[2013/09/02]

歩行者シミュレーションシステム
「Sim-Walker®(シム・ウォーカー)」の開発と展開

改良工事中の駅構内で歩行空間の安全性・円滑性を定量的に評価

 鹿島(社長:中村満義)は、駅改良工事などにおいて、駅を利用する歩行者の安全性確保と円滑な通行に配慮した施工計画の立案支援を目的として、歩行者シミュレーションシステム「Sim-Walker®(シム・ウォーカー)」を開発しました。本システムは、時々刻々と変化する駅構内の歩行者流動をシミュレーションで再現し、改良工事中に制約を受ける歩行空間を多面的に評価することで、ボトルネックの把握や改善案の検討を行い、施工計画に反映することを目的としています。本システムにより歩行者の動きを可視化し、定量的に評価することで、安全かつ円滑な歩行空間を確保することができます。


シミュレーションアウトプット例三次元グラフィックスソフトと連携したアウトプット例
シミュレーションアウトプット例三次元グラフィックスソフトと連携したアウトプット例

開発の背景

 近年、都市部で増加している既存駅の改良工事などでは、駅構内の一部を工事ヤードとして占用する場合があります。その際の施工計画では、作業の安全性・経済性を確保しつつ、旅客の安全性・快適性を損なわない、通路やコンコースの確保、仮設通路の配置等を慎重に検討することが重要です。
 従来の歩行空間の評価には、流動係数や旅客密度に基づく評価基準が用いられてきました。しかし、この手法は、通路等のように幅員や人の流れが一定の場合を対象とした静的な評価手法であり、駅構内特有の通路・柱等のレイアウト、列車の発着に伴う旅客数の著しい時間変動や空間的な密度のバラつきといった動的な状況を十分に評価することができませんでした。
 そこで当社は、駅構内におけるさまざまな歩行挙動データを収集し、これらを的確に再現できる歩行者シミュレーションシステム「Sim-Walker」を開発しました。

システムの概要と特徴

 「Sim-Walker」では、歩行者一人一人に歩行速度や他の歩行者との接近許容距離などの行動特性を任意に設定することで、歩行空間内に群衆を再現し、歩行者流動を動的に検討・評価できます。既出の学術論文の歩行挙動モデルをベースに、実現場で独自調査した駅構内の歩行行動ロジックを付加することで、より現実に近い歩行者流動の再現が可能になりました。また、歩行空間の条件に応じて新たなロジックを自由に付加できる拡張性も有しています。

                           ※浅野美帆:歩行者交通流動評価のためのシミュレーションモデルの開発−予測を考慮して,
                             東京大学大学院 工学研究科 社会基盤工学専攻 博士論文,2007


 「Sim-Walker」を用いた歩行空間評価の基本的なフローは以下の通りです。
 歩行者流動は空間の形状や歩行者の特徴、利用目的によって多様であるため、まず、「現状再現シミュレーション」を行い、システムの再現性確認と正確な予測解析を行うためのインプットデータを作成します。続いて、「原計画のシミュレーション」で歩行空間のボトルネックを把握するとともに改善案の検討を行い、「改善案のシミュレーション」でその効果を確認します。

Sim-Walkerを用いた歩行空間の評価フロー

Sim-Walkerを用いた歩行空間の評価フロー


 歩行空間の定量的な評価のためには、解析結果の複数の評価項目について、空間を任意のメッシュで分割したカラーコンター表示を用います。
 以下に示す解析結果のカラーコンター表示は、空間を2mメッシュに分割し、10秒刻みの歩行者密度を集計したものです。赤くなるほど、高い歩行者密度が継続することを意味しています。新たな動線を確保する改善案では、コーナー部の混雑が大幅に緩和されることがわかります。
 このほかにも、「歩行速度」、「交錯・回避」、「滞留時間」といった評価項目において同様の表現をすることが可能であり、歩行空間の特徴を多面的に把握することができます。

歩行者通路の提案と検証結果例(歩行者密度)
歩行者通路の提案と検証結果例(歩行者密度)

今後の展開

 本システムは、これまで6件の駅改良工事の調査・施工計画立案に適用してきましたが、今後もさらなる実績の積み重ねとシステムの改善を進め、歩行者の安全性・円滑性に配慮した最適な施工計画立案に役立てていきます。
 また、本システムは自社開発のため、現地条件に応じた歩行行動ロジックの追加や高度化を容易に行うことができます。工事中の駅構内の評価だけでなく、歩行空間が近接する都市部の開発や工事、避難計画等、多様な歩行空間へ展開を図っていく方針です。


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