鹿島(社長:中村満義)は、手術室の新しい空調システム『KVFS』(KAJIMA Variant Flow System(特許出願中))を開発し、2012年5月に開院した東埼玉総合病院 (埼玉県幸手市、事業主:社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス)に導入しました。このシステムは、従来の手術室の空調で課題となっていた、患者近傍の低温化防止と術者(執刀医)の暑熱感緩和を同時に図るとともに、患者の手術部位の感染リスクを低減する画期的なシステムです。
これまで一般的な手術室の空調システムは、手術台の上部天井の空調吹出口全面より、清浄な空気を一様に吹き出す「垂直層流型空調システム」が一般的でした。この空調システムでは、冷風が直接患者に当たるため、患者の低体温化が懸念される一方、医療機器や無影灯からの発熱などによる術者の暑熱感が問題視されており、患者と術者という狭い領域で相反した温熱環境の実現が課題とされてきました。
また、従来の「垂直層流型空調システム」での温熱環境を実測したところ、空調吹出口から一様に清浄な冷風を吹き出すことで、空気の密度差から下降気流が生まれ、手術台中央に向かって気流断面が縮小する「縮流」が生じることが分かりました。この縮流によって手術台上での清浄領域が狭くなり、手術部位によっては清浄な状態を維持できず、感染リスクが増大していました。
そこで、患者近傍の低温化の抑制、術者の暑熱感の緩和、手術部位周辺の清浄領域の確保を目的とした鹿島独自の新しい空調システム『KVFS』を開発しました。2012年3月末に竣工し、5月より開院、実際に運営を行っている鹿島設計・施工の社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院様にこの『KVFS』を導入しました。
従来の「垂直層流型空調システム」は、天井の吹出口全面から一様に空調空気を吹き出すのに対し、本システムでは吹出口を天井の中央部とその周囲部に分けて設置します。中央吹出口からは、室温と同程度の清浄空気を高速で吹き出し、手術台周辺の清浄域を確保しつつ患者近傍の低温化を防止します。一方、周囲吹出口からは、清浄な冷風を低速で吹き出すことにより、術者の暑熱感の緩和を図ります。このように中央部と周囲部の吹出口から異なる温度と異なる速度で空調することにより、手術台上部で気流断面が縮小する「縮流」が抑えられ、手術部位周辺の清浄領域が確保されるとともに、患者・術者の快適な温熱環境が実現します。
システム概念図
今回、システムの開発にあたっては、実際の手術室の温熱環境を実測し、そのデータをもとに室内の風速・温度・汚染質濃度の分布を気流数値解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)により効果予測を行いました。
風速分布予測
本システムを2012年5月に開院した東埼玉総合病院 (埼玉県幸手市、事業主:社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス)の手術室に導入しました。
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東埼玉総合病院外観 | 手術室内観(天井中央部にKVFSが設置) |
■社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス 東埼玉総合病院
所 在 地 | : 埼玉県幸手市大字吉野 |
敷地面積 | : 20,056.90m2 |
建築面積 | : 4,978.22m2 |
延べ床面積 | : 13,364.29m2 |
構造 | : RC造 |
階数 | : 地上4階(塔屋1階) |
病床数 | : 173床 |
設計・施工 | : 鹿島 |
工期 | : 2011年4月1日〜2012年3月31日 |
竣工後に病院様の協力を得て、KVFSの性能検証を行っています。検証の結果、所期の性能が確保されていることを確認できました。
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垂直層流型 熱画像 | KVFS 熱画像 |
今後は当病院にて運用していただきながら、操作性や応答性など空調としての使い勝手をさらに検証し、システムのブラッシュアップを図る予定です。また、空調機の稼働状況を長期的に計測しており、この解析データとアンケート調査により、さらに進化した手術室空調システムの構築を目指します。
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