[2012/09/04]

アクティブノイズコントロールにより山岳トンネル工事の発破音低減に成功

これまで対策が難しかった低周波音の低減策として実現場に初適用

 鹿島(社長:中村満義)は、山岳トンネル工事における発破騒音の低減に対して、アクティブノイズコントロール(ANC)技術を国内で初めて実現場に適用し、騒音低減性能として、100Hz以下の帯域において5〜10dBの低減効果を確認しました。

開発背景

 山岳トンネル工事においては、発破時に発生する騒音を最小限にする対策が、周辺環境への配慮からも非常に重要です。これまで、発破騒音を低減する唯一の方法として防音扉が用いられてきましたが、防音扉は、主として高周波成分を低減するパッシブ型の防音対策技術であり、発破音の主成分である低周波音を十分に減衰させることは困難でした。低周波音は、減衰しにくく、遠くまで伝搬するため、窓ガラスや扉のがたつきが発生するなど、周辺への環境問題を引き起こすケースがありました。

 一方、騒音と逆位相の音を解析によりアクティブに発生させ重ね合わせることで騒音を低減させる「ANC技術」は近年、様々な分野で適用が進んでいます。ANCはヘッドホンのノイズキャンセラー技術として注目を集め、近年では、工場等の排気ダクト音や自動車のマフラー音の低減など、「周期的な音」を対象として適用が進んでいます。しかし、トンネル工事の発破音は、周期的ではなく突発的に発生し、低い周波数域を含んだ極めて大きな音であること、また、日々変化する工事現場という不特定な場所でANCの構成機器を高い精度で同じ位置に設置することが難しいこと、あるいは、火薬量やトンネル長などの諸条件から発破音自体が変化してしまうなどの条件から、トンネル現場でのANCの適用は困難であると考えられてきました。

 鹿島では、これまで数多くのトンネル現場で実発破音を取得し、解析するとともに、ICTの発展によってより高速な制御が可能となってきたANC技術の発破音低減対策への導入を検討してきました。技術研究所での模擬実験で効果を確認し、このほど、四国地方の山岳トンネル現場にて、ANCシステムを構築、適用しました。その結果、100Hz以下の低周波帯域において、5〜10dBの低減効果が得られました。また、発破音の初動時からANCの低減効果が認められ、発破音のもう一つの特徴である衝撃音(急激な立ち上がりで大きく変化する音)に対しても十分な効果があることが分かりました。

 今後は、より一層の低減効果の拡大を図り、全国のトンネル工事現場に適用して、周辺環境への影響を更に低減するための技術として提案、実施していく方針です。


システム概要

 本システムは、参照マイクと制御スピーカ、アンプ、誤差マイク、及び、パソコン、制御装置から構成されます。発破音の特性、坑口の地形、防音装置(扉)の位置や形状に応じて、構成機器の仕様や配置を事前に設計し、シミュレーションによって確認します。

   制御手順は、参照マイクで測定された発破音データがPCに入力されると、制御用機器で誤差マイク地点での音を最小にする解析を瞬時に実施します。その結果を発破音の到達に合わせてその逆位相の信号を制御スピーカに出力するとともに、誤差マイクで測定された音は高速解析され、その結果はリアルタイムに制御スピーカの制御に反映されます。このように発破音が続く限り参照マイクと誤差マイクからのデータによって生成される逆位相音によって消音、低減が可能になるという仕組みです。
 


トンネル発破用ANCシステムの概念と構成機器
トンネル発破用ANCシステムの概念と構成機器


トンネル現場での実験状況(トンネル坑口にANCシステムを設置)
トンネル現場での実験状況(トンネル坑口にANCシステムを設置)


システムの性能

 今回のトンネル現場での実証試験では、ANCのオン時にはオフ時に比べて音圧が低下していることが確認でき、時系列波形を見ても、全ての時間帯で音圧レベルの減少が確認できました。その大きさは最大で7〜8dBであることが分かりました。
 また、これらのデータから発破音の初動時からANCの効果があることが認められます。すなわち、突発的な音に対しても遅れなく制御できていることが確認されました。

ANC有無の比較(音圧時系列波形)
ANC有無の比較(音圧時系列波形)


ANC有無の比較(音圧レベル時系列波形)
ANC有無の比較(音圧レベル時系列波形)


 なお、相対音圧レベルの周波数スペクトルを見ても、100Hzまでのほぼ全域でANCによって最大10dB程度の低減を確認することができました。

今後の展開

 鹿島では、本システムの低周波帯域の騒音低減率をさらに高めるとともに、今後は高い周波数帯域まで適用範囲を拡大させる予定です。
 また、トンネルごとに構成機器の仕様、設置形態、及び制御パラメータの事前調整を行う設計法をブラッシュアップして、様々なトンネル形状、発破音特性に対して最適なANC効果を発揮できるシステムの確立を目指すことにしています。


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