設計方法
図-2 従来の解析手法に基づくトンネル支保工の設計方法

 しかし、実際のトンネルにおいては、鋼製支保工の応力が許容値(降伏応力)に達すると、その状態のまま壊れることなくトンネルの変形に追随し(図-3 B)、土圧がさらに増えれば、鋼製支保工に代わって吹付けコンクリートや周辺の地盤が土圧を負担する(図-3 C)ことが、当社のこれまでの実測結果から判明しました。つまり、実際は、鋼製支保工の応力が許容値(降伏応力)に達しても、吹付けコンクリートの応力に余裕がある限りトンネルの安定性は保たれるため、支保工のサイズを大きくする必要はないことがわかったのです。

図-3 実現象におけるトンネル支保への作用土圧と支保応力の関係
図-3 実現象におけるトンネル支保への作用土圧と支保応力の関係


新しい解析手法の概要

 そこで鹿島は、鋼製支保工の応力が許容値(降伏応力)に到達すると、その状態を維持しながら変形に追随し、その後は吹付けコンクリートや周辺の地盤に土圧が分散される状況をシミュレーションできるFEMトンネル解析プログラム「トレーシー(TRASY;Tunneling Rational Analysis with Support Yielding model)」を開発しました。(特許出願中 特願 2011-130236)
 具体的には、当社の保有するFEM解析プログラムに鋼材の部材特性(図-4)を考慮する機能と、部材に段階的に土圧を作用させて部材の応力が許容値に到達したかどうかを逐次判定する機能を加えました。

図-4 一般的な鋼材の応力―ひずみ関係
図-4 一般的な鋼材の応力―ひずみ関係

 この解析プログラムを用いることで、より実現象に近いシミュレーションを行うことができ、鋼製支保工の応力が許容値に到達した後も吹付けコンクリートが有する強度を最大限活用した支保設計が可能となりました。そして、この解析プログラムを音威子府トンネル(北海道開発局)に適用し、トンネル支保の合理化を実現しました。

今後の展開

 今後は、土被りが大きいトンネルや地盤が脆弱なトンネルなど、大きな土圧が作用するトンネルにおいて、この解析手法を積極的に適用し、支保工の合理化を実現することにしています。


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